2019年9月9日月曜日

石の美術館

那須に素敵な石の建物があると知り、足を延ばした。
那須塩原駅から、観光地とは反対側の東方向に約30分の「那須芦野 石の美術館 Stone Plaza」。

芦野は旧奥州街道の宿場町で、昔からの石の産地でもある。その芦野石で作られた古い米蔵が、隈研吾氏の設計で、複数のギャラリーを持つ空間に再生されたのがこの美術館。芦野石の産業や文化を語り継ぐ場でもあり、街並みづくりにも一役買っている。


 「石倉ギャラリー」という一番奥の最も大きな米蔵と、新しく石で作られた周りの建物を、水上の石の通路がつなぐ。

薄い白大理石から外光が透けて見える「石と光のギャラリー」と、石を積み上げて作られた壁のスリットから、外の光と風がそのまま差し込む「石と水のギャラリー」は、石の特性と、石ならではの工法を活かしている。

「石の茶室」では、同じ芦野石を使いながら、焼成の温度の差で違う素材感を出した柱が並ぶ。

各ギャラリーでは、隈研吾氏の作品や、小さな企画の展示があるが、ここはむしろ、中身より建物を鑑賞したい美術館だと思う。


2019年9月1日日曜日

水庭

那須といえば緑豊かな高原をイメージする。実際、関東の北限と東北の南限に当たる那須は、北方系植物と南方系植物が混在するユニークな土地だそうだ。

そんな自然の宝庫である那須に、人口の森ができたと聞いたら、何のために?と、最初は思う。

正確には森ではなく庭で、アートビオトープ那須に2018年6月にオープンした「水庭」は、自然の中に作られた自然。それを見に人々が訪れる。

そして、訪れる価値は十分にある。


見たことがあるような、ないような、不思議な風景。

広い森に様々な種類の木々が生え、苔が生えた地面に大小の飛び石が道を作る。木々に囲まれ、木々を囲むたくさんの池にはアメンボも泳ぐ。

水庭を設計したのは、2010年のヴェネチア建築ビエンナーレで金獅子賞を受賞した建築家の石上純也氏。

隣接するヴィラとレストランの建設予定地で伐採されるはずだった318本の木を移植し、160の人口の池とともに配置したのが、この水庭。一見自然に、そして極めて巧みに作られている。全ての木を移植するのに4年もかかったらしい。

木が一直線に並ぶところはひとつもなく、池の大きさも場所によって異なる。ランダムなようで、石上氏は移植の前に318本の木をすべてきちんと採寸して配置を決めたそうだ。そう聞いて驚いたが、建築家としては当たり前の手順なのだろう。サイズも特徴もバラバラの自然を数値化することが、美しい調和に不可欠な作業であることは想像できる。

この土地は最初は森林だったのが水田になり、その後、牧草地となったそうだ。そこに森を作ることで元の自然に還していく、というコンセプトが水庭にはある。


これから10年、20年と時を経るにつれて、設計された自然の美が、大自然の中でどう変化していくのか興味深い。作った人たちがいなくなった遠い未来でも、水庭はアートとして存在しているだろうか。