2018年12月14日金曜日

シャンパーニュのメゾン巡り ①G. H. Mumm

シャンパーニュ地方のランスを訪れた。(ランスはReimsと書くほうで、ルーヴル別館があるLensとは別。)シャルルドゴール空港から直行TGVで30分ちょっとでアクセスでき、シャンパーニュ旅行の入り口として、とても便利。

街の中心にあるノートルダム大聖堂は、シャガールのステンドグラスでも知られる。この時期は周りにクリスマスマーケットが出ていて、様々な露店に並んで「シャンパン・キオスク」があるのも、この地方ならでは。


今回はMummのカーヴ見学ツアーを前もって予約していた。F1のコルドンルージュのイメージが強いが、もうスポンサーからは撤退している。

まずMummのシャンパン作りについてガイドさんの説明を受ける。シャンパーニュ地方各地に畑を持つMumm。ブドウの出来は気候や畑によって毎年異なるが、Mummのような大手の場合、同じ商品は常に同じ味でなくてはならないため、前年までのリザーブワインをブレンドして味を整え、均一化する。

上に並ぶのがリザーブワインの瓶
ステンレスタンクに移行する前、1980年代に使っていたコンクリートタンクが並ぶ通路。真ん中をトレードマークの赤いリボンが貫く。タンクの中は浴室のようなタイル張りだった。


地下14mの深さにあるセラーへ降りる。水分を含みやすい石灰岩を掘って作られた通路の全長は25㎞に及び、ここで2500万本のシャンパンが熟成されている。ランスでも最も長いセラーの一つで、スタッフでも迷うことがあるため、各通路には通りの名前がついている。


ボトルを回しておりを瓶の口に集める作業は、通常のボトルは機械でできるが、マグナムなど規格外のボトルの場合は人の手で行われる。20度から60度まで、決まった角度にボトルを傾けながら、1時間に何千ものボトルを回す熟練の技。作業前には棒を使ったストレッチが必須だそう。

Mummのシャンパンの熟成期間は他社より長く、ヴィンテージ・シャンパンは5年間熟成される。今年(2018年)のブドウの出来は良く、ガイドさんによると、おそらくヴィンテージが作られるが、まだ誰にもわからないとのことだった。

製造過程にかかる人の手間と時間を考えると、シャンパンの価格が高いのも納得できる。

ひと通り見学が終わろうとした頃、一緒にツアーに参加していたオランダから来たカップルの男性が、私にスマホを渡して、写真を撮ってほしいと言った。二人の普通の記念写真を1枚とってあげたところで、彼はおもむろにポケットから小さな箱を取り出し、彼女の前にひざまずいた。私はここで、彼が私にスマホを渡した本当の意図を理解した。彼がプロポーズの言葉を述べ、驚く彼女が笑顔に変わる頃から、私はとにかくシャッターボタンを押し続けた。あのさ、私もただの観光客なんだから、いきなりこんな重要な局面の撮影任せないでよね、責任重大じゃないのよ、と思いながらも、こちらも幸せのおすそ分けをもらった気持ちになっていた。ガイドさんも「私もここで20年働いてるけど、こんなことは初めて!」と驚いていた(そりゃそうだろうと思う。)

これで、このカップルの結婚式でMummのシャンパンが振舞われることは確実だし、記念日も必ずMummでお祝いするだろう。もしかすると彼らの子供たちも、その逸話と伝統を受け継いでいくかもしれない。彼がそこまで考えて他のメゾンではなくMummをプロポーズの場に選んだのかは不明だが、結果として、素晴らしいチョイス!

最後のテイスティングでは、まず香り当てクイズから。3種類の香りをかぎ、それが何の香りかを当てる。これらはコルドンルージュの香りに含まれる要素とのことで、正解はレモン、アプリコット、そしてブリオッシュ(!)だった。こういう複雑な香りを毎年均一化するって、どれだけ大変なことかと思う。


カップルはお祝いのシャンパンのボトルを買って帰って行った。写真はちゃんと撮れていたらしい。安堵。