隣のニースには、マティス美術館、シャガール美術館など有名な美術館が何軒もあるのに、「カンヌ 美術館」で検索しても近くのアンティーブのピカソ美術館が出てくるだけ。
そんなカンヌで唯一チェックすべきは「マルメゾン (Centre d'Art La Malmaison)」。クロワゼット沿い、リッツカールトンの隣にある。それなりに目を引く建物だが、あまり知られていない。
元はグランドホテルの一部だった建物をカンヌ市が買い取り、2001年以降、年に2、3回企画展を開催している。20世紀、21世紀のアーティストにフォーカスし、ピカソやミロなどの他、日本では見る機会が少ない数々のヨーロッパのアーティストたちの作品も展示してきた。
今回の訪問時には、フランスの抽象画家ジャン・フォートリエの回顧展を開催中。タシスムの代表的な作家としてしられるフォートリエについては、偶然にも今年、日本初の大規模な回顧展が東京で開催されたばかり。まだ大阪に巡回中だったので、主要な作品は日本に行っていたと思うが、それでも作家の特徴を理解するに充分な作品群が展示されていた。
マルメゾンの展示の説明書きは、全てフランス語のみで、英語は併記されていない。海外からカンヌに来る人のほとんどは、毎週のように開催される何らかの見本市に参加するビジネス客。コートダジュールという場所柄、どの業界でも見本市期間中は商談と、ビーチ沿いでのランチと、夜のパーティに明け暮れる。昔から変わらないややデカダントな数日間。そして見本市が終わると皆すぐにカンヌを後にし、帰路につくか、週末をヨーロッパの他の都市で過ごす。カンヌでアート鑑賞モードに入っている人のほうが珍しい。だから非フランス語圏の人たちは最初からあまりターゲットにされていないのだと推測する。
でも、カンヌに仕事で来て、連日のランチやディナーで食傷気味のときは、ランチを一度スキップし、マルメゾンで静かにアート鑑賞してみるのも悪くないと思う。(マルメゾンは13時から14時は昼休み)