2023年1月28日土曜日

「アンディ・ウォーホル・キョウト」展

京都市京セラ美術館で、話題の「アンディ・ウォーホル・キョウト」展を見た。日本初公開作品100点を含む大規模回顧展ということだけでなく、京都で開催されていることに意義がある展示。だから巡回もしない(いさぎよい)。


ウォーホルの初期から晩年までのキャリアを時系列で追いつつ、彼の2回の京都訪問とそこから受けたと思われる影響をもう一つの軸にしている。いかにもウォーホル!というメジャーな作品が見られるのも嬉しいが、ウォーホルの京都での足跡が感じられる展示物が面白い。1956年の最初の京都訪問(世界一周旅行の一部)での清水寺のスケッチとか、旅行中の写真、几帳面に保管された当時のパンフレット類など、日本人にとってはノスタルジーを感じる部分もある。


「日本的なものはなんでも好きだ」と言ったウォーホル。ケンゾーの服、ハイファイといったキーワードから、おそらく70年代頃の発言と思われるが、当時彼が中心だったポップアートのムーブメントと、それに象徴される大量消費の国・アメリカに対して、日本人が抱いていた憧れはもっと大きかっただろう。そんなことを考えながら鑑賞した。


展示の最終章では、死と闇を扱った作品を通してウォーホルの内面に迫ろうとする。エイズが流行した80年代。ウォーホル自身にとっても死の恐怖は遠いものではなかったはず(以前に見たドキュメンタリー番組によると、彼は恋人をエイズで亡くしている)。展示を締めくくるのは大型作品「最後の晩餐」。ウォーホルはこの作品のミラノでのオープニングに立ち会った直後、1987年2月に胆嚢の手術の合併症でアメリカで亡くなった。この「最後の晩餐」はシリーズの一つだし、必ずしも自分の死を予期して作ったものではないと思う。しかし、ただでさえ謎めいたダ・ヴィンチの絵をベースに更に謎めかした作品を遺作にしてしまうあたり、天性のスターだと思う。

そんなウォーホルを身近に感じ、彼が生きた時代を追体験できる展示だった。



2023年1月18日水曜日

夜の二月堂

奈良に行った際、夜、ホテルの人の勧めで東大寺二月堂へ行った。

二月堂といえばお水取り(修二会)が行われる場所、ということ以外は良く知らない。期待値フラットな状態で到着したら… 


澄んだ冷たい冬の夜空をバックに輝くお堂。

二月堂の周りの回廊には24時間自由にアクセスできる。寒い夜だったので人気もまばら。鹿もいない。近づいてみると、お堂を照らしているのは人々が奉納したたくさんの吊り灯籠だった。現在のお堂が建てられたのは1669年。灯籠には奉納された年と奉納者の名前が記してあり、江戸時代や明治時代のものも少なくない。昔の人々の祈りが今でもここにあることに不思議な感慨を覚える。



そして灯籠のデザインにも注目。影絵のように柄が美しく浮かび上がるものや、シンプルなものなど、時代によって違いはあれど、どれも洗練されていて、さながら灯籠ショールームのよう。


回廊からは夜景を一望。夜の二月堂は奈良を静かに満喫できる素敵な場所だった。





2022年11月3日木曜日

サント・シャペルのステンドグラス

パリ・シテ島のサント・シャペルには、世界一美しいとも言われるステンドグラスがある。

サント・シャペルは裁判所の敷地内にあり、外から見ると目立たないが、観光客の列ができているのですぐわかる(予約制だけどやはり待つ)。

建物に入ると、あれ?思ったより地味?と思うかもしれない。でもメインは上層礼拝堂。狭い螺旋階段を上っていく。

上層は、まばゆく素晴らしいステンドグラスに囲まれた空間。



13世紀半ばに建てられたサント・シャペルは、フランスゴシック建築の中でも大規模を追求したそれまでのスタイルとは違う、空間の調和や洗練された装飾を重視したレヨナン式というスタイル。大きなバラ窓があり、全体に窓面積が大きいのが特徴で、たくさんの外光が入る。

ステンドグラス以外の装飾も、例えば柱の柄がひとつひとつ違ったり、見れば見るほど繊細。


行ったときは、アメリカの舞台監督ロバート・ウィルソンの音楽インスタレーションが空間を演出していた。実はサント・シャペルはフランス革命の後に世俗化され、今は教会ではない。だからある程度自由な試みができるのかもしれない。

サント・シャペルに行く際は、上ばかり見ていると床の素敵な装飾を見落としがちなので、それもお忘れなく。



2022年11月2日水曜日

パリのパラスでアート三昧!

パリ8区、凱旋門の近くにあるル・ロイヤル・モンソー・ラッフルズ・パリ(Le Royal Monceau, Raffles Paris)は、5つ星ホテルの中でも最高級を意味する「パラス」の称号を与えられたホテルのひとつ。更にここにはラグジュアリーだけではないアイデンティティがある。それはアート。


特色は「アート・コンシェルジュ」の存在。宿泊ゲストにお勧めの展覧会やギャラリーの情報はもちろん、ホテル内のアートツアーも提供している。ここに宿泊するなら、是非このアートツアーを体験することをお勧めする。



2010年の改装時に内装を担当したフィリップ・スタルクは、鏡を多用してコンテンポラリーさを打ち出した館内に、大小様々なアート作品をちりばめた。それらはココ・シャネル、ピカソ、ジャン・コクトーといった面々とホテルとのつながりを語るものから、蚤の市で見つけてきた来歴が不明なものまで実に幅広く、パブリックスペースだけでなく客室内(バスルームも含めて)でも存在感を発揮する。


約1時間のアートツアーでは、聞かなければ気づかなかったであろう内装やアートのディテールや、ホテルの歴史的なエピソードを説明してくれる。例えば、普段だったら一瞬で通り過ぎてしまうであろうレストランの入り口の壁。アート・コンシェルジュに促されて近づいて見ると、小さな貝が敷き詰められた細工の美しさに気づく。ツアーで理解を深めた後は、ホテル内の色々な部分に目が行くようになり、ホテルで過ごす時間が一層面白くなる。


アート・コンシェルジュが常駐しているのはアート・ライブラリ。限定版のアートブックや、小さなアートオブジェの数々を販売しているお洒落なスペース。ここもストーリーにあふれたものが満載で、長居してしまいそう。

パブリックスペースのアートは定期的に展示替えされるので、行くたびに違う発見があるはず。パリではミュージアムだけではないアートの楽しみ方を。


2022年10月31日月曜日

パリの美しいデパート

パリに2021年6月にリニューアルオープンした話題のデパート、サマリテーヌ(Samaritaine)は、買い物する気がない人にもお勧めのスポット。

大規模改修のためにいったんクローズしたのが2005年。再開までに16年がかかったのだから、松坂屋→GINZA SIX(4年)のはるかに上を行く。

20世紀前半のアールヌーヴォー、アールデコ建築のスタイルの復活にも主眼が置かれ、改修には熟練の金職人、鉄工職人なども参加した。

見どころの一つはセーヌ川に面したポン・ヌフ館最上階の孔雀の壁画。長年隠されていたガラスの天井がよみがえり、自然光の下で美しく輝く。描いたのは20世紀前半に活躍したフランスの画家フランシス・ジュルダン。



鉄骨の階段の装飾も優美。

美しいデパートでは売り場のディスプレイも気を抜けない。

そして反対側のリヴォリ館のデザインはSANAA。波打つガラスのファサードが目を引く。

昔の建築と現代建築の粋を集めたサマリテーヌ。尚、セーヌ川沿いの1階にはLVMHグループの5つ星ホテルシュヴァル・ブラン(Cheval Blanc)も入っている。





シャトー・ラ・コスト

ワインもアートも好きな人には、これ以上の旅行先はない。南仏プロヴァンスにあるシャトー・ラ・コスト(Chateau la Coste)はワイナリー兼ミュージアム。それもかなりハイレベルな。

マルセイユ空港から車で約30分。民家や畑しかない静かな道を進み、シャトー・ラ・コストに到着。天気のいい暖かな日曜日。レストランやショップは日帰り客でも賑わっていた。

広い敷地には5つ星ホテル、ファインダイニングのレストラン、オーガニックのワイナリー、美しいブドウ畑、そして世界的に著名な建築家やアーティストたちの作品が多数。天国のような場所に笑みが抑えられない。コロナ禍で旅ができなかった間、どんなにここに来たかったことか!

ホテル棟の Villa la Costeは28室のヴィラで構成されるラグジュアリー・アコモデーション。部屋のテラスから臨むブドウ畑のパノラマは絶景。正面に見えているのはカベルネ・ソーヴィニョンの畑。

さて、シャトー・ラ・コストの魅力をフルに理解し楽しむためには、ワイナリーツアー、およびアートツアーに参加するのがいい。

シャトー・ラ・コストは2002年にアイルランド人の富豪・Patrick McKillen氏がワイナリーを買収。そして彼は名だたる「近しい友人」たちに作品を依頼し、アートと建築の要素を追加して2011年に一般公開した。

その友人リストがすごい。ジャン・ヌーヴェルがデザインしたワイン工場だなんて。


1時間のワイナリーツアーではまず工場を見学。二つの棟があり、一棟で選別されたブドウをパイプを通してもう一棟に運び、大きなタンクで発酵させる。ここではオーガニックと手作業の要素を重視。ビオディナミ製法を取り入れ、できる限り添加物を入れないポリシーでワインを作っている。そして機械での作業と並行して必ず人間の手作業も行う。保存料の亜硫酸塩ゼロの商品も作り始めている。


工場見学の後はもちろんテイスティング。スパークリングはプロヴァンスらしいロゼ。ワインは軽やかな口当たりのものからフルボディの赤まで一通り揃う。作られた土地で飲むワインは格別!


ワイナリーツアーは工場とショップ内のテイスティングカウンターで完結するため、ブドウ畑の風景を満喫できるのはむしろアートツアーのほう。200ヘクタールの敷地内には約40の作品が点在しており、ほとんどがこの場所のために作られたコミッションワーク。その日のアートツアーは他に参加者がいなくて、みっちり2時間のプライベートツアーでほぼすべての作品をカバーしてくれた。


ツアーのスタートは安藤忠雄設計のアートセンター。


池のルイーズ・ブルジョアの蜘蛛は、六本木ヒルズにいるのより背が低い。


隈研吾の「KOMOREBI(こもれび)」という作品では、ガイドさんに木漏れ日の意味を確認され、教えてあげたら「ああ、良かった。間違ってなかった」と安心していた。英語には木漏れ日という単語はない(そういえば去年の朝ドラでもそういうエピソードがあったのを思い出した)。

鉄でできたトロッコ列車はボブ・ディランの作品。ボブ・ディランって歌う人じゃなかった? 絵や彫刻もやっていると初めて知った。鉄のパーツをすべてアメリカから運んだそうで、輸送が大変だったらしい。

フランク・ゲーリーのミュージック・パヴィリオンは、コンサート会場として使われている。

ゲーリーの作品はもう一つある。巨大な彫刻作品を中に入れた3つのショーケース。中の彫刻は彼が若い頃にインスピレーションを受けたトニー・バーラントの1968年の作品。ゲーリーのスタイルの源泉を知ることも興味深いし、バーラントとゲーリーの50年の時を超えた共演もいい話。こういう話はツアーで説明を聞かないとなかなか知る機会がない。


他にもすべて挙げることはできないが、好奇心をそそられる作品、絵になる作品、説明を聞いてへえーと思う作品がたくさんある。そして新しい作品も増え続けている。




あっという間の2時間。起伏がある土地をだいぶ歩いたのに全く疲れを感じなかった。終わるころには日が暮れかけていた。収穫が終わり少し黄色く色づき始めたブドウの葉が秋の深まりを告げている。


青空の下で散策したブドウ畑とアートの風景は魔法のようで、脳裏から離れない。もっと長く滞在したいと思わせる場所だった。

実はシャトー・ラ・コストでは、現在のヴィラよりカジュアルな新しい3つ星ホテルの建設が、来年の夏をターゲットに進んでいる。こんなことを言ったら怒られるかもしれないが、それを聞いて私は少し残念だった。エクスクルーシヴさがここでの滞在の価値を高めていると思うので、それが薄まってしまわないことを願う。

でも、また行こうと思っている場所であることには変わらない。



2022年10月30日日曜日

ブルス・ド・コメルス

3年ぶりにやっと行けたパリ。早速、ずっと気になっていたブルス・ド・コメルス(Bource de Commerce)を訪れた。

ブルス・ド・コメルスはケリングCEOのフランソワ・ピノーの私設美術館で、2021年5月にオープン。元は穀物取引所や商工会議所として使用されていた建物が安藤忠雄の手で生まれ変わった。以前はあまり治安が良くなかったエリアの流れを変えるのにも一役買っているらしい。


中央は大きな吹き抜けの空間。ガラスのドーム天井から外光が差し込み、明るい館内。安藤氏は歴史ある建物の改装にあたり、もともと円い建物の内部に更に円筒を作り、その内側と外側に展示室を配置した。

展示室は全部で10。複数の企画展が並行し、ピノーが40年間にわたり蒐集してきた現代アート約1万点の中から展示される。


ヴェネチアにあるピノーの美術館、パラッツォ・グラッシとプンタ・デラ・ドガーナでも、歴史的建物が使われた(その時も安藤と組んでいる)。パリのブルス・ド・コメルスでも同様に、歴史ある建物を修復・改装することを選んだ。

ドーム天井を囲む19世紀の壁画も修復師が美しく再生。写真では小さくて良くわからないかもしれないが、その壁画の下で、手すりにとまっているハトたちは現代アート作品。


18世紀の穀物取引所の面影を残すのがダブル螺旋階段。重いトウモロコシの袋を担いで穀物庫と1階を行き来する運び夫たちがすれ違わなくて済むように設計されたものだそう。当時の知恵が美しいフォルムで保存されている。

現代アートと歴史が建物を通じて融合する素敵な美術館。