軽井沢安東美術館は藤田嗣治の作品約300点を所蔵し、藤田作品だけを展示している個人ミュージアム。軽井沢駅から徒歩10分弱なので、東京から新幹線で日帰りもできる。
目玉のひとつは「聖母子」。藤田がレオナール・フジタの洗礼名を受けて最初に制作し、ランス大聖堂に献納した作品で、サインは洗礼を受けた日付になっている。
藤田が日本国籍を捨ててフランスに帰化した当時、日本の新聞は「藤田が日本を捨てた」と報道した。しかし藤田としては、日本のほうが自分を捨てたと思っていた。
1920年代にパリのアート界を席巻した藤田は、その後日本に戻り、日中戦争では従軍画家として、第二次世界大戦では陸軍美術協会理事長として戦争画を描いた。国のために尽力した藤田だったが、敗戦後には「戦争協力者」のレッテルを張られ、手のひらを返した美術界からも糾弾された。形勢が変わると正義は簡単に変わる。藤田の胸中は察して余りある。そんな日本に嫌気がさして再渡仏した藤田は、宗教画に傾倒していく。
展示のもう一つの目玉は、やはりランスにあり、藤田が最晩年に全エネルギーを注いだシャペル・フジタ(フジタ礼拝堂)のフレスコ画の再現。その建設のためのデッサンも展示されている。本家のフジタ礼拝堂は5月から9月のみのオープンで、時期を選んで行かないと見られない。
またこのフレスコ画の下絵(といってもほぼ完成版に近い)は、パリ郊外のヴィリエ・ル・バクルにある藤田の元住居兼アトリエの「メゾン・アトリエ・フジタ」で見ることができるが、ここも現在閉館中。
ということで、現在見られないフランスの藤田作品が軽井沢に集結しているといっても言い過ぎではない。何気なくやっている展覧会のようで実はすごい。
コレクションルームでは藤田のトレードマークとも言える乳白色の肌の女性、猫、少女を描いた作品の他、モディリアーニの影響を受けた初期の作品など、幅広い作品が見られる。
個人宅をイメージした内装は温かみがあり、化粧室の壁紙さえ素敵だった。ゆっくり鑑賞した後は、併設されたハリオ・カフェでランチかお茶をしてから帰るのがお勧め。
ランス美術館のほうは2027年にリニューアルオープンの予定で、藤田作品だけを展示するギャラリーもできる。その前に軽井沢を訪れておくと、点が線でつながるように理解が深まるかもしれない。(現在の企画展は2026年1月4日まで。)
