2017年12月16日土曜日

オスカー・ラインハルト・コレクション

スイスのヴィンタートゥールは、アートファンなら一度は訪れたい街だ。

チューリヒから列車で25分ほどのヴィンタートゥールは、スイスで6番目の人口を持つ都市。19世紀には工業や金融などの産業が栄え、資産家たちがパトロンとなり文化と芸術の都となった歴史を持つ。今ではハイテク産業の中心地だそうだが、観光客にとっては「City of Museums」なのだ。

代表的な美術館は「オスカー・ラインハルト・コレクション アム・レマーホルツ」。

オスカー・ラインハルトは裕福な貿易商の家に生まれ、アートパトロンだった父親の影響を受け自らもアート蒐集に情熱を注いだ人物。ラインハルトが愛する作品に囲まれて暮らした邸宅が、彼の死後、1970年に美術館として公開された。


ラインハルトは特にフランスの印象派絵画を愛したが、それに限定せず、ヨーロッパ美術を包括的にカバーした美術館を作ることを目指した。コレクションは19世紀のフランス絵画を中心に、後期ゴシックから20世紀まで及び、ゴヤ、ドラクロワ、コロー、クールベ、モネ、ルノワール、セザンヌ、ゴッホなどが名を連ねる。


しかし彼の興味の対象は優れたアーティストであり、歴史上の文脈や、特定のアーティストの作品を集めることにはあまり関心がなかったらしい。優れた作品という観点で集めた結果、各時代の粋を集めた珠玉のコレクションが生まれた。


展示はラインハルトの実際の作品の飾り方に近く、必ずしも時代別ではなく、芸術的アプローチによって分かれている。特に最も大きな「The Picture Gallery」と呼ばれる部屋には、様々な時代の様々なアーティストの風景画が比較展示されている。聖地へ向かう道という宗教的な意味が背景にあった17世紀半ばのフィリップ・デ・コーニンクの作品と、同じような風景だが宗教の要素が消えた19世紀初めのジョン・コンスタブルの作品、そして雰囲気や光にもっとフォーカスした19世紀後半の印象派ルノワールの作品が並ぶ。また別の部屋では、18世紀半ばのジャン・シメオン・シャルダンの桃の静物画と、19世紀終わりにやはり桃を描いたセザンヌの静物画が並んでいる。

素晴らしいコレクションを、そのコレクターの視点を通して鑑賞できるのは興味深い。

ラインハルトのコレクションのうち、18世紀から20世紀のドイツ、スイス、オーストリア美術は、彼自身がヴィンタートゥール市に寄付し、1951年にオスカー・ラインハルト美術館として公開され現在に至る。こちらも必見。公園の中の古い校舎を使っている。



そのクラシックな館内に突然、現代的な空間が出現。階段の上のギャラリーでは20世紀スイスの新即物主義の展示があった。


オスカー・ラインハルトの二つの美術館は、1-day Museum Passを買って、ヴィンタートゥール駅から1時間に1本出ているミュージアムバス(ミニバン)で廻るのがいい。このほか、レジェ、クレー、モンドリアンなどモダンアートが見られるヴィンタートゥール美術館も、オスカー・ラインハルト美術館のすぐ近くにある。