2024年4月27日土曜日

シンガポールのクラフトジン

「Brass Lion Distilllery」は、約5年前に開業したシンガポールで最初のジン蒸留所。1時間の見学ツアーに参加した。


シンガポールと言えばタイガービールをはじめとするご当地ビールが豊富だが、国産のスピリッツがなかった。そこで「作ろう!」と発起した若い起業家の女性オーナーが、海外のジン蒸留家に弟子入りしてジン造りを自ら学び、技術を持ち帰った。

ここでのジン造りは、蒸留、瓶詰、ラベル張りまで、そう広くはない一室で完結する。ツアーが行われるのは製造がお休みの週末。フラッグシップ商品の「シンガポール・ドライ・ジン」には22種の原料が使われている。標準的に使われるジュニパーベリーなどの他、アジアらしさ、シンガポールらしさを打ち出すためレモングラスやジンジャーフラワーも加えたオリジナルの配合。見学者もいくつかの材料の香りを嗅いでみる。へえ、透明なジンもこんなに複雑な香りから生まれるのね、と認識を新たにする。中国の薬草酒か何かの原料を見ているようでもあり、ボトルからは全く想像がつかない。

小さな蒸留所ならではのエピソードを聞けるのこのツアーの面白さ。なにしろシンガポールで初めてのケースなので、蒸留所の申請をしたのに醸造所の許可証が出てきたり、お役所も迷走したらしい。


ボトリングマシーンで一度に4本の瓶にジンが注がれた後は、なんと今でもスタッフが一本一本、手で栓をしている。そして栓をされたボトルにラベルを一枚一枚張るのもスタッフ。デザイナーが紙にもこだわった結果、厚すぎて自動ラベル貼り機に入らなかったんだとか。でも並べておきたくなる美しいラベルは、その労力の価値が十分あると思う。


ツアーの後はバーに移動してテイスティング。さっき見た数々の植物の香りを探しながら3種のジンを味わう。真ん中のバタフライピー・ジンは、エルダーフラワーティーを注ぐと色が赤っぽく変化する。アントシアニン色素のなせる業と後で知った。

わずか1時間のツアーで、普段はジンを飲まない私もジンとの距離が少し縮まり、世界が拡がった。もっとジンを極めたい人には、自分のオリジナルジンを蒸留する半日クラスも開催されている。

Brass Lion Distilleryも言っているように、"Don't just drink it. Experience it!"


2024年4月21日日曜日

シンガポールで壁画巡り ②チャイナタウンとチョンバル

シンガポールのアーティストYip Yew Chongさんの作品は、観光地から住宅街まで様々なエリアにある。

日本でいうところの「昭和の時代」の日常を題材にしたものが多く、特にチャイナタウンに集中している。




昔の値段の公衆電話と、現代(2019年)の日付のカレンダーが同居している。こういうディテールを見つけるのも面白い。

コナンがドリアンを買いに来ている作品も有名。


チャイナタウンの寺院の壁にはもっと昔の風景を描いた作品もある。中華系の人々の働きによって栄えた港町ボートキーの19世紀当時の様子と、遠くにマリーナ・ベイサンズなどがそびえる現代のスカイラインまで、2世紀にわたる物語がひとつの絵巻のように展開する。




ローカルに人気のチョンバル(Thiong Bahru)というエリアにも3つの作品がある。1930年代にシンガポール初の住宅街として開発されたチョンバルは、今でも当時のアールデコ調の建物が並ぶ。


「Home」という作品は、そんな住宅街の一室の風景を描いたものだろうか。当時はどんな家にもあったであろう家財道具に囲まれてくつろぐ住人。絵の中のカレンダーの日付は1979年1月とある。

チョンバルは古くから市場を中心に発展してきたが、21世紀に入って再開発が進み、現在では若者にも人気のお洒落なエリアになっている。その歴史をたどる「ヘリテージトレイル」のウォーキングツアーをしている人たちもチラホラ見かけた。

Yipさんの作品でも、昔の露天商や占い師の様子がリアルに再現されている。




中でもチョンバルならではの歴史を物語るのは「Bird Singing Corner」という作品。地元の人がコーヒーを飲みながら、のんびりと籠の中の鳥たちの声に耳を傾けている。2003年まで実際にあった場所だそう。

壁画が縁で知らなかった場所に行き、その歴史を少し知ることができたのは旅の収穫。理想的なストリートアートの在り方だと思う。


2024年4月15日月曜日

シンガポールで壁画めぐり ①カンポングラムとクラーク・キー

昨年6月にシンガポールで見たYip Yew Chongさんの壁画(リンク)があまりにも面白かったので、また見に行ってきた。

Yipさんの作品は1970年代頃のシンガポールの生活を描いたものが多く、ノスタルジックながらもリアルな描写で、人々を絵の中の世界に引き込んでしまう。

今回は新作を見にカンポングラムへ。アラブ系とマレー系の伝統が残るこの地区には2023年8月に完成した超大作がある。

3階建ての建物の壁全面に描かれたのは、屋根から掛けられた大きな布が象徴する布地屋の風景。この建物で50年以上布地卸業を営むオーナーの注文で制作されたもの。(手前に並ぶ4つのタイル画の石柱は以前からあったもので、Yipさんの作品ではない。)


絵は隣の棟にも続き、布地屋以外のスモールビジネスも描かれている。


この壁画はカンポングラム活性化5か年計画の口火を切るものでもある。Yipさんが自身の記憶とリサーチによって作成した下絵は都市再開発局に提出され、歴史専門家などのフィードバックも得て作品に反映された。カンポングラムにはこれまでもストリートアートは存在していたが、この作品は同地区の今後のアートのレベルを一段上げるに違いない。

カンポングラムにもう一つある新作はバスケットと猫の絵。ここは本当にバスケット屋さんなので看板代わりになっている。写真に撮った時の「3D感」もまたYip作品の特徴の一つ。



次はクラーク・キーへ。カラフルな建物が並ぶリバーサイドエリアもリノベーションが進行中。今年完成したばかりのYipさんとtobyatoさんというアーティストの共作「Fire Fish」が、きっと前は地味だったであろう倉庫街を鮮やかに彩る。



古き良き時代を彷彿とさせるタッチと、大胆な現代風のデザインが融合して、なんともかっこいい。

次回へ続く。