初めてウィーン少年合唱団の公演に行く機会に恵まれた。
ウィーン少年合唱団は1498年に王立礼拝堂の聖歌隊として誕生し、今年で創立525周年(!)。ユネスコ無形文化遺産にも登録されている。10歳から14歳の約100名の少年で構成され、ゆかりの作曲家の名前にちなみハイドン組、モーツァルト組、シューベルト組、ブルックナー組の4組に分かれている(ちょっと宝塚っぽい)。
今年は合唱団にとって4年ぶりの日本公演で、ハイドン組が来日。5月初めから2か月近く日本各地で「天使の歌声」を披露している。そう聞いて、そんなに長い期間、学校は? と心配になったが、メンバーは全員、ウィーン郊外のアウガルテン宮殿で寄宿生活を送っており、そこが学校も兼ねている。ツアーに合わせて学習スケジュールも調整されるため、学業がおろそかになることはないらしい。
ちなみにアウガルテン宮殿は、世界遺産シェーンブルン宮殿を設計したヨハン・ベルンハルト・フィッシャー・フォン・エルラッハの手による17世紀のバロック宮殿。暮らすだけで感性が豊かになりそうだ。
さて、ステージに上がってきたのは、カペルマイスター(指揮者兼ピアノ)と、セーラー服を着た24名の少年たち。整列しても背丈がバラッバラなのはまさに成長期。そして日本人を含むアジア系の子たちも数名いる。
中でも目立っていた子のひとりは、歌唱力はもちろん、アンコール曲での手拍子の誘導をするときの仕草や表情が秀逸で、エンターテイナーの資質を発揮していた。あとで人に聞いたところでは、その子はウクライナから避難してウィーン少年合唱団に加わったとのことだった。才能を開花させる場に出会えて、本当に良かったと思う。
ウィーン少年合唱団は入団も狭き門で、入れば年間コンサート数は約300という、アイドル以上の活躍ぶり。でも自分やプロデューサーの意思とは関係なく、ある年齢に達したら自動的に卒業する。その限られた期間、親元を離れ、規律正しく勉強も練習もしながら、世界の人々に全力で音楽を届ける。好きなこととは言え、少年にとって並大抵のことではないだろう。そんなバックグランドを知ると、天使の歌声に癒しよりもむしろパワーをもらった気がした。