2013年5月1日水曜日

ブリーフ・ガーデン

スリランカのベルワラに滞在中、建築家ジェフリー・バワの別荘、ルヌガンガ(Lunuganga)を見に出かけたのだが、4月14日のスリランカのお正月の週だったため、残念ながらお休み。そこで彼の兄で造園家だったベヴィス・バワ(Bevis Bawa)が作ったブリーフ・ガーデン(Brief Garden)に行くことにした。

ベントータから車で20~30分内陸に行き、ブリーフ・ガーデンに到着。受付はなく、門は閉まっている。ここも休みかと思ったが、門の上にある鐘を鳴らしてしばらく待っていると、チケットの束を手にした係の男性がのんびりと出てきた。

中に入ると、熱帯のジャングルのような庭が続く。一見無秩序なようで、よく見ると竹林や灯篭など、アジア各地のオリエンタリズムが上手に融合された庭園であることに気づく。でもそれはあくまでもさりげなくて、自然の森にいるような錯覚を覚えながら歩く。

アンリ・ルソーの絵画に出てくる空想上のジャングルは、ここなら実在しそうな気がする。

庭園を散策した後、係の人の案内でべヴィス自身が住んでいた家を見学。造園がメインだったべヴィスだが、家も彼自身がデザインしたそうだ。

室内にはべヴィス自身の作品も含め、数々のアートやオブジェが飾られているが、最も目を引くのは友人でオーストラリア人の画家が描いたリビングの大きな壁画。スリランカの人々の生活を表現したものらしいが、仏画のような、絵本の挿絵のような、不思議なタッチ。

ここは1954年のハリウッド映画「巨象の道」の撮影にも使われ、主演だったヴィヴィアン・リーがローレンス・オリヴィエと共に訪れた際の写真も飾られていた。(その後、ヴィヴィアンは病気のため降板し、エリザベス・テイラーが代役を務めた。)


見学後、現在のオーナー夫妻がお茶とクッキーでもてなして下さり、色々な話を伺うことができた。ブリーフ・ガーデンは、元々ゴムのプランテーションだった土地をべヴィスが相続し、自身の家と庭園に作り替えたそうだ。造園技術は誰に習ったわけでもなかったというべヴィスは、弟のジェフリーと同様、天性の才能に溢れた人物だったのだろう。両親からヨーロッパやアジアの様々な国の血を受け継いでいたことも、一つの要素だったかもしれない。商売上手な面もあり、イギリス留学中には王族の子息のふりをして上流階級のソサエティに溶け込み、後のビジネスの獲得につなげたらしい。

弟と同様、生涯結婚せず跡取りがいなかったべヴィスは、亡くなった際に弟子に土地を分割して与えた。そのうちの一つが、現在ブリーフ・ガーデンとして公開されている部分だ。

バワ兄弟は日本ではあまり知名度が高くないが、弟のジェフリーは「トロピカル・モダニズム」で知られ、アジアで最も影響力があった建築家の一人。兄のべヴィスのブリーフ・ガーデンにも、建築や造園を学ぶ各国の若者たちが訪れる。


オーナーは、べヴィスが残したこのブリーフ・ガーデンが将来も保護されるよう、ナショナルトラストに託すことを考えていると言っていた。

オーナー夫妻にお礼を言い、ブリーフ・ガーデンを後にした帰り道、タクシーの運転手さんが、あの気さくで温和なオーナーは、べヴィスの一番弟子だった人で、スリランカでも有名な造園家だと教えてくれた。

あの家の脇には、ブラック・リリーと呼ばれる、見たこともない花が咲いていた。一目見たときは生の花であることが信じられなかったくらい、黒い鋼で造られた完璧なコサージュのような外観を持つ。これほど不思議な花を見たことはない。

あの花が咲き続ける限り、バワの理想郷は守られていくような、そんな気がした。