2013年5月17日金曜日

印象派たちの光と色〜パリ オルセー美術館

ル・アーヴルから列車に2時間でパリに到着した。今回の印象派めぐりの旅も終盤。

サン・ラザール駅に着いたときのパリは小雨が降っていたけれど、すぐに止んで晴れ間が出て、かと思えば10分後には本降りになって、また止んでという具合に、山の天気かと思うほど今日のパリの天気は変わりやすい。気温も5月とは思えない低さで、持ってきた春服は使えそうにない。でも春の花は街のあちこちで見られ、本来の季節を思い出させてくれる。

ここまでプロヴァンスとノルマンディーで見てきた印象派のゆかりの地の数々が、実際の作品でどう描かれているかを見るために、いよいよオルセー美術館へ。パリに入る日を木曜日にしたのは、オルセーが夜遅くまで開館している日だから。時間を気にせずゆっくり鑑賞できる。


オルセーは2011年に大改装を終え、展示スペースが一新された。印象派の芸術家の作品を5階に集め、その中で年代別にコーナーを分けていて、とてもわかりやすい展示になったと思う。ポスト印象派に分類されるゴッホは2階に展示されている。

まず、セザンヌの「サント・ヴィクトワール山」(1880年)。エクス・アン・プロヴァンスで見た白い岩の山は、展示されていた絵ではやや赤みがかった色を帯びていた。あの山は、セザンヌに対してはいつも表情を変える存在だったのだと改めて思う。

次にノルマンディーのモネ。パリからの出発点の「サン・ラザール駅」(1877 年)は、蒸気機関車の煙が上がり、今よりホームの数が少ないが、駅舎の形は今も変わっていない。

ルーアン大聖堂」(1892、93年)は連作のうち3作品が並んで展示されている。朝、午前中、そして曇り空の光。全て同じアングルから描かれているが、聖堂も空も、色彩は全く異なる。あのファサードの緻密な細工は、絵では判別がつかないが、それがこの複雑な色を生み出しているのだということは、実際に聖堂を見てきた今ではわかる。



現在のエトルタ
エトルタのモネの絵は2枚あり、ひとつは「エトルタの砂浜」(1883年)。白い崖と海だけを描いた「エトルタの断崖」とは違い、砂浜に置かれた漁船も描かれている。風景だけでなく人々の生活がそこにあったことをうかがわせる。今でもエトルタの浜には、同じように船が並んでいた。もうひとつは、印象派の前の時代に描かれた「エトルタの大きな海」(1865-69年)。同じエトルタの海と崖を描いたものだが、光に溢れるおなじみの画風とは異なり、暗いタッチで、輪郭も荒い。同じ題材でも時代によってこうも作風が違っていたのかと、興味深い発見。また、エトルタはもう一点、ギュスターヴ・クールベの「嵐の後のエトルタの崖」という作品も展示されていた。写実主義で知られるクールベのエトルタは、やはり写実的だった。


ああ、印象派の絵をこれほどわくわくと心躍るように見たことがあったろうか?芸術家たちが描いた土地を旅し、自分の目で絵の風景を見て、歩き、作品の背景に思いを馳せておくことが、こんなにも感情移入のレベルを高めるものかと、改めて実感する。絵を見てからその土地に旅するのも勿論いいが、旅をして、その興奮が覚めないうちに絵を見に行くほうが、鑑賞時の感動レベルは高く、作品への理解も深まる。

充実した気持ちでオルセーを後にした。

次はゴッホの晩年の地、オーヴェル・シュル・オワーズへ。