上海で6月4日から7日まで開催されたラグジュアリー・トラベル・マーケット「ILTM Asia」に、今年もバイヤーとして参加しました。ハイエンド市場に特化したBtoBイベントで、昼間はミーティングが隙間なく組まれ、夜は各社が趣向を凝らした華やかなパーティ。常にハイテンションが要求される数日間です。
ここ数年、アジアのラグジュアリー・トラベル市場といえば、イコール中国人富裕層の台頭、という文脈で語られることがほとんどです。インターコンチネンタルホテルグループに至っては、明確に中国人富裕層だけをターゲットにした「Hualuxe」という新ブランドを打ち出すんだとか。
今年のILTMのオープニング・パネルでも、欧米出身のパネリストたちの話は「いかに中国人旅行者の気に入るサービスを提供するか」という流れになっていました。
しかし、この一連の話、私にはうまく言葉にできない違和感がずっと前からありました。
それをスパッと斬ってくれたのが、バンヤン・ツリーの創立者、Ho Kwon Ping氏。
「まあさっきから聞いてれば、やれ中国人だから朝食におかゆを出しましょうとか、中国人だからこうしましょうとか、そういう議論は長い目で見たら何の意味もない。過去にも同じ議論はあった。20世紀半ばに米国人旅行者が増えたときも、ヨーロッパのホテルはメニューにハンバーガーを加えたが、今となってはハンバーガーは世界中どこにでも溢れてる。今の中国は経済的発展が違う段階にあるだけのことで、特別じゃない。どこの国民でも、結局人間であることに変わりないんだ。」
(と、このままの言葉で語ったわけではありませんが、私が解釈して再編集したものですので、あしからず。)
会場、大拍手。欧米人も、アジア人も。
あのパネルで、あれほど観客をひきつけた発言はほかに聞いたことがありません。
そして私が得た結論は、うまく表現できなかった違和感の対象は「上から目線の迎合」だったのだということ。
これは旅行産業に限らず他の産業にも言えることですが、海外市場、特に日本を含むアジアや新興国市場に進出するとき、出ていく側には少なからず「自分たちのほうが進んでるもんね」という驕りがあるものです。
同時に、その市場で受け入れられるために、自分たちの解釈で造ったステレオタイプに対して迎合し、それを異文化理解だと言ったりする。
でも、海外に自国の文化を発信する側にも、そういうステレオタイプを生む責任の一端がないわけではありません。それも一種の迎合。
文化にも、サービスにも、迎合はあってはいけない。そんなことを考えた機会でした。