外国で日本食レストランに出会うことはもはや珍しくない。
最近、NYに行った際にも何度か和食を頂く機会があったが、料理もサービスもアメリカ流にアレンジされている部分はあるものの、たいていは許せるレベルだった。
NYに限らず、世界的に和食に対する理解が深まってきているので、びっくりすることはあまりない。
しかし、それは都市部に限った話。
ちょっと地方に行くと、異国の食文化は拡大解釈されやすい。
マンハッタンから車で1時間くらいの郊外に出かけたときのこと。有名なアウトレットモールの近くの日本食レストランに入った。そんなところに日本食の店があるのが不思議だったが、乗っていた車の運転手さんがたまたま見つけてくれたのだった。
店の入り口の前にいきなり、「重要文化財」と黒々とした日本語で書かれた木の看板が。
なんで?何が?と思って見上げると、そういえば、日本の民家っぽい。
店内の壁に貼ってあった説明を読むと、わざわざ飛騨・高山から移築したものらしい。
ここでやっと、店名の「GASHO」というのは「賀正」じゃなくて、「合掌」造りのことだと合点がいく。
ただし屋根は急こう配の形を残しているが、茅葺ではない。(重要文化財かどうかは怪しい。)
とはいえ、ここまでこだわったなら、さぞかしオーセンティックな日本食を出すのかと期待して席に着く。
メニューには「HIBACHI」という言葉が目立つ。
HIBACHIチキン、HIBACHIライス。
炭火で焼いた焼き鳥や、焼きおにぎりを想像した。
すると奇声が聞こえ、見ると、カンフーのような衣装に真っ赤なコック帽をかぶったシェフが、隣のテーブルの鉄板で威勢よく調理している。アジア人だが、日本人ではない。
80年代のハリウッド映画に出てきた、飛んでいるハエを箸で捕まえる日本人を思い出した。それくらいのギャップ感。
私たちのテーブルについた青いコック帽をかぶったシェフ、というよりカンフー職人が調理したヒバチチキンやヒバチライスは、結局、鉄板で調理したものだった。
あのねえ、火鉢って言われて、鉄板を思い浮かべる日本人はいないのよ、と思ったが、言っても仕方ない。
日本ではデフォルトであるはずの味噌汁も、なぜかここではミートローフスープが出てきた。
味については、書くに及ばず。
この店でしか「日本食」を食べたことがない人たちは、是非いつか日本に来て、自身の日本食の認識が誤っていたことを知り感動してくれることを祈った。
インターネットがこれだけ普及した現代において、少なくとも先進国と呼ばれる国においては情報格差はなさそうなものだが、ちゃんと理解している人のファーストハンドの伝達と解釈がない状態では、いくらデジタルでも情報の輪郭はぼやけるのだということを改めて思った。
東京でも、ナポリのスパゲティはケチャップで和えて炒めたものだと信じられていた時代があった。ひょっとすると地方ではまだその神話が残っているところがあるかもしれないし、今の東京の「本格〇〇料理」の店だって、間違っているかもしれない。
やはり食文化を知るには、その土地へ旅することが欠かせない。