フランス・ボルドー右岸の「Chateau de Ferrand(シャトー・ド・フェラン)」は、ワインとアートをここならではの形で融合させたユニークなシャトー。
創業は18世紀初め。1977年にボールペンのBIC社の創業者マルセル・ビック氏が買い取り、現在は娘のポーリーヌさんご夫妻が当主を継いでいる(ちなみに夫のフィリップさんの実家はモエ・エ・シャンドン)。
ポーリーヌさんの代になってから、シャトーは一大リノベーションを敢行。内装は建築デザイナーのPatrick Jouin氏に依頼した。ヴァン クリーフ&アーペルのパリや銀座の店舗や、マラケシュのホテルLa Mamounia等も手掛けた人。Jouin氏の特徴ともいえる透明感や柔らかな曲線はこのシャトーでも発揮され、機能とエレガンスを見事に両立。例えばテイスティングルームは、プロのテイスティング用にワインの色がはっきりとわかるライトとテーブルが設置されているが、雲のように浮かんだお洒落なライトはそんな実務的理由を意識させない。
イベントやセミナーに利用されるオランジェリーは、空と雲をイメージした天井と、木と革張りの椅子が並ぶ美しく居心地のいい空間。
前述のテイスティングルームの壁は春夏秋冬を描いた絵で覆われている。これがまさに、家業のアイデンティティを活かした「BICアート」の一つ。アーティストのAlexandre Daucin氏がBICのペン1種類だけを使って描いた作品で、とても細密な描写が部屋の四面の壁に展開している。さて、これを完成させるのに何本のBICペンが使われたでしょう?
正解は7本。絵を実際に見たら、こんなに細かくて大きな絵にたったの7本?と驚くと思う。「BICペンはこんなに長く描けます」という説得力はこの上ない。
他にも館内には、BICペンを使った、またはテーマにしたコミッションアートがあちこちに展示されている。
もちろんワインの評価も高い。シャトーでは2010年から、土壌の改良やブドウの植え替え、栽培方法の変更などの改革をした。その結果、Chateau de Ferrandのワインは2012年以降、サンテミリオンの格付けでグラン・クリュを獲得している。作るのはメルロー主体のまろやかな赤ワインのみ。ヴィンテージによって異なる個性を大切にしており、違うヴィンテージを順番にテイスティングするとそれが良くわかる。
シャトーにはゲストルームも3室あるので、宿泊してワインとディナーのペアリングを堪能することをお勧めする。BICペンの4つのカラーをテーマにしたコースもある。
ディナー後はファミリーのプライベートアートコレクションをじっくり鑑賞した。世界のアーティストたちにとってBICペンは身近な画材。様々なアーティストたちがBICペンで描いた作品のコレクションにはジャコメッティ、マグリット、ダリなど、20世紀を代表するアーティストたちも含まれ、BICペンとアートの深いつながりを感じる。
ボールペンの繊細な線とワインのまろやかさが絶妙な相性に思え、心地よく印象に残った。