2018年5月31日木曜日

ザ・リッツ・カールトン・シンガポールでアート鑑賞

アートに囲まれたホテルステイは楽しい。

シンガポールのアートホテルと言えば、作品数においてザ・リッツ・カールトン・ミレニア・シンガポールは他の追随を許さない。4,200点にも上るそのモダンアートのコレクションは、シンガポールはもちろん、東南アジアでもトップクラスとされる。

ロビーを入るとまず、天井のフランク・ステラの彫刻が目に入る。

左右のラウンジとレストランの壁には、ガラスアーティストのデイル・チフーリの作品が。ラウンジは彼の名前を取ってチフーリ・ラウンジと呼ばれる。


他にもヘンリー・ムーアのドローイングや、デヴィッド・ホックニーのリトグラフなど、興味深い作品がたくさんある。スタッフに言うとホテル内のアートガイドブックをくれる。3フロアに渡って展示された作品のマップと解説が記されており、わかりやすい。スタッフにアートツアーを依頼することもできるし、ガイドブックを見てセルフツアーをすることもできる。


美術館に行く時間がない忙しい滞在でも、このホテルなら、アートと、シンガポールらしい風景を楽しめる。

Parkview Museum Singapore

シンガポールのParkview Museumは、知る人ぞ知る必見のアートスポット。

オーナーは、アジア有数のコンテンポラリーアートコレクションを所有するファミリー。北京にある同じ名前の美術館とそれに隣接するホテルにも、コレクションの一部(といってもかなりの数)が展示されている。

シンガポールの美術館はブギス地区にあり、2017年春にオープンした。企画展は年に3かいくらいのペースで入れ替わる。今は「Challenging Beauty」と題し、イタリアの現代アート作品を展示している(2018年8月19日まで)。

Roberto Barni 「Clandestini」

30名近いアーティストたちの作品を通じ、第二次大戦後のアルテ・ポーヴェラ、70年代のトランスアバンギャルドのムーブメントを経て、若い世代のアーティストたちが新ロマン主義や実存主義の影響を背景に現代を表現する、イタリア美術の流れを追う。どこかシュールなタッチの作品が多いのは、キュレーションだけでなくオーナーの趣味が反映されているのだろう。

Paolo Grassino「The God is Not in Me」

もはや彫刻も3Dプリンターで作る時代。時代とともに道具も変わるのは当然の流れ。
Carla Mattii 「ST#7」
この美術館は毎日オープンしており、寛大なことに入場無料。しかしその作品とキュレーションのクオリティは、シンガポールの有料の美術館に勝っているかもしれない。

入っている建物も見逃せない。Parkview Squareというビルは、外観だけでなく内部にもアールデコの装飾をふんだんに施したとても贅沢な建築物。歴史的建物かと思いきや、2002年完成だそう。


1階にあるバー「Atlas」はWorld's 50 Best Barsにもランクインしている人気のスポット。この店のシンボル「ジン・タワー」には天井近くまでジンのボトルが並び、もはやアートの域(以前はワインタワーだったらしい)。ランチも楽しめるので、明るい昼間の時間帯に行って鑑賞することをお勧めする。



2018年5月2日水曜日

豊島美術館

「とにかく、行けばわかるから。」

瀬戸内海の豊島(てしま)の話をしていたとき、ある人が言った。
あの辺りの島の中で、最もアートを感じられる場所だ、と。

岡山の宇野港から豊島行きのフェリーに乗る。先に出た直島行きのフェリーに比べて乗客の数はだいぶ少ないが、共通していたのは、外国人観光客がほとんどだったこと。10年ほど前に直島に来たときは日本人ばかりだったと記憶しているが、いまや直島をはじめとする瀬戸内海の島々は、「art islands」としての地位を確立し、世界中からアートファンが訪れる。

約20分で豊島に着くと、そんなインターナショナルさはかけらも感じさせない、のんびりした田舎の島だった。意外とアップダウンがある道を、レンタサイクルの外国人たちが走っている以外は。

田園風景が続く通り沿いを進むと、「美術館前」のバス停看板が突然現れ、しかし、どこにも建物が見えない。少し回り込むと、緑の中に浮かぶ白い曲線の建物がふたつ。


豊島美術館は、建物の中に作品が展示されているのではなく、建物と空間そのものが作品になっている。内藤礼の「母型」という作品で、建築は西沢立衛。天井が空いているほうがアートスペースで、もう一つはカフェ&ショップの建物だった。

アートスペースに入る前に靴を脱ぎ、係の人から説明を受ける。中では写真撮影禁止、話し声は控えめに。

そして、繭玉のような建物に入る。
上から下まで白い空間と、天井に空いた二つの大きな穴。
ひんやりしたコンクリートの床には、水がどこからか湧き出てきて、傾斜に沿って、まるで生きたトカゲのように細くゆっくり走っていく。

白い建物と空と光が一体化した中で、言葉で表現するのが難しい幻想と感動に包まれる。

ああ、なるほど。
これは来てみないとわからない。

宗教に依らない安らぎの空間とでも言おうか。
他の鑑賞者たちも皆、静かに、うっとりしたように、その場を楽しんでいる。

普段、美術館が大した理由もなく写真撮影を禁じるのは好きではないが、豊島美術館が写真撮影をさせないことは納得できる。誰でもこの美しい瞬間をカメラに収めたいと思うはずだが、撮ることに気を取られてしまったら、この空間と鑑賞者との繋がりはきっと薄れる(シャッター音があちこちで鳴り響くことが好ましくないことも当然として)。

白の余韻を背負ったまま美術館を後にすると、隣の棚田では、黄色の菜の花が満開。


豊島の良さは、とにかく、行けばわかる。
行かないと、わからない。