2021年2月26日金曜日

フランク・ロイド・ライトの自由学園明日館

「自由学園 明日館(みょうにちかん)」は、日本に残るフランク・ロイド・ライトの4つの建築のうちのひとつ。

池袋駅から静かな住宅街の細い路地を5分ほど歩くと、堂々とした建物が現れる。

今からちょうど100年前の大正10年(1921年)に建てられた自由学園明日館は、最初の13年間だけ女学校の校舎として使われた。その後、1990年代に老朽化による取り壊しの危機を乗り越え、重要文化財に指定された今は見学者も受け入れ、「動態保存」の形で運営されている。

当初、学園の創立者夫妻が建築家の遠藤新に設計を依頼したところ、帝国ホテルの設計で来日中だったライトのアシスタントをしていた彼が、いっそライト先生にお願いしては?と提案し、実現したとのこと。歴史は得てして偶然のつながりで生まれる。

内部は建物の歴史や各部屋のエピソードの説明を読みながら自由に見学できる。木や石を多用した建物全体にライトらしい幾何学的装飾が施され、日本の同時代の他の洋館が持つ「レトロさ」とは少し違う「本格的モダンさ」を感じる。

当時は教室に照明はなく、窓からの自然光だけで授業をしていたそう。雨の日はかなり暗かったらしい。

椅子も見どころのひとつ。1階中央の大ホールに置かれた六角形の背もたれのお洒落な椅子は、遠藤またはライトがデザインしたとされる。


大ホールの壁のフレスコ画は創立10周年の1931年に制作されたもの。割烹着姿の女学生たちの制作風景の写真があった。フレスコ画を選んだことも珍しかったのではと思うが、その後上塗りされてしまったのが建物の保存修理の際に発見され、修復に至ったいう経緯にも、有名絵画のようなドラマを感じる。


2階の食堂にも遠藤がデザインした椅子がある。こんな素敵な環境でお昼を食べていた100年前の学生たち…。


食堂から少し階段を上がった大ホールを見下ろす位置にあるミニミュージアムには、建物の模型や、ライトの米国の他の作品の写真も展示されている。



道を隔てた向かいには遠藤新の設計による講堂もあり、こちらも見学ができる。


建物の美しさだけでなく、創業者の教育理念や、当時の学びの場としての豊かさも垣間見ることができる素晴らしい文化財だった。


2021年2月24日水曜日

帝釈天で彫刻鑑賞

「彫刻の寺」とも呼ばれる柴又の帝釈天の境内は数多くの彫刻で飾られている。中でも「彫刻ギャラリー」は必ず見学したい場所。


彫刻ギャラリーの目玉は「法華経説話彫刻」という10枚組の木彫り。大正から昭和にかけて制作された欅の厚板の胴羽目彫刻が、帝釈堂の建物の三方を取り囲む。東京の10人の彫刻家の競作で、いずれも劣らぬ力作揃い。それぞれが物語の一場面を細かにそして立体的に表現し、20センチという板の厚さ以上に奥行きを感じさせる。


彩色されていないのに、今にも動き出しそうな臨場感と躍動感。繊細な花の質感もリアルだった。その緻密な彫りの技量にただただ感動。


この胴羽目彫刻は、もともと横山大観の「群猿遊戯図」が彫られる予定だったのが、何かの理由で変更になったらしい。大観による下絵とされるものが大客殿に飾られている。果たしてこちらが実現していたら、だいぶ違った感じだったんだろうと想像する。


この大客殿と庭園の「邃渓園(すいけいえん)」は、彫刻ギャラリーとセットで見学できる。大客殿から伸びる回廊を歩いてぐるりと庭園をめぐる。


平日で人も少ない庭園散策は、ちょっとしたオアシス。芸術と緑に触れてリフレッシュされた訪問だった。


柴又の山本亭と、ノスタルジックな町並み

葛飾の柴又へ。柴又といえば日本人にとっては寅さんの代名詞だが、それだけではない。ここには海外でも名高い日本庭園「山本亭」がある。

山本亭は「Sukiya Living」というアメリカの日本庭園専門誌のランキングで常に上位に入っているそうで、2020年の発表では4位だったことを告げる嬉しそうな張り紙が入口にあった(ちなみに18年連続1位は島根県の足立美術館)。

そう聞くと、何か鑑賞の心得をもって臨まなくてはならないような気になるが、そんなことは全くなく、素敵なレトロ邸宅として見に行くだけで十分楽しめる。実際、入館料も100円(2021年2月現在)でとても敷居が低い。


山本亭は大正末期から昭和初期に建てられた個人の邸宅。書院造をベースに西洋の要素を取り込んだ近代建築の母屋の前に伝統的な庭園が広がる。


庭園に沿って伸びる長い廊下には、当時流行りだった大きなガラス戸がはめ込まれ、明るい自然光が家全体に差し込む。間仕切りを取り払った広い和室に座り、ゆっくりお茶をいただきながら、窓枠を額縁に見立て静かに庭園を眺めるひと時を過ごすのがお勧め。


松の木の雪吊りの立派なこと。花が咲く春も美しいに違いない。



さて、山本亭ですっかり穏やかな満ち足りた気持ちになったところで、せっかくここまで来たのだから、やはり「寅さん記念館」にも行ってみたい。山本亭とのセット券も販売されていて、柴又駅方面からは山本亭の敷地を通ってアクセスできる。


行ってみてわかったのは、寅さん記念館は、寅さんファンでない人も、寅さんの映画を全く見たことがない人も楽しめる必見スポットだということ。特に縮小サイズで再現された昭和30年代の帝釈天参道の町並みの精巧さには目を見張った。店先の商品や張り紙から、縁日の屋台で売られている小さなお面のひとつひとつに至るまで、ディテールの再現にも一切手抜きがなく、見事!これは世界に誇れるレベルだと思う。

現在の帝釈天参道にも旧き良き時代の雰囲気を残す柴又は、2018年に都内で初めて国の「重要文化的景観」に選ばれたとのこと。優しく楽しいノスタルジーに満ちた町だった。