2018年11月30日金曜日

アトリエ・デ・ルミエール

今年4月にパリにオープンした話題の新スポット「アトリエ・デ・ルミエール(L'Atelier des Lumières)。


ここは、東京などでも最近増えている、いわば「没入型デジタル・アート・ミュージアム」。オープンから7か月経っても入場待ちの列ができている。平日は窓口で当日券も買えるが、土日はオンラインの事前販売のみ。このときは金曜午後の時点で土日のチケットは全て売り切れだった。

建物は19世紀に作られた鋳造所。繁栄の後、大恐慌で閉鎖され、その後ずっと放置されていたのが、5年ほど前に再発見された。当時、ボー・ド・プロヴァンスの古い石切り場を使った「カリエール・ド・ルミエール」を成功させたCulturespaces社が目をつけ、パリで同様のプロジェクトを立ち上げる場所に選んだ。




2019年1月6日までのメインのオープニング・プログラムは「グスタフ・クリムト」と「フンデルトヴァッサー」(なぜかいずれもオーストリア)。エゴン・シーレもあったし、他にもいくつかショートプログラムが挟まれる。プロヴァンスの「カリエール~」が印象派中心なので、敢えて違うテイストを持ってきているのかもしれない。

一歩中に入ると、絵に包まれる。無数のプロジェクターから壁と床一面に映像が投影され、床を見ているだけでも、ここが19世紀頃の宮殿になったり、目まぐるしく変化する空間に引き込まれていく。

一番人気のクリムトのプログラムでは、有名な「接吻」を含むクリムトワールドがダイナミックに展開する。

ちょっと意外だったのは見る人たちの「作法」。あおおかたの人が一つの場所にとどまって映像を鑑賞し、一つのシークエンスが終わると皆、拍手をして、次のプログラムまでの間に場所を移る。まるで映画か寸劇を見にきているような冷静さなのだ。

5年ほど前に訪れたプロヴァンスの「カリエール~」では、(記憶では)敷地がもっと広かったこともあり、皆、映像の中を自由に散策して楽しんでいる感じだった。イマーシヴという意味では、そちらのほうが自然だったように思う。

どちらがいいということはないし、また、仕組みにもそう違いはないはずなのだが、パリの「アトリエ・デ・ルミエール」はシアター、プロヴァンスの「カリエール・ド・ルミエール」はエクスペリエンスという表現が近いように思った。でもいずれも、大人から子供まで、幅広い層がアートを楽しめるスポットではある。

行かれる際は、オンラインで事前にチケットを買うのをお忘れなく。

2018年11月29日木曜日

イヴ・サンローラン美術館 in Paris

パリはいつ行っても美しい場所に溢れているが、中でもイヴ・サンローラン美術館は、パリらしいエレガンスと美しさを感じられる場所だと思う。

16区にあるこの建物は、1974年から2002年までサンローランがコレクションのデザインを行っていた場所。その後、ピエール・ベルジェ - イヴ・サンローラン財団の本部として、以前から小規模なアートの展示等を行っていたが、2017年10月にサンローランにフォーカスした美術館として生まれ変わった。同時期にモロッコのマラケシュにももう一軒のイヴ・サンローラン美術館がオープンしている。


美術館は、サンローランの作品とそのクリエイティビティに迫るだけでなく、今では過去のものになってしまった20世紀の「オートクチュール」の伝統と、それに付随した生活様式を紹介する役割も担う。

2019年1月27日までは「Yves Saint Laurent:  Dreams of the Orient (東洋の夢)」という企画展を開催中。サンローランが日本、中国、インドから受けたインスピレーションを反映したドレスの数々が展示されている。


ドレスの美しさもさることながら、サンローランのアート作品のようなデッサンの美しさにも目を惹かれる。


美術館にはデザイナーのアトリエも再現されている。

女性をより美しく、優雅に見せることを追究したサンローラン。そのドレスを身に付けたらどんな女性でもエレガンス溢れる振舞いになったに違いないと、サンローランの魔法を見た気がした。

2018年11月25日日曜日

メゾン・アトリエ・フジタ

今年2018年は、藤田嗣治の没後50年に当たり、日本でも回顧展が東京と京都を巡回している。それは彼が後半生を過ごしたフランスでも同じで、各地で彼の作品の展覧会が開かれている。

回顧展を見て、もしくはそうした話題に触発されて、改めて藤田作品の魅力に惹かれた人も多いと思う。そういう人には特に「メゾン・アトリエ・フジタ(Maison-Atelier Foujita)」を訪れることをお勧めしたい。いわゆる「画家のゆかりの地」はあまたあれど、画家の息吹を感じられる場所はそう多くはない。ここはまさにフジタの息吹を感じられる場所だと思う。

パリから南西に車で小一時間のVillier-le-Bacleという静かな町。ここにフジタが晩年を夫人と暮らした自宅兼アトリエがある。

メゾン・アトリエ・フジタは、画家の没後、夫人がエッソンヌ県に寄付し、現在は歴史的記念物に指定され、保存・公開されている。家の中はスタッフが案内するツアーで見学する。土日は予約不要、平日は5名以上のグループなら予約して見学が可能。案内は基本的にフランス語だが、日本語や英語のオーディオガイドも用意されている。オーディオガイドではフジタが晩年に録音した肉声も聞ける。

18世紀に建てられた小さな3階建ての家は、フジタと夫人が暮らしていたそのままに残っており、庭にはフジタが植えた木も生き生きとしている。シンプルながら几帳面に整えられた室内には、フジタの生活に対するこだわりと、アーティストとしての遊び心が反映されている。

1階はキッチンとダイニング。キッチンには60年代っぽいレトロな道具が整然と並び、壁のタイルはフジタ自身が絵を描いたもので補修されている。



庭を見下ろす2階には寝室とリビング。小ぶりなベッドと、その横に掛かったベストとシャツに、フジタは小柄な人だったのだと想像する。

暖炉の脇の飾り棚に置かれたレコードプレーヤーには、美空ひばりのLPがかかっていた。とてもフランス的な空間に時折覗く日本。

そしていよいよ3階のアトリエへ。

まるでついさっきまで仕事をしていた画家が、ちょっと席を外しているだけのようで、50年も経過しているとは思えない。無造作に置かれたペンや道具の傾きひとつをとっても、フジタが置いたそのままであるかのようだ。ほこりをかぶらないようよくメンテナンスされているのもわかる。そのお蔭もあり、ここは過去の場所ではなく、今も進行形であるかのような空気がある。


奥の壁一面には、フジタがカトリックの洗礼を受けたシャンパーニュ地方のランスで、1965年から66年にかけて制作したノートルダム・ド・ラペ礼拝堂の壁画の下絵。当時80歳近かったフジタの最晩年の作品の一つで、下絵と言ってもその緻密さと迫力は下絵の域を超えている。周りに置かれた使いかけのパレットなどの道具に、ここに立って制作をしていたフジタの姿がイメージできる。ランスの礼拝堂は4月から9月までしか開いていないが、ここでは一年中、この絵を間近で見られる。


アトリエの片隅には、フジタが描いた落書き(?)が。
この家は18世紀に建てられ、フジタ夫妻が1960年10月14日から所有者になったことがイラストとともに記されている。

パリに戻る前に、メゾン・アトリエ・フジタから車で10分くらいのChateau du Val-Fleuryへ。ここでも小規模だがフジタの展覧会があった。

 「Foujita Moderne」と題されたこの企画では、フジタの大型の作品と、エッソンヌ県の現代アートコレクションを一緒に展示している。



フジタワールドに浸ることができたショートトリップだった。