2022年5月30日月曜日

夕暮れの無鄰菴

5月中旬の夕刻、京都の南禅寺近くにある庭園「無鄰菴(むりんあん)」に伺った。

無鄰菴は政治家・山縣有朋が1896年に造らせた別邸で、日露戦争開戦前に山縣が伊藤博文などと会議をした場所としても知られる。歴史的背景はさておき、純粋に庭園として素晴らしい。

作庭は七代目小川治兵衛。山縣のオーダーは「東山の山並みを眺めるための庭」だったそう。あくまでメインは東山の借景。治兵衛が応えて作ったのは、東山の風景と一体化した見事な自然の再現だった。それまで主流だった枯山水のような見立てとは一線を画した、琵琶湖疏水を引いたせせらぎが流れる里山のような庭。以降、これを自身のスタイルとして確立した治兵衛は、南禅寺界隈の別荘地で多くの近代的日本庭園を手掛ける。

無鄰菴は閉園後の時間帯はプライベート利用に提供されている。日没が遅い今の時期は、昼間の明るさから次第に暮れゆく空の下で移り行く庭園の表情と、やがてライトアップされた夜の庭園を楽しめる。


山縣の庭園としては東京の椿山荘も有名。椿山荘はあまりに広大で、雲海でも発生させたくなる気持ちもわかる。無鄰菴は軽く散策して一周できる大きさ。雲海はないけれど、日没後、琵琶湖の水に導かれたように野生のホタルが飛んでいた。