2013年3月18日月曜日

カタルーニャの旅 ③ジローナと近郊

マス・マテウ(前回参照)での素敵な朝食の後、近郊の町の見学に出かけた。

最初に立ち寄ったのはパラタラダ(Paratallada)という町。「切り出された石」を意味するパラタラダは、町を囲む堀から切り出した石で造った建物と、石畳の細い道で構成される。11世紀以前に建てられた城を中心に、監視塔、城門、堀などで構成された、中世の要塞都市。

歩いて小一時間もあれば一回りできるパラタラダには、小さなカフェやブティック、ホテルが数件あるだけ。ガイドブックによれば人口は150人。中心の広場にはインフォメーションセンターもあるが、観光業で成り立っているのだろうか?と余計な心配をしてしまうほど、静かで、のんびりした雰囲気が流れている。

案内してくれたガイドさんに、「これ、日本の花でしょ?」と言われ、見ると、そこにはピンクの梅の花が、カタルーニャの春の日差しを浴びて咲いていた。中世の石壁をバックにした梅も、なかなか新鮮。


次に訪れたのは、エンポルダの地元のワイナリー。
エンポルダはスペインで代表的なワイン産地ではないが、ワイナリーはいくつかある。今回はMasia Serraというワイナリーを訪問。1961年、祖父の代に植えたグルナッシュ種が始まりで、最初は他のワイン製造者にブドウを卸すだけだったのが、90年代から自分たちのワインを作っているそう。現在の経営者の3代目の夫妻が作るワインのラベルは、インパクトあるスタイリッシュなデザイン。

この地方では、トラモンタナと呼ばれる北からの風が強く吹き付けるため、ブドウの木はそれに耐える強さが要求される。同時に、その風が害虫も吹き飛ばしてくれるため、農薬はほとんど使用しなくて済むそうだ。必要なものは、自然の中にあるということ。まだビオの認証は取っていないが、近いうちに申請を予定していると、夫人が話してくれた。

日も暮れてきた頃、北カタルーニャ最大の都市、ジローナに到着。

オニャル川沿いにパズルのようにぎっしり並ぶ住宅群を眺めながら橋を渡ると、のっぺりしたライオンが柱にしがみついたモニュメントがある。このライオンにキスをすると、またジローナを訪れることができるとか。

夜の闇に包まれていく中、城壁を歩いた。
紀元前にローマ人が築いたジローナの街は、その後イスラム勢力の侵攻から領土を守り、城壁の形を変えながら発展していった。現在は城壁をから、街を一望する監視塔に上ることができる。

昼間のジローナも美しいに違いないが、夜への移ろいの中でライトアップされた大聖堂も幻想的でいい。

ちょっと駆け足だったカタルーニャの旅。ライオンにキスはせずに帰ってきたけど、きっとまた行きたい。


2013年3月16日土曜日

カタルーニャの旅 ②ヴィラ「マス・マテウ」

今回の旅の最大の目的は、カタルーニャ州アルト・エンポルダ(Alt Emporda)にあるヴィラ、マス・マテウ(Mas Mateu)での滞在。

アルト・エンポルダはバルセロナから車で1時間半、ジローナ空港から30分の位置にあり、コスタ・ブラヴァや、サルヴァドール・ダリの生地で美術館があるフィゲラスに近い。付近はヨーロッパでも有数のコルクの産地で、世界各地に輸出されている。

マス・マテウは70ヘクタールという広大な敷地を持つ18世紀のヴィラ。「マス」というのはファームハウスを意味し、かつては裕福な農家の屋敷だった。数年前にここを購入した現在のオーナーが、建物の外観を維持したまま内部をリノベーションし、より高い快適さと開放感を持つ家に仕上げた。

マス・マテウが他の多くの高級バケーションヴィラと異なる点は、専属のスタッフを抱えていること。ゲストが到着すると、スタッフが玄関の前にずらりと並んで出迎えてくれる。このヴィラを知り尽くしたシェフ、バトラー、客室係の女性たち、庭師たち、そしてオーナーの息子のアルフレッド氏も自ら、ゲストの滞在の世話をする。

メイン棟の7つのベッドルームはそれぞれ造りが異なるが、いずれも歴史ある建築ならではの趣と、高い天井、現代のテイストで選んだ家具やアートが上手に調和した贅沢な空間。窓やテラスからは、オリーブの木が並ぶ庭園と、その向こうに広がる森が織りなすヨーロッパ的田園風景が臨める。

客室のバスルームにはオリジナルのロゴが刺繍されたタオルや、ブルガリのアメニティ、バスローブなどが備えられ、5つ星ホテルと変わらない。もちろん水回りはすべて改装時に新しくなっている。

この田園風景の中に、何故かインフィニティプールがある。雲がない日は素晴らしい夕陽が臨めると聞いて納得した。赤く染まった空と水が一体になった風景はさぞ美しいに違いない。(残念ながら今回は見ることができなかったが。)

また、晴れた午後にプールサイドのラウンジエリアでカヴァとタパスを楽しむのもマス・マテウ流。





さて、旅で重要な要素は食。

この付近は、かつて世界一のレストランと言われた「El Bulli」があり、また現在のランキングでも2位の「El Celler de Can Roca」がある、いわば美食エリア。マス・マテウのプライベートシェフが作るのもヌエヴァ・コシーナの流れを汲んだ素敵な料理。

1階のメインダイニングの大きなテーブルを囲み、地元エンポルダのワインを合わせて頂くディナーは、まさに、ヴィラ滞在ならではのエクスクルーシヴで贅沢なひと時だった。

マス・マテウのオーナーとスタッフは皆、ゲストの様々な要望にできる限り応え、最高レベルのサービスを提供することを目指す、プロ意識が高い人々。そして、とてもプライベートなのに距離感が程よい。まさに「貸切り5つ星ホテル」と呼べる。

こういう宿を使いこなせる洗練されたトラヴェラーが増え、それに伴い個性あるヴィラがどんどん出てくると、ホテル市場も今とはまた違ったものになっていくかもしれない。


(マス・マテウでの宿泊についてのお問合せは、info(at)cognoscenti.jp  まで。←(at)を@に置き換えてください。)

カタルーニャの旅 ①コスタ・ブラヴァ

バルセロナから海岸沿いに北東へ向かい、コスタ・ブラヴァを訪れた。

コスタ・ブラヴァはカタルーニャ州ジローナ県に属し、バルセロナから60kmほどのブラネスからフランス国境まで続く。「ごつごつした海岸」という意味のその名の通り、コスタ・ブラヴァは起伏が激しく、ほとんどが岩で覆われている。海水浴に向く砂のビーチは数か所しかない。しかしその水は青く、透明で、ダイバーたちも訪れる。

ここには毎年、ヨーロッパや世界中からたくさんのヴァカンス客がやってくるため、高級ヴィラ(貸別荘)も数多い。

海岸沿いのサン・フェリウ・デ・ギショー(Sant Feliu de Guixols)にあるヴィラ、Ses Alegriaに立ち寄った。地中海に面した静かな高台にあり、真っ青な海を見下ろす眺めはため息が出る。

敷地から斜面の階段を下りていくと海にダイレクトにアクセスできる。ここも岩がちなので、波が高いときは泳ぐには向かないかもしれないが、この眺めと波の音を独り占めできる環境でどう時間を過ごすかを考えるのも、贅沢のひとつだと思う。

何故だろう。アドリア海やエーゲ海なども含めて地中海はいつも、見るとその深い色合いにちょっとした衝撃を受ける。かつてギリシャのサントリーニ島で初めてエーゲ海の青に接した際も、あまりに予想を超えた青さに不意打ちをくらい、思わず笑ってしまったのを覚えている。紺碧とか、アジュールとか、色々表現はあるが、その衝撃を表すには一言では足りない。

深い海の底に、エメラルドやサファイヤや、または名の知れない美しい石が眠っていて、その反射が独特の色彩とオーラを醸し出すような、そんな印象を持っている。

2013年3月8日金曜日

バルセロナで思う都市の街並み

18年ぶりくらいにバルセロナに来た。
ここまで久しぶりだと、やはり王道の観光名所も外せない気がして、サグラダ・ファミリアに行ってみたところ、朝11時ですでに驚愕的な長蛇の列。甘かった。入場するのに軽く2時間はかかりそうだったので、さっさとあきらめて外観だけ見ることに。18年前とどこが違うか、わかるわけないが、明らかに工事進行中な感じの覆いが被さっていても許される観光名所は、世界でもここだけだろう。進行形であるがゆえの生き物のような躍動感がこれだけ多くの人を惹きつけるのかもしれない。

グラシア通りに戻り、カタルーニャ広場に向かって南へ歩いてみる。2つの分離帯を挟んで8車線ある大通りで、両側には高級ブランドショップが並び、まさに目抜き通りと呼ぶに相応しい。
 
前回来た時は多分、点でしか街を見ていなかったので覚えていなかったのだが、改めて、建築がとても美しい街だと思う。ガウディのカサ・バトリョやラ・ペドレラ(カサ・ミラ)の曲線的なフォルムでさえ、異質なものとして排除せず、また、それらだけが極端に目立つこともなく、昔からある建物も現代建築も、それぞれが個性を持ちながら調和している。


ずっと東京に住んでいて思うのだが、東京には、ここ、という「目抜き通り」がない。大通りや繁華街やショッピングストリートはたくさんあるけれど、ほお、とため息をついて見とれてしまうような美を全体で創り上げている通りは、残念ながら見つからない。

思うに、街並みにおける美意識は、それが高いレベルであるほど伝播する。景観条例のようなもので規制するしないに関わらず、ここに相応しいものを建てなくてはという自発的な調和と競争が、美しい街並みを生むのだろう。

歩いていて自然と心が高揚する街は、きっとそういう美意識が存在している。