2020年11月20日金曜日

詩人としてのピカソ

ピカソの展覧会は数多あれど、詩人としての側面に光を当てたものはあまりない。スペイン文化普及をミッションとするインスティテュト・セルバンテス東京で開催中の「作家ピカソ展」は、文筆家としてのピカソにフォーカスした興味深い展示。ピカソの生まれ故郷・マラガのピカソ美術館の協力による国際巡回展。好評で会期を延長していたため訪れることができた。


ピカソが詩や戯曲を書いたことはあまり知られていないと思う。ピカソの詩は「自動記述法」という、理性を介在させずに思いついたことを次々と記していく方法で書かれ、何の脈絡もない言葉がデタラメに組み合わされていて暗号のようでもある。でも中には、マラガでの子供時代の想い出や、故国スペインへの愛を感じさせるモチーフが散りばめられたものもある。

展示された詩の原稿(デジタルコピー)は、殴り書きのようなものでも、ちょっとした文字にピカソらしさが感じられたりして、アートのリトグラフを見るようだった。

ピカソが詩を書き始めた1935年は、彼が家庭の問題を抱えていた時期と重なり、絵が描けなくなって詩に傾倒したという見方もあるようだが、必ずしもそんなことはなかっただろうと思う。30年代は100枚の版画シリーズの「ヴォラール・スイート」を制作していた時期だし、1937年には「ゲルニカ」を描いている。それに、会場で上映されていた研究者のインタビューによると、ピカソ自身が「西洋に生まれたから画家になったが、東洋に生まれたら詩人になっただろう」と言っていたそうだ。あれだけ多才で、生涯にわたって作風を変化させた芸術家にとって、表現の方法は絵でも文字でも、大した違いはなかったのではと想像する。

展示では俳諧や筆などの日本文化とピカソの関わりにも触れている。2020年12月15日まで。