ここは2010年のEXPOの開催地だが、今では当時のものすごい混雑の面影はない。近くには目立った商業施設もなく、アクセスもタクシー以外は便利とは言えない。
高さ165mの煙突が目印の建物は、19世紀末に作られた発電所。発電所としての役割を終えた後、EXPOの会場となり、その後2012年に中国本土で初めての公立のコンテンポラリーアートの美術館として再生された。
中国政府は公立ミュージアムの無料化を進めているそうで、ここも一部の企画展を除いて無料で観賞できる。
箱のような無機質な建物を入ると、広い吹き抜けのスペースにいくつかの大型の作品が置かれ、奥にある階段やエスカレーターが各階の展示室に導いている。
訪れた時は「Decorum: Carpets and Tapestries by Artists」という企画展をやっていた。PSAとパリ市立近代美術館が企画した、6世紀から現代までの世界の様々な形態の「織物」を集めた展示。昔の無名作家の手織り絨毯から、20世紀のピカソのタペストリー、21世紀の現代アーティストたちによる布を使った自由な作品まで、また中国からは明時代の絹織物や、毛沢東の肖像の大きなタペストリーなど、産業と政治の歴史の文脈の中で、それぞれの作品が意味を持っている。
中でもちょっと面白かったのは、一見してカーペットだけど、よく見ると色違いのデジタル腕時計を並べた作品。時計は全て同じ中国製の安物で、作品が完成した2011年当時は完全にシンクロしていたのが、今ではすべての時計の時刻がずれていて、あちことでバラバラに「ピピッ」というアラーム音が聞こえるのがおかしい。
別のフロアでは日本の建築家・篠原一男の回顧展をやっていた。住宅建築を手掛けていた篠原氏の作品は、国際的にはむしろ彼の死後に注目されているそうで、彼のアジアでの回顧展はこれが最初らしい。
PSAはアートの展示だけではなく、アーティストやキュレーター育成のプラットフォームとしての役割も担っている。今はちょっと地味なこのエリアが、今後アートの街として発展していけば更に面白い。