2013年10月27日日曜日

ニュージーランド マールボロ・サウンズ④Bay of Many Coves

Bay of Many Coves (以下、BOMC)は、ピクトンから30分ほどの小さな湾にあるリゾート。

海に面した斜面に、全室オーシャンビューのアパートメントが11棟並ぶ。前述したとおり、ここへのアクセスは簡単ではない(10月20日付ブログ)。入り口はジェッティーと呼ばれる桟橋か、小さなヘリパッドのみ。でもそれがエクスクルーシヴ感を一層高め、そういう環境を求めてやって来る客層とうまくマッチしているように思う。ゲストのほとんどがニュージーランド国外からで、日本よりはるかに遠いヨーロッパからのゲストの比率が高い。

ここの魅力は、なんといってもその自然。目の前に拡がる美しく穏やかなマールボロ・サウンズの海と、背後の緑豊かな山に囲まれたBOMCでは、各種のウォーターアクティビティの他、リゾート内での軽いハイキングから、クイーンシャーロット・トラックでの本格的なトレッキングまで楽しめる。しかし敷地内の豊かな森は、もともとあったものではないと聞いて驚く。

Bay of Many Covesの森

BOMCは、もともと2003年から営業していたリゾートを現在のオーナーが買い取り、リノベーション後、2年ほど前にラグジュアリーリゾートとして再オープンしたもの。その際に現オーナーは、野生の鳥たちが棲む森の再生をめざし、敷地内に1万本以上の木を植えた。

マールボロ・サウンズ
地元の自然を取り戻そうという試みはBOMCに限らない。マールボロ・サウンズ内やピクトンでも、特定の種類の木だけが立ち枯れているのを見た。これは、後から入ってきたヨーロッパや米国原産の木がはびこり、ニュージーランドの植生を脅かすようになってしまったため、そうした欧米産の木だけを薬品で枯らし、ニュージーランド原産の木々が再び育つ環境を整えているのだそうだ。

今ではBOMCにはたくさんの野鳥たちが暮らしている。早朝、一定の音階を正確にリピートする不思議な鳥の声が目覚まし代わりにもなった。

毎朝通勤するのは困難なロケーションなため、20名弱のスタッフは皆、リゾート内の宿舎に住んでいる。オーナーは彼らを「ファミリー」と呼ぶ。また、全11室なのでゲストの数も多くはない。何日か滞在すると、スタッフとゲストの間にも一種の安心感と親しさが生まれるが、下手な家族経営の宿によくある「うっとおしさ」は一切ない。プロのスタッフたちは、その一線を守りながら、心のこもったサービスを提供している。

スタッフの一員であり、ゲストのアイドルなのが犬のメルロー。ワイン産地らしい名前。人懐っこく賢い大型犬で、お客が船で到着、出発するときは、必ず桟橋まで出迎えと見送りに来る。

日中のBOMCは、船でカフェにランチを取りに来る日帰り客もいて、それなりに賑わうが、夜は宿泊客のみになる。

簡単に外出することが難しいリゾートでは、食事の質は非常に重要だが、ここのメインダイニングでの食事は毎日楽しみだった。ドイツから来た若いシェフは、ともすれば大味になりがちな肉・魚料理をセンス良く料理し、繊細な味付けで見た目も美しい作品に仕上げてくれる。フロアの英国出身の女性スタッフは、様々なニュージーランド産ワインと料理のペアリングを上手に提案する。また、ディナータイムはメインダイニングの利用は大人のみに限っており、大人のゲストが落ち着いて食事を楽しめる空間になっていることも大きい。


そのダイニングから見えた満月の神秘的な風景が印象に残っている。サウンズの海に伸びる輝く光の道。ここは、自然のパワーを確実に受けている。



2013年10月26日土曜日

ニュージーランド マールボロ・サウンズ③ドルフィン・スイム

マールボロ・サウンズでは年間を通じてイルカが見られる。マールボロ・サウンズを構成するここクイーン・シャーロット・サウンドでは、コモン・ドルフィン、ヘクターズ・ドルフィン、ダスキー・ドルフィンの3種類がよく目撃されるそうだ。人気のドルフィン・ウォッチツアーでは、冬以外はイルカと一緒に泳ぐ「ドルフィン・スイム」も選べる。まだ春先で水は冷たいけど、私もウェットスーツを借りて参加した。

もともとサウンズ内の海は湖のように穏やかだが、その日は更に風一つなく、海面が鏡のように静かな絶好のイルカ探し日和。リトルペンギンというその名の通りの小さなペンギンが、水面から頭だけ出して泳いでいく姿も見えた。船は静かに進みながらピクトンの港の近くでイルカを待っていると、やがて小型のダスキー・ドルフィンの一団を発見!慣れた船長さんはイルカの進む方向を予測して回り込み、船を止めた。


イルカたちは好奇心が旺盛で、水に入った私の周りに寄ってきた。サウンズ内の海の水は、きれいだが透明度は高くない。ハワイのように透明度が高い海でのドルフィン・スイムは、自分の5m下をすり抜けて泳いでいくスピナー・ドルフィンたちを目視し追いかけていく感じだが、ここの水はそういうのには向かない。それに、ここでのドルフィン・スイムはフィンを使わない。フィンで水しぶきが上がると、イルカたちは追い払われていると思い遠ざかって行ってしまうのだそうだ。私もシュノーケリングはかなり馴れているほうだが、さすがにフィン無しでイルカを追いかけるなんて、無理に決まってる。そういう事情を知ってか知らずか、ダスキー・ドルフィンたちはほんの1mくらいの距離にまで近づいてきてくれた。なんてわかってるんだろう!感心、そして感謝。

イルカたちと別れた後は、アザラシも発見。滞在中は見ることがなかったが、時々オルカも出るらしい。野生の生き物たちが豊富なサウンズの海の自然は、ツアー運営会社も含め、地域の人々の高い意識によって守られている。





2013年10月25日金曜日

ニュージーランド マールボロ・サウンズ ②ワイナリー巡り

マールボロ地方はニュージーランド最大のワインの産地。同国のワインの生産量の70%を占め、ソーヴィニヨン・ブランに限ると85%を占める。

南島の北部にあるブレナム空港の周辺は、見渡す限りのブドウ畑、ときどき羊、という風景が広がる。ニュージーランドでも最も晴天率が高い場所のひとつで、土地も肥沃なことから、ワイン用ブドウの栽培にはもってこいなのだそうだ。量だけでなく、品質でもニュージーランド最高級のワインが作られている。マールボロ地方のワイン産業の歴史は比較的新しく、本格的に始まったのは1973年。それが今では百以上のワイナリーを抱える国内最大の産地となり、ニュージーランドのソーヴィニヨンブランの名を世界に轟かすまでになった。


地域の多くのワイナリーがビジターを受け入れており、テイスティングや購入ができる。私も地元のガイドさんの案内でいくつかのワイナリーを廻った。



Hunter's
最初に訪れたのはHunter's。1970年代から続く、この地域では老舗のワイナリー。テイスティングコーナーのテーブルに並べられたボトルから、愛想のいいベテランのマダムが、「2013年のソーヴィニヨンブランよ。」と言って注いでくれた。普段、北半球のワインを飲み慣れているため、一瞬「ん?」と思う。北半球では2013年のブドウで造られたワインが市場に出るのは普通は2014年の春。今はボジョレー・ヌーヴォーさえ出ていない2013年の10月。ちょっと考えれば当たり前だけど、南半球のここでは、2013年の3月頃収穫されたブドウの新酒が10月から出てくるのだ。冬(日本では夏)の間はクローズし、新酒が商品として出荷される10月からオープンするワイナリーも多い。各ワイナリーの今年の出来立ての新作を飲み比べるには絶好のタイミングだった。

ニュージーランドワインの特徴の一つともいえるのがスクリューキャップ。聞けば、このあたりでも最初はコルクを採用していた。しかしポルトガルなどから輸入された二流の品質のコルクがワインの質の劣化を招いたため、Hunter'sを含む数件のワイナリーが立ち上がり、試行錯誤の末、今の材質と形状のスクリューキャップに落ち着いたのだそうだ。


次は、ニュージーランドワインの代名詞ともいえるCloudy Bayへ。まだ背が低いブドウの木が並ぶ向こうに、あの有名なラベルに描かれた山並みが見える。

Cloudy Bayから見える山

Cloudy Bayでのテイスティングは有料(5NZドルから)。今年のソーヴィニヨンブランと、樽で寝かせた2009年のソーヴィニヨンブランの2種類を飲み比べた。スタッフの女性が「これは人によって好き嫌いが激しいのよ。」と言いながら後者を注いでくれた。実は到着前にガイドさんも若干否定的なニュアンスで、そんなことを言っていた。確かに、今年のフレッシュなソーヴィニヨンブランのあっさりした味わいに比べると、樽香がしっかり効いたそれはまったく別物。私は後者のほうが好みだったのでそう伝えると、スタッフの女性は「そうでしょ?」という感じで嬉しそうに笑った。
 

マールボロにもオーガニックの製法を採用しているワイナリーが数件ある。ガイドさんにお願いし、そのうちの2軒へ案内してもらった。


Seresin
一軒はSeresin。映画撮影監督のマイケル・セレシン氏が経営するワイナリー。トタンでできた小さな建物に、手のひらのロゴの焼き印が押された木の看板の素朴な外見。ワインは全てオーガニック且つビオディナミ製法で、オーガニックのオリーブオイルも作っている(お土産にぴったり)。最近は酸化防止剤無添加のワインも始めたが、まだ商品化はしていないそう。
 
 
 

Hans Herzog


もう一軒はHans Herzoc。スイスでは1630年から続く歴史あるワイナリーで、ここマールボロでは1990年代にスタート。そのテイスティングルームは他のワイナリーとはちょっと違った重厚なヨーロッパテイスト。ここでも化学肥料や添加剤は一切不使用で、含まれる酸化防止剤の硫黄も自然のもの。またマールボロでは少数派の、コルクを採用している4軒のワイナリーのひとつでもある。個人的にはここの2010年のソーヴィニヨンブランが最も好みに合ったので、1本購入し持ち帰った。
 

まだ若葉のブドウが並ぶ春のマールボロ。2014年の収穫に向けたシーズンが始まる。
 
 
 
 

2013年10月20日日曜日

ニュージーランド マールボロ・サウンズ ①フィッシング

春先のニュージーランド。今回の旅の目的は、南島の最北部のマールボロ・サウンズ(Marlborough Sounds)にある、Bay of Many Covesでの滞在。サウンズは海峡や入江と訳される。ここマールボロ・サウンズは、日本でいうリアス式海岸のような複雑な地形で、その海岸線の長さの合計は実にニュージーランドの海岸線の総距離の5分の1を占める。

Bay of Many Covesは、マールボロ・サウンズを構成するQueen Charlotte Soundのいくつもの湾のひとつで、湾の名前がそのままリゾートの名前になっている。アクセスはいくつかのルートがあるが、最後は海か空からでないとたどり着けない。今回は、東京からオークランド経由でブレナムまで飛び、空港から車で25分くらいのピクトンという港から、ウォータータクシーで更に約30分。オークランドからの国内線が少し遅れたこともあって、乗り継ぎ時間も含め20時間近くの長旅。前日まで吹き荒れていたという嵐はすっかりおさまり、穏やかな空が迎えてくれた。

これだけ時間をかけて行くからには、一つのリゾートにじっくり滞在し、その土地ならではのアクティビティも満喫したいので、事前にいくつかアレンジしてもらっていた。

その一つがフィッシング。少人数でも小さな船を3時間からチャーターでき、初心者から上級者までが楽しめる。

5代前から地元に住むガイドのマークさんの案内で出発。目当てはこのあたりで有名なブルーコッドという魚。9月1日から12月19日までは、サウンズ内での釣りは禁止されているため、30分くらい船を走らせて外海に出て、北島を近くに臨む場所に船を停めた。

私は生まれて初めの釣りで、釣竿の持ち方も全く知らなかったが、マークさんにリールの基本的な扱い方を教わり、エサも針につけてもらい、言われた通りに、重りのついた糸をチャポンと海に落とした。ほとんど自力でやってないが、それでもいきなり釣れるわけないし、まあ、気長に待とう・・・

・・・いきなり釣れた(どうしよう)。それも、2匹続けてブルーコッド!

このエリアでのブルーコッドの捕獲はひとり3匹まで、体長は30㎝から35㎝の魚のみと決まっている。釣れたブルーコッドは物差しで測り、当てはまらなければすぐにリリースする。ブルーコッドが30㎝に成長するには15年くらいかかるので、それに満たない子供と、繁殖力のある大型の成魚は海に帰すルール。

私が釣ったのは33㎝くらいの「大物」で、その日釣れた最大のブルーコッド。ビギナーズラックは、ギャンブルに限らない。

テラキヒ
マークさんは大型のテラキヒという、やはり人気のローカルフィッシュを釣り上げていた。

次は帆立を採りに移動。どうやって採るのかと思って見ていると、マークさんは潮干狩りで使う熊手を大きくしたような金具がついた網を海に投げ入れた。それを船でしばらく引きずってから船に上げると、ほんとに帆立がごろごろ入ってる。海底にある帆立を熊手が掻き出して網に入れていく、シンプルでとても効果的な漁法。すごい。
 
その採りたての帆立を殻から出してもらい、船の上で食べたときの感動といったら!海水の自然の塩分がちょうどよく、これまでに食べたどんな生帆立より美味しく感じた。
 
他の魚も、マークさんが上手に三枚におろしてくれたものを持ち帰り、リゾートのレストランで調理してもらった。

Bay of Many Covesのドイツ人シェフ、ハナスさんの手で美しく調理されたブルーコッドとテラキヒ。地元産のソーヴィニヨンブランにぴったり。

これこそ、釣りの贅沢な締めくくり。