2021年明けて早々の東京国立近代美術館。今年は帰省せずに都内に留まっている人が多いはずだが、さすがに三が日の人出は少なく、ゆったり鑑賞できた。
「眠り展」という、眠りをテーマにした企画展をやっている。最近、国内の公立美術館同士が協力してコレクションを結集させる展示が増えたような気がするが、これもそうで、国立西洋美術館、京都国立近代美術館、国立国際美術館の所蔵作品を交えて構成されていた。美術館はコロナの影響で来館者が減っているため、海外から大型作品を借りにくくくなっていると何かで読んだことがある。この企画がその影響を受けたものかどうかは知らないが、むしろそうした制約は、日本の多くの美術館にとってチャンスでは?と思う。海外からの作品に注目を奪われがちだったこれまでより、日本の美術館が持つコレクションが注目されやすくなる。行ったことがない美術館から出品された作品を見て「へえ、この美術館、こんないい作品持ってるんだ」と注目し、次はその美術館に行ってみたいと思う人もいるだろうし、さらには周辺地域の観光需要にもいい影響があるかもしれない。
そう言っている私も、以前はアートの旅と言えば、自分で行くにも人に勧めるにも海外を中心に考えていた。でも実際、この半年くらいで国内にある作品の素晴らしさを再認識し、「足元を見ろ」と言われたような気がしている。
さて、この東京国立近代美術館もコレクション展だけでも十分楽しめるところだが、今回は12月に公開されたばかりのソル・ルウィットの壁画に注目していた。ミニマリズムやコンセプチュアル・アートで知られるルウィットが生涯で制作した1270点以上のウォール・ドローイングのうち、769番目のものだそう。3階の「建物を思う部屋」にあり、4階からもその上部が見える。
一見、直線と曲線が無造作に描かれているような壁画は、予め決められた16種類の線のうち2つが組み合わされた四角形のマスで構成され、全部で120種類のパターンがある。
ルウィットは、自身はウォール・ペインティングの構成を決め、実際に描くのは基本的にほかの「ドラフトマン」に任せたそう。なので彼の死後(2007年没)も、作品は世界各地で作られ、展示される(多くは展覧会の期間が終われば撤去される)。このウォール・ペインティングも日本人のドラフトマンが担当している。
いわば「死なないアーティスト」のシステムを作ったルウィット。海を越えて作品を貸し借りすることも難しくなる状況さえ見越していたのだろうか。数学みたいなパターンの「指示書」が描かれた壁を見ながら思った。