2019年9月9日月曜日

石の美術館

那須に素敵な石の建物があると知り、足を延ばした。
那須塩原駅から、観光地とは反対側の東方向に約30分の「那須芦野 石の美術館 Stone Plaza」。

芦野は旧奥州街道の宿場町で、昔からの石の産地でもある。その芦野石で作られた古い米蔵が、隈研吾氏の設計で、複数のギャラリーを持つ空間に再生されたのがこの美術館。芦野石の産業や文化を語り継ぐ場でもあり、街並みづくりにも一役買っている。


 「石倉ギャラリー」という一番奥の最も大きな米蔵と、新しく石で作られた周りの建物を、水上の石の通路がつなぐ。

薄い白大理石から外光が透けて見える「石と光のギャラリー」と、石を積み上げて作られた壁のスリットから、外の光と風がそのまま差し込む「石と水のギャラリー」は、石の特性と、石ならではの工法を活かしている。

「石の茶室」では、同じ芦野石を使いながら、焼成の温度の差で違う素材感を出した柱が並ぶ。

各ギャラリーでは、隈研吾氏の作品や、小さな企画の展示があるが、ここはむしろ、中身より建物を鑑賞したい美術館だと思う。


2019年9月1日日曜日

水庭

那須といえば緑豊かな高原をイメージする。実際、関東の北限と東北の南限に当たる那須は、北方系植物と南方系植物が混在するユニークな土地だそうだ。

そんな自然の宝庫である那須に、人口の森ができたと聞いたら、何のために?と、最初は思う。

正確には森ではなく庭で、アートビオトープ那須に2018年6月にオープンした「水庭」は、自然の中に作られた自然。それを見に人々が訪れる。

そして、訪れる価値は十分にある。


見たことがあるような、ないような、不思議な風景。

広い森に様々な種類の木々が生え、苔が生えた地面に大小の飛び石が道を作る。木々に囲まれ、木々を囲むたくさんの池にはアメンボも泳ぐ。

水庭を設計したのは、2010年のヴェネチア建築ビエンナーレで金獅子賞を受賞した建築家の石上純也氏。

隣接するヴィラとレストランの建設予定地で伐採されるはずだった318本の木を移植し、160の人口の池とともに配置したのが、この水庭。一見自然に、そして極めて巧みに作られている。全ての木を移植するのに4年もかかったらしい。

木が一直線に並ぶところはひとつもなく、池の大きさも場所によって異なる。ランダムなようで、石上氏は移植の前に318本の木をすべてきちんと採寸して配置を決めたそうだ。そう聞いて驚いたが、建築家としては当たり前の手順なのだろう。サイズも特徴もバラバラの自然を数値化することが、美しい調和に不可欠な作業であることは想像できる。

この土地は最初は森林だったのが水田になり、その後、牧草地となったそうだ。そこに森を作ることで元の自然に還していく、というコンセプトが水庭にはある。


これから10年、20年と時を経るにつれて、設計された自然の美が、大自然の中でどう変化していくのか興味深い。作った人たちがいなくなった遠い未来でも、水庭はアートとして存在しているだろうか。





2019年8月14日水曜日

100チェロ

「100チェロ」というコンサートに行く機会があった。
その名の通り、100人のチェロ奏者が、チェロだけで演奏する。

イタリア人のジョヴァンニ・ソッリマというチェリスト率いるこのプロジェクトは、もとは2012年、ローマの歴史ある劇場の閉鎖に反対するためのパフォーマンスとして発足し、目的を果たした後も、ヨーロッパ各地で展開されてきた。それが今回、日本に初上陸。

日本で集められた100人(正確には122人と言っていた)のチェロ奏者たちは、子供からお年寄りまで、アマチュア、ビギナー、プロが混在するオープンな構成。演奏する曲目もクラシックから、ブラームスのピアノ協奏曲(ピアノ無し)、そしてピンク・フロイドまで、実に幅広い。

ソッリマ氏の演奏はじっとしておらず、むしろロックギタリストのようにチェロを自在に操りながらのパフォーマンス。この演奏に参加した知人によると、彼はどんな姿勢で弾いても正確な音程を外さなかったそう。天才とはそういうものだろう。

そして、天才の要求は得てして厳しい。
リハーサルはコンサートの2日前から当日までの3日間。奏者たちは、チェロを演奏しながら足踏みをしたり、歌ったりという、普段はしないことをソッリマ氏に求められた。これがチェロオンリーの演奏にメリハリを加える要素の一つなのだが、最初は皆、この難題に戸惑ったらしい。

それでも完成した演奏は、想像していたより音域も広く、一種類の楽器だけとは思えない豊かな表現で、どんな曲も自然に「チェロのもの」になっていた(それは足踏みや歌がなくてもそうだった)。そして、ずらりと並んだチェロの壮観なこと!時折、演者全員がチェロを高く持ち上げるパフォーマンスでは、一つ一つの色合いが微妙に異なるチェロが照明を受けて輝く様が一層美しかった。チェロを聴かせるだけではなく魅せる演出は、チェロそのものへのオマージュだろう。


チェロを聴き、チェロを見る、面白い体験だった。


2019年8月2日金曜日

ハワイのビーン・トゥ・バー

ハワイ産のお土産の定番といえば、マカダミアナッツやコナコーヒー。
逆に言えば、口に入るもので気の利いたおしゃれなお土産を探そうと思っても、限界があったのも事実。

それが今年の夏、新たな発見!


ハワイ島のスーパーマーケットに、去年まではなかったハワイ産チョコレートのコーナーができていた。パッケージデザインも洗練された、ハワイ島やオアフ島のクラフトチョコレートがずらりと並ぶ。

なるほど、コーヒーが育つのだからカカオができるのも当然かと思ったら、調べてみると、コーヒー豆が栽培できる「コーヒーベルト」は北緯25度から南緯25度の範囲なのに対し、「カカオベルト」は北緯20度から南緯20度と更に狭い。ゆえにアメリカ合衆国でカカオが栽培できるのはハワイ州だけなのだそうだ。

そういえばマカダミアナッツチョコレートの周りのチョコレートがどこのカカオで作られているのか、考えたことさえなかったが、ハワイの本格的なチョコレート産業の歴史はまだ浅く、生産コストも高いハワイ産のカカオだけでは需要を賄いきれていないのが現状らしい。しかし最近の「ビーン・トゥ・バー」のトレンドに乗り、ハワイ産のカカオとチョコレートそのものにクローズアップした商品が増えてきている。

チョコレート好きの人なら、数ある小さなメーカーの中から、自分のお気に入りを探すのも楽しい。ひと味違うハワイのお土産に。





2019年6月1日土曜日

シンガポール「Jewel」

シンガポールからの帰り、チャンギ空港の「Jewel(ジュエル)」に立ち寄った。
ターミナル1に併設される形で今年4月にオープンした話題のスポット。世界最大の人口の滝がある。


「レイン・ヴォルテックス」と呼ばれる高さ40メートルの滝は、水煙を上げながら勢いよく降り注ぐ。周りには熱帯の木々が植えられ、滝のマイナスイオンを感じながら、ちょっとした散歩が楽しめる。


Jewelの入り口で訪問者を迎えるのは、CAO PERROTというアーティストデュオによる「Crystal Clouds」。アートはこれからもっと増えていく様子。


ジュエルにはたくさんのショップやレストランもあり、6月には迷路などのアトラクションもオープン予定。飛行機に乗る用事がない地元の人もたくさん訪れている。私が乗ったタクシーの運転手さんは「大勢のお客さんをここに乗せてきたけど、自分はまだ中を見たことがないんだ!」と残念がっていた。

フライト前の時間つぶしのつもりが、つい夢中になってしまいそうな場所なので、乗り遅れにご注意!


2019年5月22日水曜日

上海のシャネル展

4月20日から、上海のウエストバンド・アートセンター(西岸芸術中心)でシャネルの「マドモアゼル・プリヴェ(Mademoiselle Privé)」展が開催されている。ロンドン、香港、ソウルに続く巡回展。


行ってみると入場を待つ人の長い列が。どうやらWechatで入場時間の予約が必要みたいで、アプリを立ち上げてそこにあったQRコードをスキャンしてみる。…。表示された中国語の画面を見て固まっていると、係のお兄さんが声を掛けてくれた。「中国の携帯番号ある?」と聞かれ、無いと答えると、じゃ、ここを進んで、と、行列の隣の誰もいないレーンを通してくれた。え、いいの?と思いながら進み、入り口で係りの人に言われるままに名前と日本の携帯番号を入力すると、そのまま入れてくれた。え、ほんとにいいの?外国人観光客優遇かしら。よくわからないけど、ありがたい。


会場は飛行機の格納庫だった大きな建物。展示のある2階への階段の前で並び、順番が来ると素敵なポーチをくれる。


入場無料で、しかも「シャネルのポーチ」がもらえるなんて、嬉しいに決まってる。行列の理由はここにもあるのかもしれない。

展示は香水、オートクチュール、ハイジュエリーの3つのテーマに分かれ、それぞれの入り口には象徴的な番地表示がある。香水の部屋はNo. 5、オートクチュールの部屋はシャネル本店があるカンボン通り31番地、ハイジュエリーはヴァンドーム広場18番地。


香水の部屋では、No.5の原料となる花を模した、ピンクやクリーム色のペーパーフラワーの畑が広がる。

オートクチュールの部屋は、カール・ラガーフェルドによる過去のコレクションやデザイン、イメージ映像など、ラガーフェルドとココ・シャネルへのオマージュに満ちた内容。



ハイジュエリーの部屋では、まぶしいほどの輝きを放つジュエリーの数々が展示されていた。1階ではフランスの職人を招いてのワークショップが行われ、こちらも賑わっていた。

多くの人が写真撮影に熱心なのはどこでも同じだが、面白いのは、日本ではインスタ映えには必ずしも人物は必要ないが、上海ではポートレート撮りをする人が多いこと。記念写真的なものではなく、カメラ目線を外した雑誌風(を狙った)ショット。自撮りでも友達同士での撮影でも、多少ナルシスト的要素がないと人前でこういうのは撮れないが、ここはそういうモードになるのにうってつけの場所なのだろう。これも行列のもう一つの理由かもしれない。

西岸と呼ばれる黄浦江沿いのエリアは、近年開発が急ピッチで進み、新たなアートハブとしての存在感を増している。今回会場となっているウエストバンド・アート・センターはその核となる施設のひとつで、良質なアートギャラリーが集まっている。多くのギャラリーが展示替え期間に当たっていたこともあり、シャネル展以外は人もまばらだったが、これからM50や北京の798のような場所になっていくのだろうか。


近隣のYuz Museumや、今年オープンしたTank Shanghaiに続く、新たな美術館のオープンも予定されていて、一大「アートベルト」の誕生が楽しみ。

上海でのMademoiselle Privé 展は2019年6月2日まで。



2019年5月19日日曜日

Tank Shanghai

上海を2年ぶりに訪れたら、西岸(ウエストバンド)地区がすっかり変わっていた。黄浦江に面した龍騰大道沿いに、現在建築中のものを含め、新しい建物が続々とできている。

その中で今年3月にオープンした「Tank Shanghai」は、漢字で書くと「上海油罐芸術中心」。文字通り、航空機の燃油タンクをリノベートした美術館で、アートコレクターのQiao Zhibing氏が設立した。6万平方メートルの敷地に並ぶ5つの「油罐」の外観は、なかなかユニーク。

こけら落としの展示の一つはチームラボの「Universe of Water Particles in the Tank」。

土日の入場料は150元(約2400円)と、上海の美術館としては決して安くはないが、中は家族連れや若者でそこそこ賑わっていた。


円いタンクの空間に、滝と四季の草花の映像が映し出される。床では、立っている足の周りに水流が生まれ、そこに花が咲く。このインタラクティブ性はちょっとスローなので、各地のチームラボの展示を見てきた人にとっては、若干物足りないか、気づかないかもしれない。でも観客は床に座ったり、白い服を着てきて自分もスクリーンになった姿の写真を撮ったり、それぞれのんびりとこの世界を楽しんでいるようだった。

次の部屋は、浮世絵を思わせる波(これ、去年大阪で見たのと同じような?)

この展示は8月24日まで。

ハイスピードで開発中の西岸地区。向こうにはテーマパーク「ドリームセンター」が、通りの向かいにはファイナンシャルセンターの高層ビル群が建設中だった。次に来るときはどうなっているのか、楽しみ。


2019年5月18日土曜日

Yves Klein、Lee Ufan、そしてDing Yi

上海の「Power Station of Art」で面白い企画展を見た。「The Challenging Souls」と題したイヴ・クライン、李 禹煥、ディン・イーの3人の展示。

国も世代も違うこの3人をなぜ?と思ったが、20世紀から現代にかけて東西における「アヴァンギャルド」を象徴する存在として選んだそうだ。1950年代から60年代にフランスで活躍したクライン、60年代から70年代の日本の「もの派」や韓国の「単色画」の中心的な存在となったウファン、そして80年代以降、クロスの抽象画で中国の現代アートをリードするイー。













展示はクラインへのオマージュの要素が強かったい。ウファンがこの展覧会のために作成した「Infinity Stairs」はクラインの青をイメージしたもの。


ディン・イーは、昔エルメスのスカーフをデザインした頃から気になっていたが、美術館で見る機会は初めてだった。クラインの青い巨大なプールと一緒に展示されたイーの作品は、クラインのブルーを邪魔せずに、しかし存在感を放っていた。


クラインの年譜や資料の展示では、彼がアーティストとして活躍する前に、柔道を極めていたことを知った。1952に年に来日し、講道館で修業し四段を取得。昭和28年の日付が入った「イーブ・クラン」宛ての免状も展示されていた。

そして彼は柔道をヨーロッパに拡めるべく、本を出版する。その表紙は、さすが、アートブックのようである。(狙った読者層に響いただろうか?)


クラインの回顧展でもあり、アバンギャルドの系譜でもあり、今も活躍するアジアの二人のアーティストのポイントを押さえた展示でもあり、色々な角度から見応えがあった。展示は7月28日まで。


2019年5月16日木曜日

Prada Rong Zhai

週末を利用して上海の話題のスポット、「Prada Rong Zhai」へ。


中国の富豪の邸宅だった洋館を、プラダが時間と資金をかけて修復したもので、かつての持ち主の名前を取って「Rong Zhai(榮宅)」と呼ばれている。企画展の時だけ一般公開される。


ガイドツアーを事前に予約して時間に行くと、英語のツアーを必要としたのは私だけ。他は地元の人ばかりで、意外にもシニア層の女性が多い。この邸宅の主だった榮宗錦(Yung Tsoong-king、またはRong Zongjin)は、小麦と綿糸の事業で身を立てた中国では有名な人物。ガイドさんによると、何十年も門を閉ざしたままだった彼の邸宅が公開されたと知り、興味を持って見に来る人が多いのだそうだ。

もとはドイツ人家族のものだった邸宅をRong氏が1918年に買い、1930年代後半まで家族で暮らした。Rong氏は建築家を雇って装飾を加えた他、奥さんと7人の子供の大家族のために半フロアを増やすなどの改築もしたため、内部は迷路のようになっている。それぞれの部屋の用途は想像の部分もあるが、ステンドグラスやタイルの装飾の華やかさが、租界時代の上海のハイソサエティの生活をほうふつとさせる。

プラダは、この建物を中国政府から10年間の期間で借り受け、うち6年間を修復に費やした。イタリアから建築家と職人を呼び、時には材料もイタリアから取り寄せて、なるべくオリジナルに忠実になるように修復した。中国の歴史と文化の保全に、イタリアのクラフトマンシップを用いるところが、プラダのこだわり。そして2017年秋に「Prada Rong Zhai」として最初に公開された。


今回は2019年3月23日から6月2日まで「Goshaka Macuga -What Was I?」展が開催されている。ゴシュカ・マクガはポーランドのアーティストで、彼女自身の作品だけでなく、彼女がキュレーターとしてプラダのアートコレクションから選んだ合計26作品を展示。選定のひとつの基準は、その空間に合うかどうか。当然ながら、ここでは展示の中心は建物なのだ。

部屋ごとに異なる色の壁にマッチした作品が掛かっている。フォンタナの作品の深い緑も、赤い壁を引き締めていた。

マクガの作品のひとつは、(その空間に合っているかどうかはともかくとして)非常にリアルなアンドロイド。モノローグに合わせて顔や手を動かす様子は、表情と言い、皮膚の質感といい、動きといい、「ここまできたか」と思わせる。ちょっと怖い。


1時間の滞在は満足なものだった。Prada Rong Zhaiは、中国の他のどの都市とも違う、上海の華やかな時代を垣間見られる貴重な建物だと思う。そして近現代アートとの共演を見るのも楽しい。

見学やガイドツアーは予約制だが、日本から予約するのはちょっとハードルが高い。WeChatでしか予約を受けておらず、中国の携帯番号や中国のクレジットカードが必要になる。なので、宿泊するホテルのコンシェルジュに頼んで予約してもらうのが確実といえる。ちょっと手間はかかるが、行く価値は十分ある。


2019年4月9日火曜日

ウィーンで「マーク・ロスコ」展を見る

先日スペインに行った際、乗り継ぎで寄ったウィーンで少しだけ時間があったため、市内の美術史美術館(Kunsthistorisches Museum)へ。

マリア・テレジア広場には、ほぼ同じ造りの美術史美術館と自然史博物館が広場を挟んで向かい合って建つ。広場には朝から観光バスが横付けされ、美術館が開く前から外国からの観光客が大勢訪れている。その多くは美術館には入らず、広場と建物の写真を撮っただけで次へ向かうようだったが、帝国の威厳と優雅さを残す広場は、それだけでも十分価値がある。これほど圧倒的な外観を持つミュージアムがあるウィーン、うらやましい。

美術史美術館は歴代皇帝のコレクションを収蔵し、世界最大のブリューゲルの作品群のほか、フェルメール、ルーベンス、ラファエロ、カラヴァッジョなどなど、超一流のラインナップで知られる。

しかし滞在可能時間わずか30分だった今回の目的は、3月12日に始まった「マーク・ロスコ」展。オーストリアで初のロスコの回顧展となる。


マーク・ロスコと言えば、赤や黒などの四角い色が画面いっぱいに塗られた大型の絵画で知られるが、この展覧会ではそうした作品以外にも、1930年代から40年代の初期の作品から、「シーグラム壁画」を経て、1970年に亡くなるまでの最晩年の作品までを時系列で展示している。

初期の自画像や人物画は、初めて見る機会を得た。

人物は皆、表情があるような、ないような感じで、ちょっとデフォルメされている。

「シーグラム壁画」は、ワシントンDCのナショナル・ギャラリーから7作品を展示。

色の組み合わせで成り立つロスコの絵は、「どの色の組み合わせが一番好きですか?」と問われる心理テストを連想させ、自分が惹かれた作品の色にどういう意味があるのかと、ふと考えてしまう。それもロスコの絵を見る楽しさの一つ。


30分間での鑑賞ではあったが、とても満足度が高い内容だった。しかし、当然ブリューゲルもルーベンスも今回はパスせざるを得ず、内部も非常に優美な建物なだけに、後ろ髪を引かれつつ後にした。


春の晴れた空の下、空港に戻る車の窓から眺めたウィーンの街の美しかったこと!次回は必ず時間を取って再訪しよう。


2019年3月12日火曜日

「ピエール・セルネ&春画」展

銀座のシャネル・ネクサスホールでの「ピエール・セルネ&春画」展のレセプションへ。

大盛況でのお披露目となった今回の展示は、現代フランス人アーティストと、江戸時代の日本の浮世絵師たちの稀有な競演。いずれも性をテーマにしているが、直接的な表現でカラフルな春画と、見る者のイメージに任せるモノクロームのセルネ氏の写真は対照的で、面白いハーモニーを生んでいた。


会場の壁には丸い窓があちこちに開いていて、そこから見える向こう側の作品と鑑賞者たちも展示の一部を成す。


セルネ氏の作品は、言われないと絵かと思ってしまうが、実はスクリーン越しにシルエットを撮影した写真。被写体は、タイトルのカップルの名前だけが手がかり。
浦上蒼穹堂の春画コレクションは、北斎、歌麿、春信など一流の絵師たちのラインアップであることはもちろん、非常に保存状態が良く、とても200年以上経っているとは思えない色鮮やかさ。

レセプションの冒頭で、2月に逝去したカール・ラガーフェルドに黙祷を捧げた。主催者であるシャネルのコラス氏は、この展示はココ・ガブリエル・シャネルもきっと気に入ったはずだと述べた。時代が変わればクリエイターも変わり、文化が変われば表現も変わる。その中で普遍のものもある。それぞれの時代の価値観と美を見出す、興味深い展示だった。




舌の上の旅

変わった体験をした。

青山のIntersect by Lexusでの「Journey on the Tongue」という体験型エキシビションへ。

「舌の上で旅をする」というタイトルそのままの説明を読んでも、さっぱりわからないので、とにかく体験してみる。

まず、それぞれ違うオブジェが入った12のガラスケースを前に、開けて香りを嗅いで、一つ選ぶように言われる。土、花、毛皮、その他正体不明な香りが並ぶ。好きな香りよりも自分が嗅いだことがない香りのほうが面白い旅ができますよ、と。でも、嫌いな香りの旅はしたくないので、ニュートラルなものにしよう。黒い石の香りを選ぶと、「野生と瞑想」という札を渡される。これが私の旅のテーマ。(テーマは全部で3つある。)

同じテーマを選んだ人が4人ずつブースに入り、それぞれ椅子に座る。前には天井から重しのようなものが釣り下がっており、係の人が、先端に丸いキャンディーが付いたプラスチックの棒をそれに差し込んでいく。体験者は耳栓をしてキャンディーを口にくわえ、目を閉じて「旅」に出る。

耳栓をするということは、静寂の中で味覚だけに集中するということかと思いきや、口の中のキャンディーを通じて、振動とともにはっきりとしたサウンドが聞こえて来て驚く。ジャングルや、野生動物を連想させる音。耳から入ったのではないはずの音が、こんなに明確に聞こえるなんて!

キャンディーのほうは、口の中で溶けるにつれて味が変化する。自分が選んだ香りが含まれているらしい。

香りや音楽を使ったメディテーションは一般的だが、香りを味覚に変換し、味覚とサウンドを直結させた体験は新鮮。わずか4分間だったが、五感を意識できた旅だった。

私はどこへ行っていたんだろう?


2019年3月10日日曜日

アートフェア東京の週末に

今年もアートフェア東京が終わった。
毎年、何に出会えるか期待感でわくわくするイベントで、また、行かないと取り残されるような気がするイベントでもある。

雨だった木曜日午後のプレビューは、「買い物モード」で来ている真剣且つ場慣れしたコレクターと業界関係者が多く、テンション高めの空気。むしろ一般公開初日の金曜日のほうが、「鑑賞モード」の人が増え、より落ち着いてアートを楽しめた気がする。

今年はロビーギャラリーの入場無料の企画展示に大きくスペースを取っていた。31か国からの作品を展示したミニ・ビエンナーレ的展示や、注目アーティストの個展形式のブースなども楽しめた。

いつからか、汐留のパークホテル東京での「Art in Park Hotel Tokyo(AiPHT)」も同時開催されるようになり、二つのイベントをハシゴしてアート・ウィークエンドを満喫できるようになった。AiPHTのほうが小規模で新人の作品比率が高いが、気軽に買える金額の作品も多いので、購買意欲を上げる点でアートフェア東京との相乗効果は多少あると思う。

今回驚いたのは、2013年に2000円だったアートフェア東京の1 Day Passが、今年2019年は5000円になっていたこと。こんなにインフレ率が高いイベントって他にあるだろうか?もしそれでも入場者数に影響がないなら、日本でのアートの購買者層が確実に増えているということなのかと推測する。

会場でもらったフリーペーパーの調査によると、世界の美術品市場637億ドルのうち、シェアが突出しているのは米国(42%)、中国(21%)、英国(20%)の順で、日本は約3%らしい。一方、世界GDPのシェアは米国24%、中国15%、日本6%、英国3%。単純比較はできないが、欧米・中国と比べて日本は美術品に対する財布のひもが固いということは言えるだろう。アートの購入がより身近になり、増えていくことがアート産業にとって良いことなのは言うまでもない。しかし高額で購入するだけが全てでもなく、国としてバランスが取れたシェアがどの辺りなのかはわからない。

というようなことは日々気にせず、自分が好きな作品に出会う楽しみを求めて、またアートフェアに出かけよう。


2019年2月9日土曜日

アントニ タウレ「INSULA LUX」展

銀座のChanel Nexus Hallで開催中の「INSULA LUX 光の島」展を見た。


一歩入ると、その美しい展示空間にうっとりし、作品からあふれるような光に目を奪われる。

展示作品は、アントニ タウレ自身が住むバレアレス諸島のフォルメンテーラ島の風景を描いたもの。扉の外の風景を室内から眺める構図が共通しており、明暗のコントラストが特徴だが、室内は暗いだけではなく、むしろ外光で照らしだされた建物のディテールが見事。建築家でもあり、ハイパーリアリズムのアーティストともされたタウレが描く幻想的なフォルメンテーラ島は、きっと現実以上に美しい。

それでも、フォルメンテーラ島に行ってみたくなった。早速、海路でしかたどり着けないその島への行き方を調べ始めた。

それほど素晴らしい展示だった。