2022年1月23日日曜日

ミケル・バルセロの海

数年前に、あるアーティストが手掛けたマヨルカ島の礼拝堂のことを知った。写真で見る礼拝堂は、それが属するパルマ大聖堂の大きく荘厳な外観からは想像もできない、生きているような奇妙な壁画、いやむしろ壁彫刻に覆われていた。人の顔が浮き出ていたり、魚が口を開けていたり、ややグロテスクでさえあったが興味を惹かれ、いつか見に行ってみたいと思っていた。

行く機会をつかめずにいるうちに、どこにも行けなくなってしまい早2年。ああ、いつになったら行けることやら、と思っていたら向こうから来てくれた。聖堂が来たのではなく、やってきたのはミケル・バルセロ(Miquel Barceló)の日本初の回顧展。日本各地を巡回した後、東京で開幕した。(よくぞやってくれました!)

マヨルカ島出身のバルセロの、エネルギー溢れる作品が約90点も。海、魚、動物、大地、自然など、彼がずっとテーマにしてきたものたちが多様な形態や技法で表現されている。

壁には大型の絵画作品が並ぶ。「絵画」と言ったが、バルセロにとって絵画、彫刻といった区別は意味がなく、陶芸も絵画の延長と考えているらしい。遠くから見ると油彩に見える作品も全て「ミクストメディア」と記載されていて、近づくと厚塗りの絵の具に何か物質が埋め込まれていたり、キャンバスの布地が波打っていたり、立体的に表現されていることに気付く。

中でも海を題材にしたものが目に付く。キャンバスの表面を床に向けて吊り上げ、重力で絵の具をつらら状に固めた「小波のうねり」は、見る方向によって異なる海の波の表情を表現した意欲的な作品。地中海の島で育ったバルセロにとって、海は常にインスピレーションの源泉だったことは想像に難くない。海は生命の源として描かれている。

以前訪れたフランス・ポルクロル島のカルミニャック財団美術館にも、バルセロの海の壁画に捧げられた一室があった。明るい外光が射す部屋で、鑑賞者は床に置かれたクッションに座ったり寝転んだりして絵を見上げる。オランジェリー美術館のモネの睡蓮の部屋のバルセロ版と言えるかもしれない。美しいというよりユーモラスな海の生物たちに囲まれた部屋で、なぜか神聖な空気さえ感じた。海の精でも宿っていたのかしら。

カルミニャック財団美術館のバルセロの部屋

一方、アフリカの人々を描いた水彩画は、ファッション誌のようにカラフルでスタイリッシュ。バルセロの幅の広さを実感。テイストは全く違うけれど、大胆なタッチでバイタリティーを表現している点では他の作品に通じるものがあった。

この展覧会だけでも見ごたえ十分だったが、パルマ大聖堂もますます見たくなった。バルセロがパルマ大聖堂で描いたのは、キリストが少しのパンと魚を大勢の信者のために増やした奇跡。彼のダイナミックな手法で奇跡がどう昇華されているのだろう。早くマヨルカ島に行ける日が待ち遠しい!



2022年1月7日金曜日

JAPANDI-NA展

新年なので何か美しいものを見よう、と表参道のニコライ バーグマンへ。お目当てはバーグマンと奈良祐希のセッション展「JAPANDI-NA(ジャパンディーエヌエー)」。

「Japandi」という言葉は最近知った。Japanese(和)とScandi(北欧風)をミックスした造語で、それぞれの持つミニマリズム、機能性、自然素材、そして温かみといった要素を融合させたインテリアデザインを指すらしい。海外で先にブームになり、この言葉自体が日本に入ってきたのはここ1、2年のことだが、その前から東京のラグジュアリーホテルの客室内装には、近年すでにそういうコンセプトが増えていたと思う。

展覧会のタイトルはJapandiとDNAの掛詞。でも「北欧と日本の融合」などという言葉では表しきれない、個性ある二人のアーティストの仕事が見事にひとつに昇華した美しい作品の数々!


金沢の大樋焼窯元に生まれた奈良は、陶芸家であると同時に建築家。陶芸の制作にも3D CADを使うなどその手法も作品も独特。今回展示されている「Bone Flowers」というシリーズは、板状の白磁を重ね合わせて花を表現したもの。つまり白い花器でありそれ自体が花でもある奈良の作品に、バーグマンの色鮮やかな生花が合わさってひとつになる。時間と共に変化していくはずの生花もずっとその姿で留まっていそうな完成度。


どちらかが主張しすぎることなく、お互いの作品へのリスペクトが感じられる絶妙なハーモニーだった。

美しいものに満ちた一年となりますように。