東京国立近代美術館で開催中の「杉本博司 絶滅写真」展を見た。約60点の銀塩写真がほの暗い照明の下に展示され、瞑想のような鑑賞体験だった。
初期の作品から最新作までの中で、特に印象に残ったシリーズについて。
まずは「海景」。湾曲した壁の展示室は、オランジェリー美術館のモネの睡蓮の部屋を思わせる。ここでは一枚の大きな絵ではなく、複数の海景が並ぶが、すべて同じ構図で水平線の位置が揃っているせいか、ひと続きの海のように感じる。そもそも海は続いているのだから当然かもと思いながら近づくと、青色が排除されたモノトーンの海はそれぞれ質感が違う。シルクのような海もあれば、金属のような海も。
「劇場」は一瞬を捉えたスチル写真のシリーズだと思っていたが、映画を一本上映する間、ずっとシャッターを開いて撮影したものだと今更ながら知った。写真ではスクリーンは白く光って見えるだけで、何が上映されていたのかわからないが、そこに物語と時間が凝縮されているなら、それ自体が化石のようだと思う。
全体に静謐という言葉がぴったりな展示空間は無駄話など許されない雰囲気もありつつ、作品に添えられた杉本氏の短歌や狂歌には、時に駄洒落も混じっていたりしてクスリとさせられる。
マダム・タッソー蝋人形館で撮影された「肖像」シリーズも、昭和天皇、ダイアナ妃など、そのリアルさに驚く。元の蝋人形がかなり精巧にできているにしても、カメラを通して増幅する「生身」感。本物って何?
サテライト展示として、東京国立近代美術館所蔵の全杉本作品と「スギモトノート」が所蔵品ギャラリーで見られるので、そちらもお忘れなく。
「絶滅写真」の英語タイトルは「Extinction」のみ。何が絶滅して、何が残るのか。人類が絶滅しても、海はあのままあり続けるんだろうか、などと静かに思いを巡らせた。


