2021年11月20日土曜日

常滑やきもの散歩道

焼き物で有名な常滑へ。名古屋から特急で30分。

常滑は「日本六古窯」のひとつで、焼き物の生産は平安時代末期から1000年近くのとてつもなく長い歴史を持つ。

観光の中心は昭和初期に最も栄えた窯業地域一帯で、「やきもの散歩道」と呼ばれている。当時の煙突や登り窯などの遺構が残り、現在も活動している作家の工房やショップも多い。


細い路地が入り組んだ町は迷路のよう。ところどころに番号が書かれた看板が設置され、観光客は皆、観光協会が作った同じマップを手にし、看板と見比べながら歩いている。最近、紙の地図を頼りに歩く人がこんなにたくさんいるのを見たことがないが、そうしないと本当に迷う。

迷路は絵になる風景に溢れている。

人気の写真スポットは「土管坂」。壁は明治時代の土管と昭和初期の焼酎瓶で覆われている。壁が崩れるのを防ぐためだそうで、路面には土管焼成時に使った捨て輪の廃材が滑り止めの役割をしている。この地域には同じような造りの狭い急坂が多い。お年寄りには少し大変そう。地元の人は慣れているのだろうけれど、ゆっくり慎重に歩いていた。

土管坂の近くの路面に、子供たちがカラフルなチョークで描いた絵が。はるか記憶の彼方にあったものを引き出してもらった。こんな遊び、最近目にしたことがなくてすっかり忘れていた。


更に足を延ばして「とこなめ陶の森資料館」にも行ってみる。2021年10月にリニューアルオープンしたばかりの明るく広い展示室。常滑焼の中世からの歴史が、実際の製品や生産用具と共に展示されている。フランク・ロイド・ライトが帝国ホテルの建築のためにリクエストした黄色がかったレンガも、ここ常滑で生産されたと知った。


常滑には陶器づくり体験ができる工房もあるし、色々な作家の作品を見て買物もできる。無目的に散策してノスタルジックな雰囲気にひたるだけでも十分楽しい。天気のいい日に歩きやすい靴で!



2021年11月19日金曜日

木曽路 馬籠宿と妻籠宿

旧中仙道の宿場町、妻籠宿と馬籠宿は、外国人にも人気の木曽路を代表する観光地。二つ一組で語られることも多いが、妻籠宿は長野県、馬籠宿は2005年以降は岐阜県に属し、少しずつ個性が違う。

馬籠宿は木曽11宿の最南端。建物は明治と大正の大火の後再建され、昔のままの石畳と桝形も残っている。澄んだ流れの水路に水車が廻り、軒先に干し柿が下がる様が絵になる。通りの端から端まで歩いても10分くらいの距離。でも坂道続きの石畳は健脚な人向けかもしれない。


馬籠宿から妻籠宿まではバスもあるが、ハイキングルートとしても人気。約9キロメートルの道のりを2時間半から3時間で歩ける。途中「男滝・女滝」という二つの滝がある。幅が広く勢いがあるほうが男滝。昔、行水に使われた滝が男女別に分かれていたのでこう呼ばれているそう。


次に妻籠宿。寺下地区のオーセンティックな町並みが素晴らしい! 向うから馬でも歩いてきそうな雰囲気で、江戸時代ってこういう感じだったんだろうなと想像させる。町並み保存運動の先駆けとなった妻籠には当時の建物が残っていて、今でも住民の方々が「売らない、貸さない、こわさない」の3原則を守っている。店先に看板を出さないルールもあるそう。道は高低差がなく、のんびり散策できる。特に日中、車が入れない時間帯がいい。


軒先を花などできれいに飾る家も多い。ユニークなオブジェ(柿ダルマ?)にもゆとりを感じる。


ところで馬籠と妻籠では「栗きんとん」をよく見かける。お正月に食べるあの黄色い栗きんとん?と思ったら、この辺の栗きんとんは栗のペーストを絞り出した自然な甘みを生かしたお菓子。あちこちで買えるので散策のおやつに。

宿場町は夕暮れ時も美しいと聞く。昔の旅人たちが通ったままの町並みが、この先も受け継がれていきますように。


2021年10月30日土曜日

小江戸川越散歩

川越は稀有な町だと思う。東京からそう離れていないのに戦争で空襲を逃れ、江戸時代の建物やお城の本丸が戦後もきれいに保存されてきたのは奇跡に近い。


雲一つない青空に映える蔵造りの街並み。時が止まったかのような完璧な佇まいに、誰もいなかったら異次元に迷い込んだような怖ささえ感じそうだった。が、平日の朝から観光客や遠足の小中学生が行き交っているのでその心配はない。それにしても高層ビルに囲まれることもなく、開けた空まで残っているのは素晴らしい。

川越城本丸御殿は東日本に唯一残る本丸御殿の遺構。築城は15世紀半ばで、今残っている本丸御殿は1848年に新たに建てられたもの。明治以降は工場になったり学校になったり様々な用途で使われ、1967年に大規模な修復が行われて公開された。派手さはなく実直な感じだが、威容がある。家老詰所にだけ人形があり、リアルによくできてる。


その他の川越の楽しみのひとつは食べ歩き。あちこちで名産のさつま芋を使ったお菓子や、醬油を塗った焼き団子などが売られている。今は歩きながらではなくお店の前で立ち止まって食べる人が多いけれど、「買い食い」の魅力は衰えない。


1500年の歴史を持つ氷川神社では中学生たちが「鯛釣り」おみくじに群がっていた。


オーセンティックな町並みと観光地的要素の両方がバランスよく共存する川越。東京から半日で行って帰ってこられる遠足スポットは、あらゆる年代の人が楽しめる。

2021年10月16日土曜日

東京の酒蔵 澤乃井

東京にも多摩川が流れるエリアを中心に日本酒の酒蔵が何軒かある。その中の一軒、「澤乃井」で知られる小澤酒造は、奥多摩の美しい清流沿いに位置し、日本酒だけでなく自然散策も楽しめる。


都心から電車で約1時間半。無人の沢井駅を降りて歩いて行くと麹がほのかに香り、すでに澤乃井の工場のすぐ脇を通っていることに気付く。通りの向かいの「澤乃井園」までは5分くらい。

川のほとりの庭園にはレストランや売店があり、平日でもそれなりに賑わう。必ずしも酒蔵見学が目的でなくても、緑に囲まれた屋外で食事をしたり、多摩川沿いの遊歩道をハイキングしたり、過ごし方は色々。澄んだ流れではカヌー遊びをする人たちもいた。

橋を渡ると寒山寺という小さなお堂もある。石段の手すりを覆う苔を傷つけないよう、触らずに上る。

さて、澤乃井園に戻り、予約していた酒蔵見学へ。庭園から地下道を通って駅側に戻り、工場に行く。見学ツアーは今は完全予約制で、コロナ対策のため内容を簡略化し、試飲は無し。それでも創業320年近い酒造の蔵の中に入れるのは、それだけで期待感がある。

蔵の中は外光が入らず、空気は少しひんやり。大きなタンクが並ぶ薄暗い通路を歩くと、18世紀創業の酒造の長い歴史も重なり、シャンパーニュ地方のカーヴを思い出す。

タンクの容量は一つ8,000リットルを超える。約44,000合。1日1合飲んで120年かかるとの説明に、ピンとくるような、気が遠くなるような。


昔は酒造りの時期になると新潟から農家の働き手たちがやってきて、集中的に生産をしていたそう。時代が変わりそうした農家の人手も減り、今は社員が酒造りをしている。製造工程も機械化されているが、最近は大きな杉の木桶を使った桶仕込みを復活させる試みもしているとのことだった。


石の洞窟の奥に仕込み水となる湧き水の井戸がある。澄んだ水が豊富に流れる多摩川のほとりにありながら、秩父古生層の厚い岩盤からじわじわ湧き出る貴重な石清水を使っていることを今更ながら知る。ミネラル分豊富な中硬水だそう。

蔵の中の棚には熟成酒「蔵守」の瓶が並ぶ。瓶の中で熟成させるヴィンテージ古酒。20年くらい寝かせてあるものもあった。開封していない日本酒の瓶を新聞紙にくるんで、押入れの奥の涼しい所に保管しておけば、家でも熟成酒ができますよ、とのお話だったが、マンションのクローゼットの奥では、きっと無理だろう。昔の日本家屋は優秀だった。

ということで、ツアー終了後、きき酒どころで「蔵守」を味わってみることに。きき酒どころでは10種類のお酒を出していて、200円から500円で試飲できる(特製きき猪口付き!)

「好き嫌いが分かれます」と言われた4年ものの古酒は、薄い琥珀色がかっていて、香りは表現するのが難しいが、私は「ソバの花のはちみつ」に共通する香りを感じた(さっぱりわからないたとえかもしれませんが)。外の木々の緑を見ながらじっくり味わい、帰路についた。

新酒が出るまであと少し。蔵の前の杉玉も新しい緑のものに替わる。紅葉が深まるこれからのシーズン、新酒と自然を求める人でますます賑わうに違いない。




2021年9月24日金曜日

グッチガーデン アーキタイプ

近年、ハイブランドの世界観を表した展示が注目される。切り口は様々で、シャネルの場合はココ本人、ルイ・ヴィトンの場合は旅、そして今開催されているグッチの「グッチガーデン アーキタイプ」展は、2015年からクリエイティブ・ディレクターを務めるアレッサンドロ・ミケーレの広告キャンペーンの回顧展となっている。

ブランド創設100周年を記念したこのイベントは、今年5月のフィレンツェを皮切りに世界を巡回する予定。東京では天王洲の倉庫を丸ごと使い、「没入型エキシビション」と銘打っている。

この「没入型」っていう言葉、最近あちこちで多用されている気もするが、今回のグッチでは、普通は平面でしか見ない広告の世界を、観客が中を通って体験できる3次元で再現していて、実際、グッチ・ワールドに迷い込んだような感覚を楽しめた。

全部で12の部屋に分かれた館内は、それぞれの部屋がひとつのシーズンのキャンペーンを再現している。

まず「Gucci Collectors」の部屋で視覚的に圧倒される。バッグや蝶がぎっしり整然と並んだ棚が天井と床の鏡に映り、永遠の万華鏡を繰り広げる。

ロサンゼルスの地下鉄を再現した「Urban Romanticism」は、マネキンのリアルさがすごい。実際の身体を3Dスキャン、3Dプリントして2ヶ月かけて作ったそう。


「Tokyo Lights」は、外国人観光客にアピールするかのような、サイケでキッチュな東京の夜の風景。


イグナシ・モンレアルの壁画が部屋いっぱいに広がる「Gucci Hallucination」は、時間をかけて鑑賞するほど面白い。ルネサンス絵画のようで、シュールで、リアルな世界。

キューピッドが手に持つメッセージは、よく見るとWifiのパスワード!このディテールが楽しい。

最後は特設ショップを通って出口へ。ノート、トートバッグ、オルゴールなど、展覧会の限定アイテムだけが並ぶ。いわゆる普通の「グッチのバッグ」などは置いていない。

プロダクトそのものをフィーチャーすることなく、訪れた人がグッチのブランドメッセージを感じ取れる展示。2021年10月31日まで(LINEで事前予約制)。



2021年8月20日金曜日

パビリオン・トウキョウ その2

7月に見た「木陰雲」に続き、都内で展開中の「パビリオン・トウキョウ2021」のうち、246沿いの作品を見て廻った。

このプロジェクトではほとんどの作品が既存の名所や建築物の前に設置され、コラボレーションのような風景を作っている。

外苑前のいちょう並木の入口にあるのは会田誠の「東京城」。段ボールとブルーシートで出来た二つの城が、対になった狛犬のようにそびえる。


国連大学前にある大きな木のボウルは平田晃久の「Global Bowl」。丹下健三の建物とマッチして、絵になる!

お隣の旧こどもの城前にあるのは、木の枠組みにさまざまな植木鉢を並べた「ストリートガーデンシアター」(藤原徹平)という作品。都心に緑の居場所を作った心優しい作品だが、岡本太郎の彫刻のインパクトの強さはどうしたって無視できない。


246を少しそれた渋谷区役所の分庁舎には、草間彌生の「オブリタレーションルーム」がある(見学は事前予約が必要)。ここは「借景もの」ではなく、参加型。

「オブリタレーション」は消滅という意味。参加者は大小のカラフルな円いシールのシートを渡され、それを白い室内の好きな場所に貼ることを求められる。そうして次第に部屋は水玉で埋め尽くされて消滅するーというコンセプト。


最初の状態は見ていないがきっと真っ白な部屋だったはず。ということは、草間先生が提供したのは白い部屋と、消滅のコンセプトと方法論、ということになるが、それに従って一般参加者たちが作ってきた部屋は、見た目はかなり「草間ワールド」っぽい。アーティスト本人が直接手を下さずとも想定通りのものが出来る仕掛けって、簡単なようだけど、とてもよく考えられてると思う。


でも部屋が消滅するにはもう少し時間がかかりそうだった。


2021年8月19日木曜日

旧朝香宮邸とルネ・ラリック

東京都庭園美術館で開催中の「ルネ・ラリック リミックス」展へ。


言うまでもなく、これほどラリックの展示にぴったりな場所はない。美術館の本館として公開されている旧朝香宮邸は、1933年築のアールデコ・スタイルの洋館。そもそも内装にラリックも関わっていた。


今回の展示は、ラリックが手掛けたジュエリーの数々に始まり、自然をモチーフにした装飾品、香水瓶、装飾パネルなど、ガラス作品へと転換していく彼の作品の流れを追っている。大量生産が可能で多くの人の手に渡る作品も、注文生産の一点ものと同様の神経を注いだというラリックの美意識が反映されている。


ラリックはシャンパーニュ地方のアイ村の出身だと今回知った。2才でパリに移ったそうだが、最高級のお酒をどのボトルも変わらぬ品質で作り続けるシャンパーニュの気質が、ラリックのものづくりに多少は影響したんじゃないかと、勝手に想像している。

展示を見た後は、是非庭園へ。8月29日までは茶室「光華」が特別公開されていて、やはりガラスを扱うアーティストの青木美歌さんの茶道具が展示されている。



2021年8月18日水曜日

「和のあかり×百段階段」展

 目黒のホテル雅叙園東京で夏らしい企画をしている。

「和のあかり×百段階段」展は、日本各地の様々な和のあかりと百段階段とのコラボ。同ホテルが誇る文化財・百段階段(正確には99段)のきらびやかな装飾の各部屋に、テーマ別、素材別の様々なあかりがディスプレイされている。

 

伝統工芸をベースにした現代の作家たちの作品が空間を飾り、サウンドや香りの演出もある


一番上の部屋は山口県柳井市の「金魚ちょうちん祭り」をテーマにした展示。外の夏の日差しと緑をバックにユーモラスな表情の金魚たちが揺れる。



ちょうどホテルで「浴衣プラン」をやっていることもあり、ゆかた姿の人が多かったこと。いっそう縁日っぽい雰囲気だった。

遠くに行けないこの夏。百段で日本のあかりを巡れるのは楽しい。