2012年3月にオープンした比較的新しいこの美術館は、バンコクの中心街から北へ約14km。電車は通ってないので、タクシーで行くのが最も便利だが、いつ行ってもひどいバンコクの渋滞にはまると、1時間はかかる(ラッシュアワーを外せばいいとは限らない)。当然、ショッピングエリアからも離れてるので、買い物のついでに寄ろうかな、という生半可な気持ちだと行けない。
観光客がいない、普通の生活がある通りを延々と走り、やっとたどり着く。
MOCAが建てられた意義の一つは、「タイ近代美術の父」と呼ばれた20世紀の彫刻家シン・ピーラシーを讃えること。彼はイタリア人でありながらタイに帰化し、亡くなるまでタイの美術界の発展に寄与し続けた。西洋の写実主義や印象主義を取り入れ、それらをタイのローカルなテーマと融合させながら、他の先進諸国に引けを取らない技術を弟子たちに教えた。
ここに展示されている作品の多くは、ピーラシーの弟子たちや、それに影響を受けたアーティストたちによるもの。展示はフロア毎に年代別・テーマ別に分かれ、歩いていくと係の人が順路を手で示してくれるので迷わない。
タイの現代アートが、中国や香港などのそれと決定的に違うのは、その仏教色の濃さ。リアリズムを追究したというピーラシーの教えも如実に反映され、超細密・極彩色、更にはファンタジックな世界観が全体に拡がる現代仏画、そして多くが大型作品で、初めて見る者は結構圧倒される。中にはちょっとグロテスクなものや、アニメの影響が感じられる作品もある。(自分の家に飾りたいかというと、決してそうではない。)
宗教観抜きで鑑賞できる作家のひとりはThawan Duchanee。 世界中で活躍している現代のタイの巨匠とも言える人物。力強い筆遣いと、伝統と現代性を織り交ぜた作風。モチーフも動物など普遍的なものが多い。
タイの芸術の様々な表現を垣間見られるMOCA。是非時間を取ってじっくり鑑賞したい。