2019年10月27日日曜日

カルミニャック財団美術館

ポルクロル島という地名を聞いたことがあるでしょうか。

南仏の町イエール(Hyeres)からフェリーで20分のこの島に、素晴らしい美術館がある。2018年にオープンしたカルミニャック財団美術館(Fondation Carmignac)は、自然とアートと建築が融合した、まさにデスティネーション・ミュージアムと呼べる場所だ。

ポルクロル島は地元の人にとっては気軽なリゾート地で、朝のフェリーは家族連れで一杯だった。上質なワインの産地でもあり、最初にコート・ド・プロヴァンスのワインに認定されたうちの一つ。


カルミニャック財団美術館は港から徒歩で10分くらいのところにある。レンタサイクルで散策するファミリー客を後目に、舗装されていない坂道を静かなほうに歩いていく。もっと大々的に案内看板が出ているかと思ったが、時々「現代美術館まであと0.2km」と小さく表示されている程度で、実に目立たない。





たどり着いた美術館の入口は、ひっそりとした森の入口のようだった。


自然の保護に取り組んできたポルクロル島において、この土地も国立公園に指定されている。その広大な敷地の中、庭園やオリーブ畑に囲まれる形で小さなヴィラがある。


そもそもここが美術館になったのは、財団の長であるカルミニャック氏が、ヴィラの元のオーナーの娘と俳優のジャン・ロシュフォールの結婚式に出席した際、この場所に一目ぼれしたことに始まったそう。カルミニャック氏はここを買い取り、アートサイトに転換するのだが、小さなヴィラでは作品を展示するスペースが足りず、また国立公園なので、建物の面積をただ拡げるわけにもいかない。そこで自然の面積を減らすことなく、ヴィラに面積2000平米の地下室を作り、広い展示スペースを実現した。

地下とはいえ、天井に大きなガラス窓を設け、その上に水を張ってあるので、地下とは思えない明るく柔らかい光が差し込む空間になっている。
この日はたまたま撮影をしていたため水の中に入っている人がいた

美術館は4月から11月初めまでのみ開館し、展示内容は毎年変わる。入場は30分ごとにずらし、各回50人までに限定。入口で靴を脱ぎ、石の床の感触を感じながら階下に降りていく。


展示は財団のコレクションを中心に、マックス・エルンスト、ロイ・リキテンシュタイン、エゴン・シーレ、ゲルハルド・リヒターなど、20世紀のアーティストの作品がメイン。今年はイギリスの女性現代アーティスト、サラ・ルーカスの特集もあった。


スペインのミケル・バルセロの作品が展示された「チャペル」は、床に寝転がって、海に囲まれた感覚で鑑賞できる癒しのスペース。


でも何よりこの美術館を特別な場所にしているのは、その庭園。建物を出て、向こうに海を臨む庭園を見下ろしたとき、なんとも言えないすがすがしい気持ちになったのだ。ここはパワースポットでは?とさえ思ったが、そうでなかったとしても、美しい場所なことは間違いない。


あちこちに隠れたアート作品を探しながら、ススキの茂る散策路を歩いて廻るのも、ちょっと楽しい宝探し気分になれる。



2時間くらいの滞在で、自然とアートを満喫した。

イエールもポルクロル島も、日本からの旅行先としてはポピュラーではないが、カルミニャック財団美術館は、わざわざ足を延ばす価値がある。春から秋の南仏旅行の際は是非、日程に加えることをお勧めしたい。