鹿児島県にある「霧島アートの森」へ。
鹿児島空港から車で約40分、公共交通機関で行くなら電車やバスやタクシーを乗り継ぐ必要があり、旅行者にとっては決してアクセスがいいところではない。でもそのために旅する価値が十分ある場所だった。
霧島アートの森は県立の美術館でオープンは2000年。公立美術館としては比較的新しい方かもしれない。屋内所蔵作品は20世紀以降の国内外の著名アーティストの名前が並び、その多くが大型の彫刻作品。定期的にコレクション展と企画展をやっているが、むしろコレクション展の時期を狙っていくのもいいと思う。
屋内展示もさることながら、ここの最大の魅力はその名の通り屋外に拡がるアートの森。栗野岳の麓の豊かな自然の中でアートを楽しめる。高原とはいえ木々には南国らしい緑の濃さと深さがあり、その雰囲気もたまらなく良い。
野外展示作品は各作家がこの地を訪れて作成したオリジナルばかり。霧島の自然から受けたインスピレーションがそれぞれの形で表現されている。
樹林ゾーンでは地図を片手に作品を探しながら歩く。ちょっとオリエンテーリング気分。木々の間から忽然と現れる作品にはタイトルだけで説明はなく、見る者の想像に任せられる。(いちおう解説の小冊子も用意されているが、それは後で作品を思い出しながら読んだほうがいい。)人によるかもしれないが、自然環境の中で見るアートは、その意味を考えるより先に風景として捉える。個々の作品の好き嫌いは置いても、風景として調和しているか、していないかの第一印象はとても重要なものだと思う。霧島アートの森の作品は、ほとんどがそこに上手に存在していた。
「溶け込む」ことを突き詰めた作品はアントニー・ゴームリーの「インサイダー」。これ、その場に行ってもよく見ないとどこにあるかわからない。昆虫の擬態のようだと思った。
自然環境と一体化した作品で知られ、昨年(2021年)5月に亡くなったダニ・カラヴァンの「べレシート(初めに )」。スリットから光が差し込む暗いトンネルの先端まで行くと、高台から見下ろすパノラマ風景が開け、森の中だけで閉じていた視点が変わる。