2014年10月31日金曜日

「ザハ・ハディド」展で考えた未来の東京

東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「ザハ・ハディド」展。
建築家の回顧展から想像するものとは違う、独特の空間が展開されている。


展示は主に、実現したもの、しなかったものを含め、ザハの建築のドローイングや模型、デザインビデオなどで構成されている。最初の展示室の壁一面にかけられたドローイングはまるで、カンディンスキーの抽象画かマティスの切り絵のような印象。建築のデザインとは思えない不思議な雰囲気に惹かれ、じっと見入ってしまうが、実際に建築物として完成した姿は、少なくとも一般人には、想像できない。

80年代、時代や技術が追いつけず、ほとんどが実現しなかったという彼女のプロジェクトの中には、東京の麻布十番や富ヶ谷に建てられるはずだったビルもあった。けれどそれらが実現していたとしたら、後になってバブル期の象徴としてひとまとめに葬り去られた可能性もあったわけで、実現しなくて良かったのかな、と思う。

ザハの斬新で独特な建築は、現在は世界のどこの都市においても、「溶け込むもの」としてより「際立つもの」として存在している。2020年に向けた新国立競技場のコンペも、「未来を示すデザイン」であることが審査のポイントになったという記事を読んだ。つまり今から6年後の東京において未来的であることを求められていたわけで、景観との調和は最初から考えられていなかった。ランドマークとはそういうものかもしれない。

未来のいつか、ザハ・ハディドの建築が東京の街並みに溶け込む日が来るだろうか。



2014年10月25日土曜日

チューリヒ美術館展で感じた豊かさ

国立新美術館で開催中の「チューリヒ美術館展」。
カラフルで、複数の意味で「豊かさ」を感じる展示。

チューリヒ美術館のコレクションの中でも、とりわけ日本人に馴染みがある作家や時代の作品を選んだことがわかる。「すべてが代表作」という謳い文句そのままに、話題のモネの幅6mの睡蓮の大作の他、セザンヌが好んで描いた「サント・ヴィクトワール山」から、ピカソ、ゴーギャン、マティス、ダリなどそれぞれの作家の特徴がパッと見てわかる作品、「叫び」しかイメージされないムンクによるテイストの違う肖像画、そしてセガンティーニやホドラーなどスイスゆかりの作家の作品まで、ひとつひとつが目を引く、充実したラインアップ。

そして作品の多くが鮮やかで豊かな色彩に満ちていることも、この展示のひとつの特徴。

チューリヒ美術館の所蔵作品10万点のうち、3分の2が寄贈とのこと。金融都市チューリヒの経済的豊かさはもちろん、人々の優れた審美眼、そして市民の芸術鑑賞環境の豊かさを思った。

(チューリヒ美術館展は2014年12月15日まで国立新美術館で開催)

2014年10月24日金曜日

青参道アートフェア

表参道から青山通りに抜ける裏道に「青参道」という名前がついていることを昨日初めて知った。きっかけは、インターネットでたまたま見つけた青参道アートフェアというイベント。

今週木曜から日曜の4日間のみ開かれているこのイベントは、アートを身近に楽しむことを知ってもらおうという趣旨で、表参道・青参道の40軒近いギャラリーやショップを会場に、アフォーダブルな価格のアート作品を展示・販売している。エスパス・ルイ・ヴィトンなど展示のみのところもあるが、他はほとんどの作品が購入可能。

参加している各ショップの入り口には、目印のブルーとシルバーの風船が揺れており、夕暮れ時を過ぎた暗がりでも見つけやすい。

イベントの今年のテーマは写真。作品はショップのインテリアの一部となって、さり気なく展示されている。

このアートフェアのあり方は、アーティストにも店や地域にもいい相乗効果をもたらしていると気付く。

普段、無目的に初めての店に入ることをしない人にとって、アートを見ることは店に入る格好の目的を与えてくれる。このイベントがなければ存在に気付かなかった店を知るきっかけにもなる。店の人も、客がアート目的で来ていることをわかっているのでしつこく接客せず、客は心地よい距離感の中で鑑賞できる。そして、意外と自分の好みに合うものを置いている店だと気付くことだってある。

実際私も、このイベントがなければ一生足を踏み入れなかったであろう、建物の2階にあるブティックに上がって行き、そこでスカートを衝動買いした(アートではなく)。


アートもギャラリーの白い壁ではなく、普段のコンテクストの中で展示されているので、自宅での飾り方がイメージしやすく、購入に結びつくかもしれない。

地域振興の一環で開催されるビエンナーレなどのアートイベントは多いが、イベント終了後のリピート客に繋げるイベントの在り方としては、青参道アートフェアは上手だと思った。






2014年10月17日金曜日

The Mirror 銀座に出現したアートスペース

23日間限定で銀座で開催中のアートイベント「The Mirror」へ。

会場は「名古屋商工会館」という、銀座4丁目とは思えない名前のビル。1930年に建てられたこのレトロなビルは、もうすぐ取り壊しが予定されており、一棟丸ごと、コンテンポラリーアートスペースとして最後の活躍をしている。

美術展には珍しく当日券はなく、完全事前予約制。そう言われると一瞬、面倒くさ、と思ってやめそうになるが、そこで踏みとどまる人だけを集めるにはいい方法かもしれない。

各日400名限定という定員は、建物の構造にも配慮してのことらしい。

各フロアは狭い廊下に沿った小さな部屋に分かれていて、それぞれのドアにアーティストの名前が書かれている。この古い校舎のような、実験的展示スペースみたいなところに、アニッシュ・カプーア、イ・ウーファン、名和晃平などなど、国内外の多数の著名アーティストの作品が集まっているのだから、すりガラスがはまった小さなドアを開けるたびに、ちょっとわくわくする。

それぞれの部屋に、それぞれの世界。


様々なミクロコスモスに入り込める、上手な展示だった。


*The Mirrorは2014年10月16日から11月9日まで開催。


2014年10月4日土曜日

自然とアート in Sapporo

北海道には自然とアートを楽しめる場所がいくつかある。札幌にある二つのアートスポットも例外ではないが、その二つは似ているようで、ある意味では対極にあるのが面白い。

一つは札幌駅から南に17kmほどのところにある「札幌芸術の森」。ここは自然環境の中に、芸術に触れられる場所をという趣旨で作られたアートパーク。訪れたときは第一回札幌国際芸術祭(9月28日で終了)を開催中で、その展示作品を見に行くのが当初の目的だったけれど、結果として常設の野外美術館にはまってしまい、そこで長い時間を過ごした。

丘陵地帯に広い敷地を有する札幌芸術の森には、美術館や工房などアート関連の建物がいくつかあり、背後の丘に広がる森が野外美術館と呼ばれている。


国内外の作家の70以上の彫刻が配置され、それらの多くが、作家が実際にこの土地を訪れ、土地に合わせて作ったものらしい。作品を巡る散策路にも自然ならではの無秩序な起伏があり、スニーカーでないと時折歩きづらいと感じる。作品の個性もそれに合わせたかのようにバラバラ。自分が気に入るものを探しながらちょっとしたハイキングが楽しめる。


もう一つは、モエレ沼公園。イサム・ノグチがマスタープランを作ったことで知られ、札幌から北東に車で30分ほどの距離にある。札幌の市街地を緑地帯で取り囲む「環状グリーンベルト構想」の一部としてごみ処理場の跡地に設計された。


こちらは、いわば作られた自然。自然の中にアートを作ったのではなく、自然を作ったアート。公園全体がノグチのひとつの彫刻作品となっている。

公園に象徴的にそびえるモエレ山も、不燃ごみを積み上げて造成されたものだが、遮るものがない空をバックに映える美しいフォルムには、圧倒的な存在感を感じる。


同じくモエレ沼公園にあるガラスのピラミッドの中から見上げた空にも、しばし見とれてしまった。不思議なもので外で直に見るより、このガラス越しに見たほうが青空が一層迫ってくる気がした。

モエレ沼公園は北海道の大空と上手に融合したアートだと、後で思った。