2019年10月27日日曜日

リヨン・ビエンナーレ2019

美食の街と言われ、世界遺産の旧市街を持つフランス第2の都市、リヨン。ここで15回目となるビエンナーレが9月18日から2020年1月5日まで開催されている。

リヨンビエンナーレは、ヴェネチアなどとともに「5大ビエンナーレ」の一つに数えられるとされている。今年は観光地からは少し離れた、家電メーカーのFagorの古い工場をメイン会場とし、規模を拡大した。展示はFagor会場の他、MAC(現代美術館)やいくつかの市内の会場にまたがる。


テーマは「水がほかの水と交わる場所(Where Water Comes Together with Other Water)」。世代、国、性別のバランスをとって選ばれた約50人のアーティストが参加している。




仏画を学んだタイのアーティストの作品。トンネル内の壁画。
私はメイン会場のFagorとMACしか見ておらず、全く個人的な感想でしかないが、いくつか目を引く作品はあったものの、あまり入っていけなかった。そもそもFagorのサイトは廃工場だったため、外壁、内壁ともに落書きがすごくて、すさんでる感じなのだ。そんなすさんでる場所で見るアートは、よほど美しいものでないとエネルギーを奪われる気がする。


体育館のようにだだっ広い会場に作品が展示されていて、「実験室?」と思うような感じでもあった。

アートの定義は人それぞれだし、何を美しいと思うかも個人の勝手だが、少なくとも人がアートと感じるためには、美しいか、面白いか、すごいか、どれかの要素が必要だと思っている。説明書きをどれだけ読んでも意図がよくわからず、直感的に響くものがなければ、その人にとってはアートではない。そしてそれは見る環境にも左右される。

箱の力で作品を底上げできるとも、そうするのがいいというのでもないが、わざわざ世界遺産都市のリヨンで開催する2年に1度のアートの祭典なのだから、会場の選定も含め、街のアイデンティティがポジティブな形で反映されているともっといいと思った。ひとりの観光客として。

ビエンナーレを見た後、リヨンの美しい旧市街を歩きに行った。


カルミニャック財団美術館

ポルクロル島という地名を聞いたことがあるでしょうか。

南仏の町イエール(Hyeres)からフェリーで20分のこの島に、素晴らしい美術館がある。2018年にオープンしたカルミニャック財団美術館(Fondation Carmignac)は、自然とアートと建築が融合した、まさにデスティネーション・ミュージアムと呼べる場所だ。

ポルクロル島は地元の人にとっては気軽なリゾート地で、朝のフェリーは家族連れで一杯だった。上質なワインの産地でもあり、最初にコート・ド・プロヴァンスのワインに認定されたうちの一つ。


カルミニャック財団美術館は港から徒歩で10分くらいのところにある。レンタサイクルで散策するファミリー客を後目に、舗装されていない坂道を静かなほうに歩いていく。もっと大々的に案内看板が出ているかと思ったが、時々「現代美術館まであと0.2km」と小さく表示されている程度で、実に目立たない。





たどり着いた美術館の入口は、ひっそりとした森の入口のようだった。


自然の保護に取り組んできたポルクロル島において、この土地も国立公園に指定されている。その広大な敷地の中、庭園やオリーブ畑に囲まれる形で小さなヴィラがある。


そもそもここが美術館になったのは、財団の長であるカルミニャック氏が、ヴィラの元のオーナーの娘と俳優のジャン・ロシュフォールの結婚式に出席した際、この場所に一目ぼれしたことに始まったそう。カルミニャック氏はここを買い取り、アートサイトに転換するのだが、小さなヴィラでは作品を展示するスペースが足りず、また国立公園なので、建物の面積をただ拡げるわけにもいかない。そこで自然の面積を減らすことなく、ヴィラに面積2000平米の地下室を作り、広い展示スペースを実現した。

地下とはいえ、天井に大きなガラス窓を設け、その上に水を張ってあるので、地下とは思えない明るく柔らかい光が差し込む空間になっている。
この日はたまたま撮影をしていたため水の中に入っている人がいた

美術館は4月から11月初めまでのみ開館し、展示内容は毎年変わる。入場は30分ごとにずらし、各回50人までに限定。入口で靴を脱ぎ、石の床の感触を感じながら階下に降りていく。


展示は財団のコレクションを中心に、マックス・エルンスト、ロイ・リキテンシュタイン、エゴン・シーレ、ゲルハルド・リヒターなど、20世紀のアーティストの作品がメイン。今年はイギリスの女性現代アーティスト、サラ・ルーカスの特集もあった。


スペインのミケル・バルセロの作品が展示された「チャペル」は、床に寝転がって、海に囲まれた感覚で鑑賞できる癒しのスペース。


でも何よりこの美術館を特別な場所にしているのは、その庭園。建物を出て、向こうに海を臨む庭園を見下ろしたとき、なんとも言えないすがすがしい気持ちになったのだ。ここはパワースポットでは?とさえ思ったが、そうでなかったとしても、美しい場所なことは間違いない。


あちこちに隠れたアート作品を探しながら、ススキの茂る散策路を歩いて廻るのも、ちょっと楽しい宝探し気分になれる。



2時間くらいの滞在で、自然とアートを満喫した。

イエールもポルクロル島も、日本からの旅行先としてはポピュラーではないが、カルミニャック財団美術館は、わざわざ足を延ばす価値がある。春から秋の南仏旅行の際は是非、日程に加えることをお勧めしたい。



ルーヴル美術館のダ・ヴィンチ展

2019年はレオナルド・ダ・ヴィンチの没後500周年で、ヨーロッパを中心に様々なイベントが催されている。中でも作品数・内容ともに群を抜いているのが、10月24日から始まったルーヴル美術館の「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」。今後、少なくとも数十年は無いと思われる規模なので、ダ・ヴィンチファンならずとも足を延ばす価値は十分にある。


運良く開幕初日に訪れることができた。入場はインターネットでの予約制。人気のため数日前には予約しないと枠が無くなってしまうが、そのおかげで混みすぎず、快適に鑑賞できる。尚、モナリザはこの展覧会には含まれず、通常の展示室にある。

今回の展示はルーヴル所蔵作品に加え、世界各国から可能な限りのダ・ヴィンチ作品が集められた。生涯で15点程度しかないとされる油絵の半数以上が含まれるほか、デッサン、下絵など、同時代の画家や弟子たちの作品も含め、180点近いダ・ヴィンチゆかりの作品が展示されている。肉眼では見えない部分を再現した赤外線リフレクトグラフィーも多い。


展示は4つのパートで構成され、最初の「影、光、レリーフ(Ombre, Lumière, Relief)」はヴェロッキオ工房時代の作品。ドレープの質感を光と影の要素だけでリアルに再現した彫刻の下絵に、鑑賞者が見入る。

2番目の「自由(Liberté)」は、工房を出た後、自身の自由な表現方法を求めた時代。今回の展覧会のキービジュアルになっている「ミラノの貴婦人の肖像」や、エルミタージュ美術館所蔵の「ブノアの聖母」も含まれる。

3番目は「サイエンス」。科学者としての膨大かつ詳細な研究メモを展示しており、物理、人体、建築、植物学など、その興味の対象は幅広い。情報の入手や記録に今よりはるかに時間を要したはずの15世紀に生きたダ・ヴィンチに比べ、情報に囲まれテクノロジーに守られた現代人(私)のなんと脆弱なことか。



最後は「生命(vie)」。「最後の晩餐」を制作した1490年代以降の作品が展示されている。その自然科学の知識が表現を邪魔したこともあったそうだが、「モナリザ」、「洗礼者ヨハネ」など、代表的な絵画が生まれたのもこの時期。

「最後の晩餐」はさすがに本物は持ってこられないため、同時代の画家による複製を展示

ダ・ヴィンチは現代に通じる審美眼を持っていたと実感するのは「洗礼者ヨハネ」。十字架を手に、いたずらっぽくほほ笑む姿は、500年前の洗礼者というより、むしろ最近のイケメンアイドルを思わせる。結構な確率で女性客が惹きつけられていた。



もう一つ目に留まったのは「サルバトール・ムンディ」。これはもしかして2年前に4億5000万ドルで落札されたあの絵?と思ったが、そうではなく、ダ・ヴィンチの弟子たちが制作した別バージョン。この500周年の舞台にも登場しなかった「あの絵」のほうは、ルーヴル・アブダビで去年9月に公開されるはずが突然中止になり、本当にダ・ヴィンチの作品かどうかの議論も決着しないまま、今どこにあるのか、いつ出てくるのかわからない状態になっているらしい。


ルーヴル美術館の「レオナルド・ダ・ヴィンチ」展は2020年2月24日まで。予約はお早めに。