2016年12月23日金曜日

沖縄の現代アート

那覇の沖縄県立美術館は、2007年にオープンした県内初の公立美術館。正式には「沖縄県立博物館・美術館」といい、中で博物館と美術館に分かれている。美術館は沖縄の近現代アートを展示する。

東京で沖縄アートに触れる機会はあまりないため、ほとんど何の予備知識も持たずに訪れた。

建物はグスク(城)をイメージした、石の要塞のような外観。


中は明るく、外光を取り入れた展示室もある。


企画展の「真喜志 勉 展 ”アンビバレント”」を開催中だった。1941年生まれで多摩美術大学を出て、その後アメリカにも渡った真喜志の作品は、アメリカのポップアートに大きな影響を受けており、コラージュやミクストメディアを多用した作風は、一見、日本人ぽくない。「まきし つとむ」という本名から「Tom Max」と名乗り、絵にもそうサインしている。


しかし、アメリカに心酔していたわけではない。彼の作品のメッセージはパッと見てわかる単純なものばかりではないが、一貫して戦争や基地問題をテーマにしている。2015年に亡くなる前の晩年まで、米軍やオスプレイを題材に思想を込めた作品を制作していた。ただ、その表現は怒りや抗議をあからさまに出すのではなく、静かに、時にはシニカルに伝える。

コレクション展は「沖縄美術の流れ」と称し、沖縄美術を戦前、戦後、復帰後、そして現代に分けて展示。特に戦後の作品は、占領という、本土が経験しなかった特有の背景での人々の生活や思いを扱ったものが多い。実際、作品を見て初めて考えることもある。

前述の真喜志氏が、会場で見た生前のインタビュー映像で、沖縄の日差しは強いから、その分落ちる影が暗くなる、ということを言っていた。

ここで鑑賞したアートは、そういう光と影の存在を実感させてくれる。でも、後味はネガティブではない。



2016年12月18日日曜日

クリスマス in マラガ

ヨーロッパの他の都市の例にもれず、マラガもクリスマスに向けたライトアップで盛り上がる。南にあるマラガでは、そもそも12月でも日が長いのに加え、メインのショッピング街のマルケス・デ・ラリオス通りのライトアップが、人々の夜更かしに拍車をかけている様子。通りには大道芸人が出て、夜遅くまでクリスマスショッピングの家族連れで賑わう。

近くの文化施設「Ateneo de Malaga」では、12月中は18時から21時の間だけ、地元フォトグラファーのグループ展を開催。この時間にふらっと入って見られるアートがある街はお洒落だと思う。

大聖堂

前述のマルケス・デ・ラリオス通りは、18時半の点灯時には大勢の人が見物に集まる。何も知らずにたまたま通りかかった私は、あまりの大混雑に道を渡ることさえできず、仕方がないのでそのまましばらく付き合うことに。点灯の瞬間、ワム!の「ラスト・クリスマス」(王道)がかかると、歓声が上がり大盛り上がり。ラテン系の地元の人々は音楽に合わせて体を揺らしながら5分ほどの光のショーを観賞していた。正直なところ、ショー自体は割とシンプル。でも人々のクリスマスに対する熱い思いと地元愛が伝わってきて、楽しい気持ちになった。

点灯時、大混雑のマルケス・デ・ラリオス通り入り口

やはり、クリスマスの時期の街は美しい。Merry Christmas!




2016年12月17日土曜日

マラガの必見アートスポット ④カルメン・ティッセン美術館

マラガの街の魅力のひとつは、ほとんどの見どころが徒歩で廻れる範囲に集まっていること。街歩きを楽しみながら、一日に数軒の美術館を巡ることができる。

カルメン・ティッセン美術館(Museo Carmen Thyssen Malaga)は、マラガで最も賑わうショッピング街、マルケス・デ・ラリオス通りの突き当り、コンスティトゥシオン広場からすぐのところにある。マドリッドのティッセン・ボルネミッサ美術館のいわば「スピンオフ」として2011年にオープンした。


一言でいうと、ティッセン・ボルネミッサ男爵の妻でミス・スペインだったカルメンが、夫の影響で始めたアートコレクションの成果(の一部)が、ここに収まっている。

収蔵品の中核は19世紀のスペイン絵画、特にマラガのあるアンダルシアがフォーカスされている。


19世紀後半のスペインの人々の生活や風土を精緻な筆致で描いた作品の数々が印象的。特に風景画は、美しさだけでなく、今とは異なっているはずの100年以上前の景色のリアルさが、その土地を旅しているような気持ちにさえさせる。


コンテンポラリーなロビー部分

北のビルバオがグッゲンハイム美術館一軒だけで大きく変革したのに対し、南のマラガは、ピカソ、ポンピドゥー、ロシア国立美術館、カルメン・ティッセンと、中世からコンテンポラリーまで様々なコレクションを提示することで、総合アート・デスティネーションを目指している。ポンピドゥーは5年間の期限付きだが、それを過ぎてもマラガが面白いアート都市として発展し続けることに期待!

2016年12月16日金曜日

マラガの必見アートスポット ③壁画とガラス

マラガの細い路地を歩いていると、カラフルな壁画に彩られた教会に出会うことがある。


18世紀頃の壁画が上から漆喰で塗りつぶされていたのが、その後発見され、近年の修復作業で再び姿を表したものだそう。市内にはいくつかこういう壁画がある。

ガラス・クリスタル・ミュージアム(Museo del Vidrio y Cristal de Malaga) にも同じような壁画が。


このミュージアムは18世紀の館を修復し、3000点以上の個人コレクションを所蔵する。サン・フェリーペ・ネリという職人地区にある。

その貴重なコレクションのオーナー自らがガイドとなって、館内を案内してくれるのも珍しい。オーナーのガラス芸術の伝承に対する情熱と愛情が伝わってくる。


ウィリアム・モリスのステンドグラスもコレクションのひとつ。

そして再び街へ。現代の壁画は、ストリート・アートと呼ばれる。

マラガの必見アートスポット ②Museum Jorge Rando

ホルヘ・ランド(Jorge Rando)というマラガ生まれのアーティストのことは、おそらく日本ではあまり知られていない。

彼の個人美術館は、観光の中心地から少し離れた、市場や人々の生活があるCruz del Molinillo地区にある。元は修道院だった建物を改装し、2014年5月にオープンした。



1941年生まれのランド氏は新表現主義の代表的アーティスト。20歳でドイツに渡り、約20年間を過ごしたため、ドイツの哲学と表現主義に強い影響を受けている。時には鮮やかな、時には暗い色彩をぶつけるように描いた抽象画や人物画が多い。


この時はランド氏の作品と、スペインのナヴァラ州出身のアーティストCarlos Ciriza氏の彫刻を共同展示していた。

美術館では作品の展示以外に、エデュケーションプログラム、コンサート、トーク、上映会などの文化活動にも力を入れる。ここにあるアトリエで、ランド氏が実際に制作していることも時々あるそう。


せっかくマラガまで行ったら、ピカソ以外のマラガ生まれのアーティストを一人くらい知ってから帰りたい。


マラガの必見アートスポット ①ポンピドゥーとCAC

ピカソの生まれた街であることが、マラガの「アートの街」としての再生に一役買っているのは間違いないが、マラガにはピカソ以外にも見るべきアートスポットがたくさんある。

その筆頭はポンピドゥー・センター・マラガ。マラガのアート都市化を推進してきたフランシスコ・ド・ラ・トーレ市長が外国から誘致した美術館のひとつ(もう一つはロシア国立美術館)。2015年3月に、5年間の期間限定でオープンした。パリにあるポンピドゥー・センターが「ポップアップ」をフランス以外でオープンしたのはこれが初めて。

周りはカフェや店が並び、人々が遊歩道を行き交うベイサイド。フォトジェニックな外観だが、このガラスの建物に近づいて行っても入口はそこに無いので、ご注意を(探しました)。


展示内容はピカソ、シャガール、レジェ、ジャコメッティなど見慣れたモダンアーティストからコンテンポラリーまで、パリの所蔵品のエッセンスを集めた見応えあるラインアップ。

コンテンポラリーアートならもう一軒、CAC Malaga(マラガ現代アートセンター)へ。


市がマラガのコンテンポラリーアート発展のために運営するこの施設は、入場無料。アニッシュ・カプーアなどのインターナショナル・アーティストの他、地元のアーティストの作品が多く展示されている。

周りも何だかアーティスティック。行ってみるだけで楽しい。


ピカソが生まれた街 スペイン・マラガ

スペインのマラガは地中海に面したリゾート、コスタ・デル・ソルの中心。近年、マラガはアート都市としての発展が注目されている。

何よりマラガの最大の強みは、ピカソが生まれた地だということ。こればかりは他の都市には真似できない。

ということで、マラガに来たらまずピカソ美術館へ。

マラガのピカソ美術館は2003年オープン。ヨーロッパにはいくつかのピカソ美術館があり、同じスペイン国内でもバルセロナのもののほうが古く、所蔵作品数も多いが、マラガには主にピカソの遺族が寄付した作品が収蔵されている。

作品数はパリやバルセロナに比べれば少ないものの、一生を通してドラマティックに変化し続ける、一人のアーティストとは思えない作風の豊かさを見せる力は、他に引けを取らない。

見どころの一つは、ピカソが最晩年の90歳を超えて描いた銃士の絵。その色鮮やかなエネルギーに、改めて驚かされる。

並行する企画展として、ホアキン・トーレス・ガルシアの回顧展を開催していた。ウルグアイとカタルーニャの血を受け継ぎ、20世紀初めにカタルーニャで起こった「ノウセンティズム」を代表するアーティストとして知られる。絵画、彫刻からおもちゃ(玩具会社を経営していた)まで、幅広いメディアを手掛け、やはりピカソのように常に新たな作風にチャレンジした人。バルセロナやパリでピカソと親交があり、お互い影響を受けていたらしい。二人の間の未完に終わったプロジェクトに関する書簡も展示されていた。

建物は16世紀のアンダルシア建築のブエナビスタ宮殿。なぜかその地下には古代の遺跡がある。ヨーロッパで最も古い都市のひとつであるマラガの、紀元前7世紀のフェニキア都市だった時代にまで遡る遺跡が見られるのだが、ピカソとも、16世紀のアンダルシア建築とも全く関係ないのでちょっと面食らう。まあ、せっかくなのでマラガ観光の一環として見ておいて損はない。

そしてもう一軒はピカソの生家にあるピカソ財団。ピカソが生まれ少年時代を過ごした家は、プラザ・ド・ラ・メルセドという広場に面した華やかな一角にある。ピカソは都会っ子だったのだ。


そして、ピカソがよくモチーフにしていた鳩は、ここにルーツがあったことにも気づく。この広場をはじめとしてマラガには鳩がたくさんいるのだ。ピカソにとって鳩は故郷を連想させるものだったのかもしれないと思う。

ここでは19世紀終わりにピカソとその家族が暮らしたアパートメントを再現・展示しているほか、陶器やドローイングなど、数点のピカソの作品もみられる。

ニューヨークのMOMAにある「アヴィニヨンの娘たち」の貴重なスケッチも必見!


2016年11月26日土曜日

富山市ガラス美術館

北陸新幹線で金沢の一つ手前、富山。
ここで降りる観光客は金沢よりずっと少ないが、富山にはとても見たい建物があった。

富山市ガラス美術館。


2015年8月にオープンしたこの美術館の建物は、隈研吾氏の設計。日の光を反射し、ひときわ目立つ外観は、富山の名産であるガラスと石とアルミを使っているそう。

建物の中は、これも富山名産の杉の板をメインに使い、外光がたっぷり差し込む空間を贅沢に使った大きな吹き抜けの周りに、2階から6階までの展示スペースと、図書館やカフェなどが配置されている。

各階でずらして設置されたエスカレーターを上る度に、違う角度からの眺めが目に入ってくるのも楽しい。こんなところにある図書館だったら、地元に住んでいたら通いたくなる。

ガラス美術館の展示は企画展と常設展があり、訪問時の企画展はチェコのデュオ、スタニスラフ・リベンスキーとヤロスラヴァ・ブリフトヴァの個展だった。

6階の「グラス・アート・ガーデン」は、現代ガラスアートの第一人者とされるアメリカ人アーティスト、デイル・チフーリの作品が5つ常設展示されている。この美術館のためにチフーリ氏が来日して制作した作品も含まれる。

このほか、富山市が収集してきた海外や富山ゆかりのガラスアーティストたちの作品も展示されている。

調べてみると「薬売り」で知られる富山のガラス産業は、もともと明治・大正期に薬瓶の製造から始まったとのこと。その後1980年代から地場産業としてのガラス芸術の振興に力を入れるようになり、いまでは「ガラスの街とやま」のブランドをアピールしている。この富山市ガラス美術館では、そうした地道な「産業育成の歴史」みたいなものを省いて、さらっと現代の美しいガラスだけを展示しているのが、逆に潔くていいい。


2016年10月8日土曜日

神勝寺「洸庭」

尾道に近い禅寺に、現代アートパヴィリオンが出現した。

9月11日に「禅と庭のミュージアム」がオープンしたのは広島県福山市の神勝寺。森のような広い敷地には茶室などの建物が点在し、散策路がつないでいる。最大のハイライトは、アーティストの名和晃平氏による体験型インスタレーション「洸庭(こうてい)」。

洸庭があるスペースだけは、車道を隔てた反対側にある。山道の階段を上がり、真っすぐに延びる橋を渡ると、向こうには違う世界が待っているような期待感。

現れたのは、敷き詰められた石の上に浮かぶ、方舟のような大きな建築物。


伝統的なこけら葺きの手法と曲線が、独特の質感を出している。


石は海を表現しているそう。この石も、植え込みの木も、まだ真新しくて尖った感じだった。


パヴィリオンには一組ずつ入れる。宇宙船に一つだけ空いたスリットのような入り口から、暗闇に入っていく。小さな懐中電灯を渡され、足元を照らしながら奥へ進むと、そこには本物の水が張られた空間があった。

真っ暗な中で、明かり取りからわずかに差し込む光が、小さく波立つ水面を照らす。遠い月明かりを受けたような、穏やかで、無限の広がりを感じさせる海が、方舟の中にあるという不思議。

ほんの2分程度の滞在だったが、心落ち着く体験だった。


後で聞くと、このお寺は地元の大手造船会社のグループが建てたそうだ。元は造船と海の安全を祈願するためだったのだろうと想像すると、あのパヴィリオンは海を祀った祭壇のようにも思える。現在は禅の教えに広く触れてもらおうと、道場で国内外からやってくる修行者を受け入れているほか、日帰りでの禅体験なども提供している。

余談だが、洸庭にあった恐竜の集団を思わせるような奇妙な植え込み(?)は、何だったのかよくわからないが、妙に印象に残っている。


2016年9月29日木曜日

ミシェル・ブラジー展

銀座のメゾンエルメスフォーラムで開催中の「リビングルームⅡ/ミシェル・ブラジー」展へ。

Michel Blazyは初めて知るアーティストだったが、植物や昆虫など、生命あるものが見せる変化の結果や過程に作品にしているとのこと。そういう意味で「リビングルーム」というタイトルも、変化し続ける空間に言及したものらしい。


ネスプレッソマシーンも、ブラジ―にかかるとこうなる。これ、見るとすごく自然で、どこの家のキッチンにあってもおかしくなさそうな気がした(使えないけど)。

エルメスのフォーラムで写真撮影がOKな展示は珍しい。すりガラスの壁面から優しい自然光が入り、天井が高く開放感があるレンツォ・ピアノのガラスの建物は、いつもアートの展示と一体になって、より美しい空間を作っているので、撮りたいと思う人は多いはず。


これは「ホウキモロコシ」とのことで、実際にほうきに種を植えて栽培中。並んだ鉢の間を歩くと、都会の温室にいる気分。11月27日までの会期中、また成長を見に行くのも楽しいかもしれない。

2016年9月16日金曜日

La Mamouniaのアート散策

今回マラケシュで滞在したLa Mamounia(ラ・マムーニア)は、1923年創業の歴史あるホテル。伝統的なモロッコ建築と装飾が美しい。

La Mamouniaはモロッコアートの展示にも力を入れており、館内を散策しながら、優雅な装飾とともにアートも鑑賞できる。

まずチェックしたいのは「マジョレル・ギャラリー」。夜は生演奏もあるラウンジスペース。


ホテルの人に聞いて知ったのだが、あのマジョレル庭園を作ったジャック・マジョレルは、ラ・マムーニアの最初のインテリアデザイナーだったとのこと。そういうわけで、ここにはマジョレルが描いた天井画がある。

別のスペースにはモロッコの伝統衣装のイラストの展示も。




企画展示も常に行われており、各客室フロアの廊下に人物、風景、植物など様々なモロッコの写真が並んでいた。

モノクロームの写真は先に訪れたメゾン・ド・ラ・フォトグラフィを思わせるが、ホテル内に展示されたのは昔撮られたものではなく、現代の作品。フロアごとにひとりのフォトグラファーの作品が展示されている。

ロビーエリアにはモロッコの風土を描いた絵画が多く、中にはこんなコンテンポラリーな作品もさりげなく飾られている。




庭園も見逃せない。

モロッコにはこんな真っ赤なサボテンが!と一瞬思ってしまったが、遊び心あるスカルプチャーが植え込みにまぎれていたのだった。

美術館並みに楽しめるホテル。限られた滞在の時間をより充実させてくれた。







2016年9月14日水曜日

マラケシュ メゾン・ド・ラ・フォトグラフィ

マラケシュの旧市街メディナにある「Maison de la Photographie」は、昔のモロッコをテーマにした写真美術館。19世紀終わりから20世紀半ばまでのモロッコの風景やポートレート写真を展示している。

フランス人が撮影したものが多かったと記憶しているが、有名な写真家による地元の人のポートレートも、無名の旅人が街角の日常を捉えた写真も、どれもが当時のモロッコの様子を伝える貴重な資料。吹き抜けの3階建ての小さな建物にも、モロッコらしい様式と装飾が見て取れる。


ポートレートの人物の意志のある目にハッとしたり、セピア色の風景写真に不思議な懐かしさを覚えたり。

モロッコの歴史や文化を知るための博物館はあまたあれど、メゾン・ド・ラ・フォトグラフィの写真たちは感覚に訴えてきて、近世のモロッコの姿が印象に残る。

カフェがあるルーフトップからは旧市街を一望できる。絶景ではないけれど、違う視点から街を見られるスポットとしても覚えておきたい。