ベトナム中部、ホイアンからほど近いところにあるミーソン遺跡は、人類の歴史を二つの側面から考えさせます。
ひとつは文化的側面。チャンパ王国の重要な聖域だったミーソンには、ヒンドゥー教のシヴァ神をまつるための寺院が4世紀から14世紀に渡って建てられました。
カンボジアのアンコールワットとよく比較されますが、建築時期はミーソンのほうが先で、アンコールワットに影響を与えたとも言われます。材質はアンコールワットは砂岩なのに対し、ミーソンは粘土です。赤いレンガで造られた各寺院の外壁には、女性的で優美な曲線の彫刻が多く見られます。
石板に書かれたサンスクリット語の碑文は、何を意味するか全くわからないのに、見ているだけで穏やかな気持ちになるから不思議です。
ミーソンの建築には、いまだ解明されていない謎がいくつかあるそうです。例えばレンガとレンガを強固に接着した物質は何だったのかとか。こういうことを聞くと、「ひょっとして宇宙人が造ったんじゃ・・・」などと考えてしまうんですが。
もう一つの側面は、戦争です。
建物の多くがベトナム戦争中の爆撃で破壊され、残った建物にも数多くの銃痕が。ゲリラが潜伏していたため集中攻撃を受け、寺院の内部の壁にまで執拗な銃撃の跡が残っています。寺院の周りにある複数のクレーターも爆弾投下でできたものです。
人類(たぶん)が残した歴史的遺産も、戦争という状況下ではただの建物に過ぎなくなるということ。そのすさまじさと、優しい女神たちの像とサンスクリットの碑文が、皮肉な対比を見せています。
現在ミーソン遺跡では各国による修復作業が進んでおり、また、駐車場から寺院群へは森の遊歩道も整備され、気持ちのいい空間作りもされています。ベトナム中部を旅する際は、足を延ばす価値がある場所です。