丸の内のインターメディアテクへ「遠見の書割 ポラックコレクションの泥絵に見る『江戸』の景観」展を見に行った。
インターメディアテクは商業ビル内にありながら、土器から大型絶滅鳥の骨格標本まで、膨大な数の学術標本が展示された真面目な博物館。展示室のレトロなデザインが独特の不思議な雰囲気を醸し出す。隅から隅までじっくり見れば一日つぶせそうだが、それはまたにする。
さて、今回見た泥絵は、江戸時代後期に江戸などの風景を描いた洋風画の数々。安い土産物として売られ、長い間それ以上の芸術的評価がされることはなかったらしい。
泥絵の特徴とされる画面全体のブルーは、ベロ藍と呼ばれた舶来の化学染料が使われた。全体にぺたんと塗られた不透明な青は、抜けるような青空なのか、どよんとした薄曇りなのか、ときにはっきりしない。
旅人が持ち帰る都市の景観画としては、ヨーロッパのヴェドゥータと同じような役割だったのではと思うが、ヴェドゥータはカナレットのような芸術家が世界に名を残しているのに対して、泥絵で名を残した作者はほとんどいない。確かに緻密さの点では、ヴェドゥータと泥絵は比べ物にならない。逆に言えば、泥絵は簡略化した絵でうまく土地の雰囲気を伝えていて、見た人にそこに行きたいと思わせることより、実際に行った人の旅の想い出を引き出すにはちょうどいい加減だったのかもしれない。
旅先で見た風景を想い出に持ち帰りたいという思いは、今も昔も変わらない。写真がなかった時代はこうした風景画が頼りだったし、今でも、自分で撮った写真とは別に絵はがき(写真はがき)を求める人は多い。でも時々、写真をたくさん撮っただけで風景を記憶したような気になっていることもある。(そしてちょっと昔の写真を見て、「あれ、こんなとこ行ったっけ?」となる。)
旅の記憶は外付けハードディスクに頼り過ぎてはいけないと、常々思っている。天気さえはっきりしない泥絵を見て、自分がそこに立っていた時のことを鮮やかに思い出すことができた江戸の人々を見倣いたい。