2024年11月24日日曜日

Simose Art Garden Villa

宮島を臨む瀬戸内海沿いに2023年にオープンした「Simose Art Garden Villa」は、建築家の坂 茂氏が設計を手掛けたアートとホテルとレストランの複合施設。

「Shimose」ではなく「Simose」なのは、ロゴのビジュアルを吟味した結果だろう。

広島県大竹市にあるがアクセスは岩国空港(山口県)が最も近い。電車だと広島駅から最寄りの大竹駅まで約1時間。ここができるまでは旅の目的地になる場所ではなかった。

見どころは何といっても建築。中核の下瀬美術館は、風景に溶け込む鏡面の壁と、水盤に浮かぶカラフルな箱が斬新なデザイン。世界の優れた建築やデザインに与えられるベルサイユ賞で、2024年の世界で最も美しい美術館7つのうちの一つに選ばれている。



8つの箱は一つ一つが展示室で、可動式なのが大きな特徴。箱は通常は地面に固定されているが、水位を上げて浮かせることでレイアウトを変更できる。広島の造船技術によって実現した。

夜はライトアップされ暗闇に浮かび上がる。


美術館は、広島の建築資材メーカーオーナーの2代に渡る個人コレクションを収蔵している。その中心はアール・ヌーヴォーを代表するエミール・ガレの作品。本館には多数のガレのガラス器や家具が展示されていた。さらに敷地内には、植物学者でもあったガレへのオマージュを込めた「エミール・ガレの庭」という庭園もある。


8つの可動式展示室の色も、ガレのガラス作品に使われている色とリンクしている。中はホワイトキューブで、訪問時はオーナーの幅広いコレクションを部屋ごとに違うテーマで展示していた。テーマ間に関連性はなくても、キューブからキューブへの短い渡り廊下を歩く間に頭をリセットして次の展示に備えることができる、オムニバス方式の美術館だと思った。

宿泊用の客室は「森のヴィラ」5棟と「水辺のヴィラ」5棟の計10棟。

「森のヴィラ」は5棟のうち4棟が坂氏が1990年代に手掛けた別荘を再現したもの。「紙の家」、「壁のない家」など、それぞれ全く違ったユニークな家が並ぶ。ホテルの一室ではなく、一棟まるごと坂作品に泊まれるのはここならではの体験。


「水辺のヴィラ」は5棟すべてが「キールステックの家」と呼ばれる。キールステックって何かと思ったら、木製の建材の名前だった。美しい模様のようになった断面を活かして壁として使われている。


もともと下瀬美術館は広島市内にできる予定だったのが、より良い場所を探した結果、現在の土地に落ち着いた。美術館単体では広すぎる土地だったこともあり、坂氏がオーベルジュを作ることを提案したそう。ということで食にも力を入れている。レストランでは広島近郊でとれた食材を使い動物性脂肪を控えたフレンチのコースと、地元産のワインを味わえる。

静かな環境でゆっくり眠った翌朝、朝焼けに浮かぶ宮島のシルエットも美しかった。