2012年6月10日日曜日

輝く夜の森 in Shanghai

上海に行くたび必ず訪れるのがMOCA Shanghai(上海現代美術館)。開館時間も21時半に延長され、更に行きやすくなりました。

開催中だった展示は「Van Cleef & Arpels, Timeless Beauty -  Over One Hundred Years of High Jewellery Creation」。ヴァン・クリーフ・アンド・アーペルの100年以上にわたる歴史とジュエリーの名品たちです。

いつもは外光も入り明るいMOCAが一変。入り口を一歩入ると、そこは外界から切り離された夜の森の始まりです。(普段の構造がすぐに思い出せないくらいの変貌ぶり!)

薄暗い森にはガラスの木々やカプセルが並び、その中にはライトアップされ、輝きも一層眩いハイジュエリーの数々が。幻想的な空間に、時間の感覚を失います。
和のモチーフを施した漆塗りの蝶のブローチの群れに見とれていると、虫の声が聞こえてくる・・・このリアルな森の感じ、細かい!

見る前は、コンテンポラリーの美術館でどうしてヴァンクリ?と思いましたが、今回の展覧会のデザインを担当したのは、Patrick JouinとSanjit Mankuという二人組。2011年オープンしたパリのマンダリン・オリエンタルのレストランも手掛けたデザインユニットです。

未来的なセッティングで伝統を語る、美しく興味深い展覧会。2012年7月7日まで開催です。

2012年6月8日金曜日

ラグジュアリー・トラベルの議論で考えたこと

上海で6月4日から7日まで開催されたラグジュアリー・トラベル・マーケット「ILTM Asia」に、今年もバイヤーとして参加しました。ハイエンド市場に特化したBtoBイベントで、昼間はミーティングが隙間なく組まれ、夜は各社が趣向を凝らした華やかなパーティ。常にハイテンションが要求される数日間です。

ここ数年、アジアのラグジュアリー・トラベル市場といえば、イコール中国人富裕層の台頭、という文脈で語られることがほとんどです。インターコンチネンタルホテルグループに至っては、明確に中国人富裕層だけをターゲットにした「Hualuxe」という新ブランドを打ち出すんだとか。

今年のILTMのオープニング・パネルでも、欧米出身のパネリストたちの話は「いかに中国人旅行者の気に入るサービスを提供するか」という流れになっていました。

しかし、この一連の話、私にはうまく言葉にできない違和感がずっと前からありました。

それをスパッと斬ってくれたのが、バンヤン・ツリーの創立者、Ho Kwon Ping氏。

「まあさっきから聞いてれば、やれ中国人だから朝食におかゆを出しましょうとか、中国人だからこうしましょうとか、そういう議論は長い目で見たら何の意味もない。過去にも同じ議論はあった。20世紀半ばに米国人旅行者が増えたときも、ヨーロッパのホテルはメニューにハンバーガーを加えたが、今となってはハンバーガーは世界中どこにでも溢れてる。今の中国は経済的発展が違う段階にあるだけのことで、特別じゃない。どこの国民でも、結局人間であることに変わりないんだ。」
(と、このままの言葉で語ったわけではありませんが、私が解釈して再編集したものですので、あしからず。)

会場、大拍手。欧米人も、アジア人も。
あのパネルで、あれほど観客をひきつけた発言はほかに聞いたことがありません。

そして私が得た結論は、うまく表現できなかった違和感の対象は「上から目線の迎合」だったのだということ。

これは旅行産業に限らず他の産業にも言えることですが、海外市場、特に日本を含むアジアや新興国市場に進出するとき、出ていく側には少なからず「自分たちのほうが進んでるもんね」という驕りがあるものです。

同時に、その市場で受け入れられるために、自分たちの解釈で造ったステレオタイプに対して迎合し、それを異文化理解だと言ったりする。

でも、海外に自国の文化を発信する側にも、そういうステレオタイプを生む責任の一端がないわけではありません。それも一種の迎合。

文化にも、サービスにも、迎合はあってはいけない。そんなことを考えた機会でした。