2018年11月25日日曜日

メゾン・アトリエ・フジタ

今年2018年は、藤田嗣治の没後50年に当たり、日本でも回顧展が東京と京都を巡回している。それは彼が後半生を過ごしたフランスでも同じで、各地で彼の作品の展覧会が開かれている。

回顧展を見て、もしくはそうした話題に触発されて、改めて藤田作品の魅力に惹かれた人も多いと思う。そういう人には特に「メゾン・アトリエ・フジタ(Maison-Atelier Foujita)」を訪れることをお勧めしたい。いわゆる「画家のゆかりの地」はあまたあれど、画家の息吹を感じられる場所はそう多くはない。ここはまさにフジタの息吹を感じられる場所だと思う。

パリから南西に車で小一時間のVillier-le-Bacleという静かな町。ここにフジタが晩年を夫人と暮らした自宅兼アトリエがある。

メゾン・アトリエ・フジタは、画家の没後、夫人がエッソンヌ県に寄付し、現在は歴史的記念物に指定され、保存・公開されている。家の中はスタッフが案内するツアーで見学する。土日は予約不要、平日は5名以上のグループなら予約して見学が可能。案内は基本的にフランス語だが、日本語や英語のオーディオガイドも用意されている。オーディオガイドではフジタが晩年に録音した肉声も聞ける。

18世紀に建てられた小さな3階建ての家は、フジタと夫人が暮らしていたそのままに残っており、庭にはフジタが植えた木も生き生きとしている。シンプルながら几帳面に整えられた室内には、フジタの生活に対するこだわりと、アーティストとしての遊び心が反映されている。

1階はキッチンとダイニング。キッチンには60年代っぽいレトロな道具が整然と並び、壁のタイルはフジタ自身が絵を描いたもので補修されている。



庭を見下ろす2階には寝室とリビング。小ぶりなベッドと、その横に掛かったベストとシャツに、フジタは小柄な人だったのだと想像する。

暖炉の脇の飾り棚に置かれたレコードプレーヤーには、美空ひばりのLPがかかっていた。とてもフランス的な空間に時折覗く日本。

そしていよいよ3階のアトリエへ。

まるでついさっきまで仕事をしていた画家が、ちょっと席を外しているだけのようで、50年も経過しているとは思えない。無造作に置かれたペンや道具の傾きひとつをとっても、フジタが置いたそのままであるかのようだ。ほこりをかぶらないようよくメンテナンスされているのもわかる。そのお蔭もあり、ここは過去の場所ではなく、今も進行形であるかのような空気がある。


奥の壁一面には、フジタがカトリックの洗礼を受けたシャンパーニュ地方のランスで、1965年から66年にかけて制作したノートルダム・ド・ラペ礼拝堂の壁画の下絵。当時80歳近かったフジタの最晩年の作品の一つで、下絵と言ってもその緻密さと迫力は下絵の域を超えている。周りに置かれた使いかけのパレットなどの道具に、ここに立って制作をしていたフジタの姿がイメージできる。ランスの礼拝堂は4月から9月までしか開いていないが、ここでは一年中、この絵を間近で見られる。


アトリエの片隅には、フジタが描いた落書き(?)が。
この家は18世紀に建てられ、フジタ夫妻が1960年10月14日から所有者になったことがイラストとともに記されている。

パリに戻る前に、メゾン・アトリエ・フジタから車で10分くらいのChateau du Val-Fleuryへ。ここでも小規模だがフジタの展覧会があった。

 「Foujita Moderne」と題されたこの企画では、フジタの大型の作品と、エッソンヌ県の現代アートコレクションを一緒に展示している。



フジタワールドに浸ることができたショートトリップだった。