2019年12月14日土曜日

サン・ポール・ド・ヴァンスとマーグ財団美術館

仕事で南仏のカンヌを訪れた後、ニース空港へ向かう途中で、付近の気になるアートスポットに寄ってみることにした。

最初に目指したのはカンヌから50分ほどのヴァンス(Vence)にあるRosary Chapel。一般的には「マティス・チャペル」と呼ばれるアンリ・マティスが装飾を施した礼拝堂。しかし、行ってみると残念ながら閉館中。毎年この時期は閉めているらしい。

外見だけでも、マティスらしい遊び心が感じられる。内部はステンドグラスから差し込む光が大理石の床に反射し、それは美しいと聞く。今回は外から眺めて想像するに留める。

ここで、地元出身で以前はガイドをしていたというドライバーのオリヴィエさんに、サン・ポール・ド・ヴァンスと、マーグ財団美術館に行くことを勧められた。違う美術館に行くつもりでいたが、いずれも気になっていた場所なので、お勧めに従うことに。

中世の要塞都市だったサン・ポール・ド・ヴァンス(Saint-Paul de Vence)は、小高い丘の上にある。シャガールが20年間暮らしたことでも知られ、多くのアーティストや詩人、映画関係者たちを惹きつけてきた。

城門を入り、石畳の細い道を歩き始めると、道の両側のほぼすべての店と言っていいほどアートギャラリーが並んでいる。こんなにアートギャラリーが多い町を見たことがあっただろうか?


ローカルアーティストから巨匠まで、ラインナップもテイストも店によって違うが、それぞれに味がある。


マーグ財団美術館(Fondation Marguerite et Aimé Maeght)は、サン・ポール・ド・ヴァンス旧市街から10分ほどの高台にある。フランスで最初の私立アート財団で、ヨーロッパの近現代アート作品13,000点以上という卓越したコレクションを持つ。創立者のエメ・マーグ氏は、20世紀を代表する多くのアーティストたちと親交があった。彼はミロ、レジェ、ブラックの3人とともに、もともと美術館としてではなく、アーティストが集う場所としてここを作った。建物と庭園は20世紀のスペインの著名な建築家ホセ・ルイ・セルトの設計。

南仏の自然に囲まれ、明るい屋内と、彫刻が並ぶ庭園が一体となったこの場所は、ルイ・ヴィトンのファッションショーの会場に選ばれたこともある。屋内外の作品は、各アーティストが設計者のセルトと相談しながら、建物と自然に溶け込むように制作した。

屋内ではミロ、ブラック、レジェ、シャガールなど充実したコレクション作品の他、Ra'anan Levyというイスラエルのアーティストの企画展示があった。



中庭にはジャコメッティの「歩く男」が。こんなに爽やかなジャコメッティは、ここと、デンマークのルイジアナ美術館でしか見たことがない。


建物の後ろは「ミロのラビリンス」という、ミロの彫刻とセラミック作品が点在するスペース。ここもミロ自身がデザインした。


マーグ財団美術館の素晴らしさは、展示作品の充実だけでなく、20世紀を代表するアーティストたちの黄金期のユートピアを想像させることだと思う。観光客を意識した庭園美術館とは違う、アーティストたちの自発的なエネルギーが調和した、稀有な場所である。

次回はもっと時間を取って再訪したい。