2020年6月10日水曜日

「コズミック・ガーデン」

6月に入り、都内のアート展も再開し始めている。

ここ2か月くらい、家にいるのはそれほど苦にならず、退屈もしなかったほうだが、アートを見に行くことについては「ないと寂しい」と感じていた。世界の名だたる美術館が作品をオンラインで無料公開しているのも知っていたが、何故かあまり熱心に見たい気持ちは起らなかった。

銀座のメゾンエルメスフォーラムを通りかかり、ブラジルのアーティスト、サンドラ・シントの「コズミック・ガーデン展」のポスターを見て、吸い込まれるように入った。

会場に入ると、薄いブルーの下地に、白い細い線で不思議なドローイングが描かれた壁が続く。描かれたものは正体不明で、雲のようでもあり、細胞のようでもあり、クラゲのようでもある。朝の海を思い浮かべた。これは人によって感じ方が異なるだろうし、その時差し込む光にも影響されるかもしれない。梅雨入り前で晴れていた東京の午後の日差しは、摺りガラスを通して柔らかな光になり、穏やかな海を連想させた。


そしてブルーは次第に濃くなり、反対側のコーナーでは夜空のような色になる。この青のグラデーションは、宇宙を象徴的に表しているそうだ。


コオロギの鳴き声が流れ、夏の星降る夜の空を見上げる気分。でもよく見ると、花火のような、タンポポの綿毛のような。


アートは、鑑賞者が自分の存在を理解するひとつの方法だとするシント。その理解につながっているのかはわからないが、作品の空間に没入し、空想することで、鑑賞者はその世界の自分なりの解釈を自然に考える。これは実体験だからできることだと、今は思うが、オンラインの仮想空間で同じ感覚を持てる日が、ほどなく来るのだろうか。1年前には予想もしなかった世界の変化で、スタンダードもどんどん変わる。適応していくことは、人間の感覚を進化させるのか、退化させるのか、それとも違う生き物になっていくのか、コズミック・ガーデンの中で考えた。