2017年11月4日土曜日

太古に帰る場所 江之浦測候所

美術館でも、庭園でも、アートパークでもない。江之浦測候所は、一つのジャンルで語れない場所だった。

今年10月9日に小田原の相模湾を臨む高台にオープンした江之浦測候所は、アーティスト杉本博司氏が長年の構想を経て実現した場所。

見学は1回最大50名までの完全予約制。古代の人口密度と同じ一人当たり230坪の専有面積で見学できる。オープンして間もないのに外国人客が多かったことに、杉本氏の国際的な評価の高さを改めて実感する。


江之浦測候所には夏至、冬至、春分・秋分のそれぞれの日の出の光が正面から貫く回廊がある。古代のアートの起源は、天空の自分の場を確認する作業にあったことから、天空を測候することに立ち戻り、古代人の心を再体験する場所として作られた。


そして小田原の海は杉本氏個人の記憶の原点でもあるそうで、まさに相模湾のこの海が、あの「海景」シリーズの原点だったのだと知る。「夏至光遥拝100メートルギャラリー」には世界中の海を写した作品が並び、突き当りには本物の海景が待っている。


古代ローマ劇場を模した観覧席の前にはガラスの能舞台。その向こうに広がる海の青さに息を呑む。東京からそう離れていない場所の海がこんなに美しい色を見せるなんて。これも意外な発見だった。


 敷地内には、古墳時代の石鳥居から鎌倉から江戸時代の礎石や石灯篭、12世紀のヴェネチアの大理石レリーフなど、様々な時代・場所の石の遺物が配置されている。それらはまるで最初からそこにいたかのように、素通りしそうなさりげなさで溶け込んでいる。


更にこの場所は、あと5000年経ったときにどうなるかも考えて作られているらしいから、すごい。時間軸のスケールが違う。

見学している人たちもそれぞれに、ゆったりとした気持ちで散策を楽しんでいる様子だった。いつもより時間がゆっくり流れているような気がした。


ここは色々読んだり聞いたりするより、とにかく、行って体験すべき場所だと思う。晴れ渡った日なら青い海を、そうでない日はまた違う表情の海景を眺めながら、太古に思いを馳せる貴重な体験ができる。