2020年10月30日金曜日

銀座駅の光

 銀座駅のリニューアルで設置された吉岡徳仁の作品を見に行く。



B6出口近くの壁に輝く「光の結晶 Crystal of Light」という光の彫刻。太陽光が届かない地下の空間において、636個の六角形のクリスタルガラスで、ランダムな自然光を再現したものだそう。この写真ではわからないが、世界平和への祈りを込めて光で世界地図を表している。

周りを見ると、吉岡氏の作品に合わせたかのように、駅のライティングも美しく変身していた。路線ごとに色分けされた照明が利用者たちを導く。今まで地下鉄の各路線の色は記号としか見ていなかったが、こういう色と光の空間を前にしたら、その時の気分で路線を選んでしまいそう(実際、無理だけど)。




こういう環境では、駅構内は素早く通り過ぎるもの、という習慣が崩れる。辺りを見回していたら、もう一つの作品に気づいた。

これまでの人生で何百回も前を通り、視界には入っていたはずのそのステンドグラスに初めて目を留め、近づいた。平山郁夫画伯の「楽園」という1994年の作品だった。すみません、今まで25年以上も気づかず。

吉岡氏の作品の光のお蔭で気づきが多かった銀座駅。これからは歩みを緩めて通ろう。


2020年10月29日木曜日

立川でアート・ハンティング

ドナルド・ジャッドの遺作が立川にあると知ったのは最近のこと。なんで立川に?という驚きと同時に興味が湧き、行ってみた。

立川駅北口の複合施設エリア「ファーレ立川」は、知る人ぞ知るパブリック・アートエリア。109の現代彫刻があり、全て公道上で見ることができる。現代というより20世紀アートと言った方が適切かもしれない。1994年、米軍基地跡地の再開発で生まれたその街のために、36カ国92人のアーティストたちが作品を寄せた。その中にはジャッドのように世界的に知られたアーティストも少なくない。

実際に歩いてみると、個性的な作品に彩られた街は楽しい。あちこちの車止めにも遊び心満載。



かなり存在感があるアートが街にすっかり溶け込み、当たり前になっているその雰囲気にシュールさも感じる。高さ4メートル近いこの巨大なショッピングバッグは換気口カバー。


大きな植木鉢の手前にある自転車はロバート・ラウシェンバーグの作品。駐輪場の看板で、夜になるとネオンが点灯する。


ニキ・ド・サンファルのベンチ。この人の創作活動はガウディのグエル公園にインスパイアされたと知り、とても納得する。


鉄でできたアニッシュ・カプーアの「山」。赤土のグランドキャニオンを思い起こす。鏡面の作品の印象が強い人だが、こういうのも作っていたのか。

宮島達男の作品は残念ながら故障中。でも一目で彼の作品だということはわかる。


大好きなフェリーチェ・ヴァリーニの作品も二つ。こんな近くにあったことを今まで知らずにいたなんて。きれいな円は一点からしか見えない。彼の作品は空間に突然物質を生み出す魔法のようで、わくわくする。



今年ニューヨークのMOMAで回顧展が開かれているドナルド・ジャッド。立川にある彼の遺作は、二つに仕切られた7つの箱が壁面に並んだもの。ミニマリズムと定義されるのを本人は嫌ったらしいが、直線と原色で構成されたジャッドらしい作品。作品の完成前に亡くなったジャッドの遺志を継ぎ、彼が病床で作ったプラン通りにアシスタントたちが完成させたそうだ。「無題」なので、ジャッドが立川に向けて込めたものを想像するのは難しい。


ファーレ立川では、わかりやすい紙のアートマップの他、専用アプリも用意されている。今回はアプリをダウンロードして廻ったが、これがなかなか便利だった。作品の近くに行くと自動的にその作品の説明が表示されるので、素通りしそうになっていた作品に気づくこともある。2時間弱で109の作品を全て制覇できた(と思う)。しかし、アプリが突然強制終了してしまうこと数回。バッテリーも消費が早くなるので、その点はご注意。


もしくは気ままに歩き、好きな作品との出会いを待つのも楽しいはず。立川は贅沢なアート散歩ができる街だった。

2020年10月26日月曜日

中銀カプセルタワービル

銀座8丁目にある中銀カプセルタワービルの見学ツアーに参加。かなり面白かった。

「保存・再生プロジェクト」の方の案内で建物内に入り、その歴史と現状についてのお話を伺いながら見学した。

黒川紀章の設計で1972年にできたこの独特な建物は、二つのタワーに分かれていて、合計140のカプセルがついている。カプセルは全て10平米、はめ込みの窓が一つ、ユニットバスがあるが、キッチンはない。白い壁面には作り付けの収納棚と机と、当時としては最新鋭のソニー製のブラウン管のテレビ、ラジオ、オープンリールのオーディオシステムが埋め込まれている。無駄なものは何一つなく、入居するほうも持ち物を最小限にすることが求められる。物を所有することが豊かさの象徴だった高度経済成長期にあって、このコンセプトは哲学的ですらあったと想像する。

ビジネスカプセルとして売り出された当時のパンフレットを見ると、部屋にない機能は外部から補うという考え方で、フロントコンシェルジュ、ハウスキーピング、秘書サービスなど、現在の高級サービスオフィスやホテルに通じる内容を提供していたことがわかる。ハードもソフトもかなり最先端だったこの物件は、感度の高い人々に受けたに違いない。

当初のアイディアは、取り外し可能なカプセルを25年くらい毎に新しいものに交換して、建物を永続的に維持していくというものだったが、一度も交換されずに50年近くが経とうとしている。実際、真ん中の階のカプセルだけを外して交換することはできず、上階から順番にすべてのカプセルを外さないとならないため、工事にはそれなりの費用がかかるらしい。

カプセルは分譲されていて、今もここで暮らす人、オフィスとして利用する人、またはマンスリーレンタルで宿泊する人などがいる。老朽化で諸々不便が生じているにも関わらず、その人気は根強い。海外からハリウッドセレブが見学に来たこともあり、マンスリーで利用する日本の著名人も多いそう。特に昨今は、リモートワークの場所として希望する人も増えているという。

実現しなかった黒川氏のアイディアの話が更に面白く、例えば、別の都市に同じ建物を作って、カプセルごとそっちにお引越しできるという案や、キャンピングカーのようにカプセルごと旅する案など。必ずしも一つの場所で暮らす必要性が急激に薄れている今の価値観に、奇しくもぴったり合っている。50年ほど早すぎたけれど。

しかし区分所有者の意見は、カプセル交換&保存派と、取り壊し派に分かれている。この建物は現在の建築基準法に合っていないため、一度取り壊してしまうと同じものは建てられない。建物を残すための唯一の方法は、当初の案通りカプセルを交換すること。

私は21世紀の最新の機能を搭載したカプセルに交換されたタワーの姿を見てみたい。交換されて初めてこの建物は完成するのだから。そして、ピカピカのカプセルがあちこちを自由に旅している姿を想像するのも楽しい。


イアン・シュレーガーの美空間 東京エディション虎ノ門

最近、東京のラグジュアリーホテルのオープンが続いている。 今月も日本初上陸となるEditionブランドのホテル、「東京エディション虎ノ門」が本オープンした。

建物の設計は隈研吾(これも最近、一つのスタンダードになりつつある)。パブリックスペースも客室も、木を使ったシンプルで、少し和の要素を感じさせるデザインが特徴。

その器の中に、ブランド創設者のイアン・シュレーガーのこだわりがぎっしり詰まっている。あの伝説のニューヨークのナイトクラブ「54」や、80年代にデザイン・ブティックホテルの先駆者となったロイヤルトンなどの数々のホテルを手掛けた人物。

このホテルで最も特徴的で、最初に目に入るのは、そのロビーラウンジスペース。ビルの31階に位置するこのフロアに、ジャングルのように緑が密集している。緑が目隠しの役割も果たし、プライバシーとソーシャルディスタンスを保ってくれる。



ロビーバーのグリーンのボトルのディスプレイも美しいが、ここに限らず、ホテル内に置いてあるものやその置き方すべてにシュレーガー氏のチェックが入っている。それも、かなり細かく。棚に飾られたオブジェ類は言うに及ばず、例えばラウンジのソファや客室のベッドに無造作に置かれたラグ。それを見て「あ、たたみ忘れちゃったのね」などと思ってはいけない。決して無造作にあるのではなく、造作ありありなのだ。そのヒダのひとつに至るまでラグの置かれ方は決まっていて、スタッフはそれに従って毎日「無造作っぽさ」を再現する。シュレーガー氏が作る妥協なき空間に、彼の強い美意識と、ブランドを守り育てる者としての姿勢を見た気がした。(同時に、そういう人が上司だったら部下はものすごく大変かもしれない、とも思う。)

来年2月にはスペシャルティ・レストラン「Jade Room」と、バー「Gold Room」もオープンする。準備中の店内を見せていただいた。Jade Roomは屋外のウッドテラスから東京タワーを間近に臨む。Gold Roomは黒をベースとした内装にゴールドが差し色で効いた、とてもお洒落で素敵な場所。マンハッタンのバーを思わせる、まさにシュレーガー氏の美意識を結集した空間には、ここに座ってお酒を飲みたい!と思わせる魔力があった。


2020年10月7日水曜日

百段階段で現代アートを見る

目黒のホテル雅叙園東京で「TAGBOAT × 百段階段」展を見た。

雅叙園は「昭和の竜宮城」と呼ばれたそうで、独特で絢爛豪華な装飾に彩られている。中でも「百段階段」は1935年に建てられ、雅叙園の中で現存する唯一の木造建築で、東京都指定有形文化財に指定されている。100段、正確には99段の階段が7つの宴の間をつなぐ。

なぜきっちり100段じゃないかは定かではないそうだが、「未完の美」を求めたのだろうと私は解釈した。

その7つの部屋に、30名の新進アーティストたちの作品が展示されている。

歴史あるものと新しいもののコラボレーションは珍しくないが、これは面白い共演だった。そもそも奇抜な雅叙園の装飾が、型にはまらない現代アート作品を前に、その背景としてただあるのではなく、むしろ競っているというか、しゃしゃり出ているというか、本領を発揮してる感じがしたのだ。


特に、色鮮やかな木の浮彫の絵の自己主張の強さ。どちらが現代アートかわからなくなる。


展示された現代作家たちの作品も、もし白い壁のギャラリーで展示されていたら全く違うものに見えたかもしれない。ここではいっそうおどろおどろしく見えた作品もあるし、全体的にインパクトが増幅されていたと思う。

百段階段の各部屋は、天井や欄間の絵のほか、建具や柱にも異なる細やかな意匠が凝らされていて、それだけで見どころ満載(それを説明すると切りがないのでここでは省く)。以前も訪れたことがあるが、今回のほうが現代アートとの相乗効果で、強く印象に残った。

新旧アートの全力アピール。この企画展は2020年10月11日まで。

2020年10月5日月曜日

武蔵野の石の要塞と、銀のどんぐりの森

その建物の写真を見て、実際に見てみたくなり出かけた所沢。

初めて降りた東所沢駅から、普通の郊外の街並みを歩いて約10分。公園の向こうに、巨大な石の塊が出現する。

どこから見ても非対称な変わった形で、窓がない(ように見える)建物は要塞を思わせる。一見、どこが正面かもわからない。

これは今年8月にプレオープンした「角川武蔵野ミュージアム」。設計は隈研吾氏。美術館、博物館、図書館を併せた新たな文化複合施設として11月にフルオープン予定。マンガ・ラノベ図書館やアニメミュージアムが入るほか、現代アートの企画展なども行い、サブカルチャーファンをターゲットとする。

プレオープン期間中は「隈研吾/大地とつながるアート空間の誕生 石と木の超建築」展を開催(10月15日まで)。1年前の2019年に竣工した国立競技場が隈氏の木の建築の集大成であったのに対し、このミュージアムは石の建築の集大成だとわかる。

複雑な建物は61面の三角形で構成されているそうで、外側を覆う花崗岩のタイルの表面は「割肌(われはだ)」という、職人が割り出したままの荒々しさを敢えて残している。遠くから見ると冷たい印象だが、近くで見る肌目には温かさも感じられる。



さて、隣の公園には、チームラボの「どんぐりの森の呼応する生命」という常設展示がある。ここは本当は夜行くのが正解なのだが、行ったのが昼間なので仕方ない。明るい森を見ていくことにした。森の中に銀色のダルマみたいなオブジェが不規則に並んでいて、手で押すと、起き上がりこぼしのように揺れて「ほわん」とした不思議な音を出す。音は周囲に拡がり、その反響の中を散歩する、という趣向。夜になるとこのダルマは様々な色に光る。そしてたくさんの訪問者が出す音が森の中で反響しあい、光と音に包まれて美しい夜の森を散歩できるのだろう。すいている平日昼間に、ひとりで起き上がりこぼしを押しては音を聞いても、正直、あまり盛り上がらないので、夜間の訪問を強くお勧めする。

ちなみに、オブジェには手で触れるため、入り口でビニールの手袋を渡される。これも新しい鑑賞作法。

一帯の「ところざわサクラタウン」は、角川が「クールジャパンの拠点」として開発を進める。アニメ聖地巡りの札所となっている神社や、アニメホテル、イベントホールなどもある。今後、人の流れが変わるかもしれない。


2020年9月25日金曜日

Kimpton Shinjuku Tokyoで、東京を意識する

10月2日(金)に西新宿にオープン予定のラグジュアリー・ライフスタイルホテル「Kimpton Shinjuku Tokyo」を視察させていただいた。


アメリカ発のキンプトンブランドは日本初上陸。私もマンハッタンで宿泊したことがあるが、毎夕のソーシャル・アワーも含め、お洒落で感じのいいブティックホテルとして印象に残っている。現在はインターコンチネンタル・ホテル・グループ傘下だが、そのブランドとアイデンティティーは維持。



全体的にニューヨークのテイストを前面に出しながら、日本ならではのモチーフがあちこちに織り込まれている。例えば、客室のベッドサイドにあるU字型のライトはかんざしがモデル。


エレベーターの内部を飾る山のイラストは、聞けば山梨の山脈を描いたものらしい。ホテルの前を通るのが甲州街道だから。深い。聞かなきゃわからない。




また、ホテルの顔ともいえる玄関を入ったところにある大きな絵。


画面を埋め尽くすたくさんの文字は、このホテルに関わっているスタッフ全員の名前だそう。

このホテルに限らず、一つ一つのアートやデザインの裏側にあるこだわりやストーリーは、スタッフに聞いてみて初めて分かることもあるので、ちょっと気になったら尋ねてみると面白い話が聞けるかもしれない。

本当だったら、この夏はたくさんの外国人観光客がやってきていたはずの東京。それに合わせていた新規ホテルのオープンも多い。当然、外国人に向けた日本らしさのアピールも意識されているが、ちょっと前までの、日本人から見ると白けてしまう押し出しは減り、洗練された和のアレンジを目にすることが増えた。

今だから、あえて身近な都市で旅人の気分を体験するのが面白い。新たな発見がきっとある。