2015年5月31日日曜日

バンコクの現代美術館 (MOCA Bangkok)

バンコクでコンテンポラリーアートを見るなら、まずはMOCAへ。

2012年3月にオープンした比較的新しいこの美術館は、バンコクの中心街から北へ約14km。電車は通ってないので、タクシーで行くのが最も便利だが、いつ行ってもひどいバンコクの渋滞にはまると、1時間はかかる(ラッシュアワーを外せばいいとは限らない)。当然、ショッピングエリアからも離れてるので、買い物のついでに寄ろうかな、という生半可な気持ちだと行けない。

観光客がいない、普通の生活がある通りを延々と走り、やっとたどり着く。

建物は「一つの花崗岩の塊から切り出した」イメージで作られた、白い直線的なデザイン。中に入ると、吹き抜けのロビーの壁の透かし細工の窓と、天窓から差し込む自然光が、不思議な模様を描いている。

MOCAが建てられた意義の一つは、「タイ近代美術の父」と呼ばれた20世紀の彫刻家シン・ピーラシーを讃えること。彼はイタリア人でありながらタイに帰化し、亡くなるまでタイの美術界の発展に寄与し続けた。西洋の写実主義や印象主義を取り入れ、それらをタイのローカルなテーマと融合させながら、他の先進諸国に引けを取らない技術を弟子たちに教えた。

ここに展示されている作品の多くは、ピーラシーの弟子たちや、それに影響を受けたアーティストたちによるもの。展示はフロア毎に年代別・テーマ別に分かれ、歩いていくと係の人が順路を手で示してくれるので迷わない。

タイの現代アートが、中国や香港などのそれと決定的に違うのは、その仏教色の濃さ。リアリズムを追究したというピーラシーの教えも如実に反映され、超細密・極彩色、更にはファンタジックな世界観が全体に拡がる現代仏画、そして多くが大型作品で、初めて見る者は結構圧倒される。中にはちょっとグロテスクなものや、アニメの影響が感じられる作品もある。(自分の家に飾りたいかというと、決してそうではない。)

宗教観抜きで鑑賞できる作家のひとりはThawan Duchanee。 世界中で活躍している現代のタイの巨匠とも言える人物。力強い筆遣いと、伝統と現代性を織り交ぜた作風。モチーフも動物など普遍的なものが多い。



タイの芸術の様々な表現を垣間見られるMOCA。是非時間を取ってじっくり鑑賞したい。






2015年5月9日土曜日

「Saint James Paris」展と「Le Fil Rouge」展

先日、表参道で二つの展示を見た。

ひとつはGyleで5/10まで開催中の「Saint James Paris」展。建築フォトグラファーのジミー・コールセン氏がパリの5つ星ホテルサン・ジェームス・パリを撮った写真展。写真集の発売に合わせたイベント。

2011年に改装されたホテルの内装を様々な角度から撮影した作品が並ぶ。奥行の先までくっきりと、左右対称に捉えられたロビーや大階段や、だまし絵の壁紙をバックにした室内の風景など、スーパーリアリズムの絵画のようにも見えてくる。

実際、すぐ後に入ってきた学生風の男性二人組は、「すげー、写真みたい。」、「写真だろ、これ。」、「違うよ、絵だよ、絶対!」と言い合っていた。(私は「写真!」と横から口を挟みたくなるのを我慢して通り過ぎた。)

プロジェクターで写真を大写しにした壁の前に立つと、自分の後姿の影がそこに重なり、ホテルの中に立ってその風景を眺めている自分の姿を見ているような気分になる。

ある意味、サン・ジェームズ・パリに実際に行った以上に、サン・ジェームズ・パリにいたような、そんな印象が残る展示。

もうひとつは、エスパス・ルイ・ヴィトンの「Le Fil Rouge」展。ホールの大部分は、世界の著名ギャラリーでも扱われているアーティストTatiana Trouvéの「250 Points Towards Infinity」という作品が占める。

それぞれ先端に鉛の重りがついた糸が何百本も天井からぶら下がっている、だけかと思えば、よく見るとそれぞれの先端が違う方向を指している。重力に逆らうように。
(実際は、それぞれの鉛が目に見えない磁石でポジションを保っているそう。)

これもまた、自分の立ち位置が一瞬揺らぐような、不思議な感覚を覚えた。


ちょっとリフレッシュした午後。