2021年11月に香港の西九龍文化地区(West Kowloon Cultural District)にオープンし、世界的な話題となった「M+」。遅ればせながら最近ようやく見に行った。
M+はアジアで初めて20世紀以降のビジュアル・カルチャーに特化した美術館。ヘルツォーク&ド・ムーロンがデザインした建物の中に、17,000平方メートルもの展示スペースを持つ。ヴィクトリア・ハーバーに面した壁面は巨大なLEDディスプレイになっていて、夜は向かいの香港島から見ても良く目立つ。
M+のコレクションはアジアの絵画、彫刻、写真、版画などのほか、デザイン、建築、映像まで、視覚的なものを幅広くカバーしているのが特徴。特にデザインの分野では日本が占める比率が高く、日本人にとっては懐かしいものも多い。メディアでよく紹介されているのは、倉俣史朗氏が内装を手掛けた80年代の新橋の寿司店「きよ友」をそのまま移築した展示。のれんをくぐって店内の様子も見られる。
他にもダイハツミゼットやソニーウォークマンなど、戦後の昭和で一世を風靡したヒット商品の現物が並ぶ。最近の80年代ブームのように、古いものが逆に新鮮に見える。
ポスターやCM映像を展示した一角からは「グランバザール♪グランバザーアーー♪」という聞き覚えのあるCMソングが! 思い出すことはなかったかもしれないものと、時を経てこうして香港の美術館で再会できたことが、なんだか不思議で感慨深い。
M+のもう一つの柱は、1970年代から40年間の中国美術を集めたシグ・コレクション。最も包括的な中国現代アートコレクションとされるが、中国政府が最も検閲に目を光らせる部分でもある。残念ながら訪問時はシグ・ギャラリーが展示準備中で閉鎖されていたので、全貌は見られなかった。また次回。
地下1階では草間彌生のインスタレーション「Dots Obsession」に人が集まる。巨大水玉に圧倒される楽しい空間。
3階のルーフガーデンはお勧めの写真スポット。西九龍文化地区全体が見渡せ、対岸の香港島の風景も臨める。
西九龍文化地区は、40ヘクタールの埋め立て地に新たな活気ある文化地区を造る一大プロジェクト。現在はM+のほか、香港故宮文化博物館やパフォーマンスセンターがあり、ウォーターフロントプロムナードを散策できるアートパークがそれらをつなぐ。2024年にはシアターコンプレックスも完成予定。
M+とこの地区が、アートを通じて様々な声や文化を世界に発信し続けられますように。