2023年5月31日水曜日

色に溺れる

オペラシティアートギャラリーで開催中の「今井俊介 スカートと風景」展。先日、その鑑賞会に参加した。閉館後の美術館を、アーティストご本人とキュレーターさんの案内で巡るという贅沢なイベント。

私は今井さんの作品を見るのは初めてで、鮮やかな色とストライプが画面いっぱいに広がる絵はポスターなどのデザイン画かと思っていたが、むしろ風景画だとわかった。並んだ色は平面にあるのではなく、図柄を印刷した紙や布を曲げたり重ねたりした状態の奥行きや動き、そしてゆがみなどを写し取ったものだそうだ。

一連の作品の原点にあるのは「知人がはいていたスカート」だそうで、人の動きとともにスカートの柄も揺らぐ「風景」にインスピレーションを受けたという。その作品も展示されている。


それぞれの作品は無関係ではなく、作品の一部を切り取って拡大したものや、揺らぎが加わったものがが別の作品になっていたりする。それらがまったく違って見えるのもまた面白い。


そして今井さんの原動力ともいえる「色に溺れる」感覚。大型の作品ではそれを感じることができる。

美術館の展示室にあるベンチは、当然のことながらテキトーに置かれているわけではない。それらは名画をゆっくり鑑賞したい、ちょっと休みたい、またはしばしばベンチに括り付けられている展覧会のカタログ見本をパラパラめくってみたい、などなどの鑑賞者のニーズに応えるものだと思っていた。でもアーティストの側にも、ベンチを置いて自分の作品をじっくり鑑賞してもらうことには、ちょっとした憧れみたいなものがあると聞き、そっち側の視点で考えたことがなかった私にとっては目からうろこだった。


今井さんご自身、作品が完成したときには座ってそれを眺めるそうだ。だから彼の作品に関してはベンチに座った位置から見るのが、作品の意図を理解するに最も適した鑑賞方法かもしれない。実際、そうして大型の作品を眺めると、色に溺れる、色に呑まれる感覚を覚えると思う。

鮮やかな色が中心の作品の中に、ひとつだけちょっと渋めの色の作品があった。聞けばたまたま旅先の店で出会った女性もののワンピースをモチーフにしたとのこと。昔から旅先の風景を描くアーティストは多いが、今井さんの場合はワンピースが旅先の風景だったのだろう。

そう考えると風景は日常のいろんなところに転がっている。もう少し自分の周りの風景を大切に意識してみよう。