2017年9月11日月曜日

アルス・エレクトロニカ 2017

ヨーロッパのアート・フェスティバルを巡る旅。年に1回、オーストリアのリンツで開催されるデジタルアートの祭典「Ars Electronica Festival」を見に行った。

リンツはウィーン空港から電車で2時間弱。トラムが走る、ヨーロッパのごく普通の中都市という印象。そこにベースを置くアルス・エレクトロニカという機関は、アート、テクノロジー、ソサエティの3つをキーワードとした研究をしており、その集大成となる年1回のフェスティバルでは世界の先端テクノロジーとそれを駆使したアートが披露され、賞を競う。今年はAI(人工知能)がテーマ。

 このイベントは80年代から拡大を続け、今ではリンツ市内の数か所の会場に分かれて開催されている。

メイン会場の一つ、アルス・エレクトロニカ・センターでの展示の目玉は、8KのARシアター。ゴーグルをかけて席に着くと、前の大型スクリーンと床に映像が投影される。写真ではわからないが、雪山の質感や、そこに登場する紙人形風の生き物たちが目の前で動く様は、かなりリアル。人間の絵はまだゲームの中のCGのようだったが、その辺りはすぐに改善できるだろうし、ますます面白くなりそう。近い将来のエンターテイメントとして期待したい分野。

もう一つのメイン会場は、中央駅の隣のPostcity(ポストシティ)。今は使われていない郵便集配場だった大きな建物。ここではハイライト・ツアーに参加し、スタッフの案内でいくつかの目玉展示を見て廻った。

面白かったのは、「指紋の池」という作品。台の上をたくさんの指紋が泳いでいる。参加者が人差し指をスキャナーの上に置くと、その指紋の画像が泳ぎ出て行って、集団に合流する。すごいのはここからで、同じ人があとでまたスキャナーに指を置くと、集団の中からその人の指紋が戻ってくる!感動的でさえあった。

AIが作った言語をロボットが書いている展示もあった。

美しさで目を引いたのは、後藤映則さんの「Sculpture of Time」。時間を形状化した「Toki」シリーズは去年の六本木アートナイトでも展示されていた。今回のアルスでは、ダンサーの動きをデータ化して3Dプリントした彫刻に投影した作品や、数字が躍る作品などを展示していて、ツアーの他の参加者も、皆うっとりとしたように鑑賞していた。


地下のトンネル状の構造を活かしたサウンド装置も多かった。

新素材や、AIがデザインした洋服などの展示もあった。やはり先端技術となると日本の得意分野のようで、全体として日本からの出品が多かったと思う。

しかしこの会場のポストシティ、かなり暗くて、こわい。展示の多くは地下にあるのだが、廃屋をそのまま使ってるというか、通路などは肝試しか思うほど暗いところもあり、ツアーで他の人たちと一緒だったから良かったものの、一人だったら確実に躊躇していた。ヴェネチア・ビエンナーレを見た翌日だったため、落差が大きく感じられたのかもしれないが、せっかくの最先端技術も、アングラな感じを受けてしまう。ましてや、人の細胞を再生して手を作る?ような展示が薄暗い空間に浮かび上がっていたら、これはもうホラーである。

ツアーを案内してくれたスタッフの話では、ポストシティは取り壊しが決まっていて、次の会場をどうするかが課題となっているそうだが、これを機会に新しいところを見つけたほうがいいと心から思う。明るい未来のためのテクノロジーは、明るい場所で見せてほしい。

さて、気を取り直して、夜は別の会場のセント・メアリー大聖堂へ。ここの展示は素晴らしかった。

「Light Scale II」という作品で、20メートルほどのクジラ型の吹き流しのような物体が動き、そこに光が投影され、サウンドとともに幻想的な空間を作り出す。クジラは人が向きを変えることができ、それに合わせて映像も変化する。教会という神聖さと荘厳さ持つ場所と、現代のテクノロジーが融和した美しい展示だった。


どんなにテクノロジーがアートの領域に入ってきても、未来のアートも美しくあってほしいと願う。