マラケシュに到着寸前の飛行機から見下ろした赤い砂丘に、砂漠の国のイメージが膨らむ。
そしてマラケシュのメナラ空港の、未来のオアシスを思わせる幻想的な美しさ。長いフライトの疲れを忘れた一瞬。
今回の私のマラケシュ訪問のもうひとつの(というより、実は最大の)目的は、Jardin Majorelle(マジョレル庭園)へ行くこと。イヴ・サンローランの庭園としての知名度が高いここは、もともとジャック・マジョレルというフランス人の画家が半生を費やし、世界中の旅先から様々な植物を持ち帰って作り上げた庭園。彼が作らせた建物の鮮やかなブルーは、「マジョレル・ブルー」と呼ばれ、庭園を更にエキゾチックな場所にしている。
サンローランとパートナーのピエール・ベルジェは、旅行で訪れたこの場所を「マティスが使った色が自然と融合した空間」と呼んで惚れ込み、取り壊されそうになっていたのを阻止して自分たちで買い取ってしまったほどだった。
庭園内は竹林に始まり、シダやサボテンやヤシなど様々な異国の植物が生い茂り、乾いた空気と澄んだ青空の下、熱帯雨林とは異なるワイルドさを醸し出す。
テラコッタ色が混ざったピンクに彩られたマラケシュ市街にはない、強い色のコントラストは、確かにマティスの絵を思わせ、異国の中にある異国ともいえる独特の世界。サンローランがこの庭園に出会った1966年は、原色と直線で構成された「モンドリアン・ルック」を発表した1年後。惹かれる要素があったことも想像できる。
敷地内の「Love Gallery」には、サンローランが毎年「Love」をモチーフに作成した新年のグリーティングカードが飾られている。面白いことに切り絵の手法などはマティスそっくり。
ジャルダン・マジョレルは普段は各国からのツアー客も多く、入場待ちの行列もできる。
訪れた日はちょうどイスラム教のEid al-Adhaという大きな祝日に当たり、町中のほとんどの店やビジネス、観光地も休み。街は静かで、タクシーも流していない。でもジャルダン・マジョレルに問い合わせたら、通常より1時間遅い9時から開園とのこと。これはむしろ絶好の機会。ホテルで車を手配してもらい朝一番で出かけた。案の定、上品なフランス人のツアーグループ一組がいただけで、すいている庭園を落ち着いて散策できた。
2017年秋にはここにイヴ・サンローラン美術館もオープンする予定。
イヴ・サンローランの記念碑が奥にある |