2021年10月30日土曜日

小江戸川越散歩

川越は稀有な町だと思う。東京からそう離れていないのに戦争で空襲を逃れ、江戸時代の建物やお城の本丸が戦後もきれいに保存されてきたのは奇跡に近い。


雲一つない青空に映える蔵造りの街並み。時が止まったかのような完璧な佇まいに、誰もいなかったら異次元に迷い込んだような怖ささえ感じそうだった。が、平日の朝から観光客や遠足の小中学生が行き交っているのでその心配はない。それにしても高層ビルに囲まれることもなく、開けた空まで残っているのは素晴らしい。

川越城本丸御殿は東日本に唯一残る本丸御殿の遺構。築城は15世紀半ばで、今残っている本丸御殿は1848年に新たに建てられたもの。明治以降は工場になったり学校になったり様々な用途で使われ、1967年に大規模な修復が行われて公開された。派手さはなく実直な感じだが、威容がある。家老詰所にだけ人形があり、リアルによくできてる。


その他の川越の楽しみのひとつは食べ歩き。あちこちで名産のさつま芋を使ったお菓子や、醬油を塗った焼き団子などが売られている。今は歩きながらではなくお店の前で立ち止まって食べる人が多いけれど、「買い食い」の魅力は衰えない。


1500年の歴史を持つ氷川神社では中学生たちが「鯛釣り」おみくじに群がっていた。


オーセンティックな町並みと観光地的要素の両方がバランスよく共存する川越。東京から半日で行って帰ってこられる遠足スポットは、あらゆる年代の人が楽しめる。

2021年10月16日土曜日

東京の酒蔵 澤乃井

東京にも多摩川が流れるエリアを中心に日本酒の酒蔵が何軒かある。その中の一軒、「澤乃井」で知られる小澤酒造は、奥多摩の美しい清流沿いに位置し、日本酒だけでなく自然散策も楽しめる。


都心から電車で約1時間半。無人の沢井駅を降りて歩いて行くと麹がほのかに香り、すでに澤乃井の工場のすぐ脇を通っていることに気付く。通りの向かいの「澤乃井園」までは5分くらい。

川のほとりの庭園にはレストランや売店があり、平日でもそれなりに賑わう。必ずしも酒蔵見学が目的でなくても、緑に囲まれた屋外で食事をしたり、多摩川沿いの遊歩道をハイキングしたり、過ごし方は色々。澄んだ流れではカヌー遊びをする人たちもいた。

橋を渡ると寒山寺という小さなお堂もある。石段の手すりを覆う苔を傷つけないよう、触らずに上る。

さて、澤乃井園に戻り、予約していた酒蔵見学へ。庭園から地下道を通って駅側に戻り、工場に行く。見学ツアーは今は完全予約制で、コロナ対策のため内容を簡略化し、試飲は無し。それでも創業320年近い酒造の蔵の中に入れるのは、それだけで期待感がある。

蔵の中は外光が入らず、空気は少しひんやり。大きなタンクが並ぶ薄暗い通路を歩くと、18世紀創業の酒造の長い歴史も重なり、シャンパーニュ地方のカーヴを思い出す。

タンクの容量は一つ8,000リットルを超える。約44,000合。1日1合飲んで120年かかるとの説明に、ピンとくるような、気が遠くなるような。


昔は酒造りの時期になると新潟から農家の働き手たちがやってきて、集中的に生産をしていたそう。時代が変わりそうした農家の人手も減り、今は社員が酒造りをしている。製造工程も機械化されているが、最近は大きな杉の木桶を使った桶仕込みを復活させる試みもしているとのことだった。


石の洞窟の奥に仕込み水となる湧き水の井戸がある。澄んだ水が豊富に流れる多摩川のほとりにありながら、秩父古生層の厚い岩盤からじわじわ湧き出る貴重な石清水を使っていることを今更ながら知る。ミネラル分豊富な中硬水だそう。

蔵の中の棚には熟成酒「蔵守」の瓶が並ぶ。瓶の中で熟成させるヴィンテージ古酒。20年くらい寝かせてあるものもあった。開封していない日本酒の瓶を新聞紙にくるんで、押入れの奥の涼しい所に保管しておけば、家でも熟成酒ができますよ、とのお話だったが、マンションのクローゼットの奥では、きっと無理だろう。昔の日本家屋は優秀だった。

ということで、ツアー終了後、きき酒どころで「蔵守」を味わってみることに。きき酒どころでは10種類のお酒を出していて、200円から500円で試飲できる(特製きき猪口付き!)

「好き嫌いが分かれます」と言われた4年ものの古酒は、薄い琥珀色がかっていて、香りは表現するのが難しいが、私は「ソバの花のはちみつ」に共通する香りを感じた(さっぱりわからないたとえかもしれませんが)。外の木々の緑を見ながらじっくり味わい、帰路についた。

新酒が出るまであと少し。蔵の前の杉玉も新しい緑のものに替わる。紅葉が深まるこれからのシーズン、新酒と自然を求める人でますます賑わうに違いない。