レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500周年の今年、パリのルーヴル美術館など各地で関連の展覧会が開催されている。ロンドンのナショナル・ギャラリーでも、同館が保有する「岩窟の聖母」をフィーチャーした展示が行われている。
「Leonardo: Experience a Masterpiece」と題されたこの展示は、デジタル技術を駆使し、「ダ・ヴィンチのマインドを通して傑作『岩窟の聖母』を探求する」という試み。常設展示なら入場無料のところ、この作品たった一点を膨らませて20ポンド(約2900円)も取ろうというのだから、かなり意欲的なプロジェクトである。
結論から申し上げると、なかなか面白かった。ダ・ヴィンチがこの作品を制作する際にモチーフにしたと思われる風景の投影に始まり、次のアトリエを再現したスペースでは、キャンバスや壁に映像やテキストが投影され、赤外線で見た下絵や、ルーヴル版とロンドン版の二つの「岩窟の聖母」の驚くべき類似性も確認できる。
ハイライトはもちろん、本物の「岩窟の聖母」。ロンドン版のこの作品がもともと飾られていたミラノのサン・フランチェスコ・グランデ教会の祭壇をデジタル画像で再現し、その中央に作品を置き、両脇には当時あったとされる天使の絵が投影される。当時この作品が飾られていた様子が少し想像できる。
こうして映像を中心とした現代の技術で作品のコンテクストを説明する手法は、近い将来、オーディオガイドに代わる存在になるのではないだろうか。ARの技術で、本物の作品を見ながらその周辺情報を再現・提供することが、美術館の新しい役割になるのかもしれない。
礼拝堂の構造を空中に投影したもの |
パリのルーヴル美術館でのダ・ヴィンチ展では、もう一点の「岩窟の聖母」を含む、空前絶後と言われるラインアップのダ・ヴィンチ作品が展示されているが、会期終了までチケットは売り切れ。今、ダ・ヴィンチを見たければ、ナショナル・ギャラリーに行けば、作品は一点だけだが、コンテクストも含めてじっくり鑑賞できる。