掛川駅の近く、新幹線沿いの細い道にひっそりと建つ資生堂アートハウス。
到着すると、緑の芝生の上で風にそよぐかのようにくるくる回る彫刻が目に入る。動く彫刻の第一人者・伊藤隆道の作。
アートハウスがあるのは資生堂の工場の敷地内。芝生に入れないので、横長の建物の全貌を撮影するのが難しい…。手前の芝生の斜面と一体になった直線部分から、奥の曲線部分に続いていく。外から見ると鏡になっている曲面ガラスは、通る新幹線を美しく映すことを意図したのだそう。谷口吉生と高宮真介の設計で、70年代のモダニズム建築の傑作として日本建築学会賞を受賞している。
中では資生堂が持つアート・コレクションを展示している。入場は無料。
訪問時はヴィンテージ香水瓶の企画展示をやっていた。資生堂は300点近くの香水瓶コレクションを保有しているそうで、今回はその中から1900年代初頭から第二次世界大戦前までのものを中心に70点が展示されている。バカラとラリックが大半を占め、アール・ヌーヴォーからアール・デコにかけての時代の優美なデザインが並ぶ。
一つ一つ、香水の容器などではなく芸術品としか言いようのないボトルを見ていると、香水とは、視覚と嗅覚、更には瓶を手に取った時の触覚にも訴える、稀有な芸術だと思えてくる。もちろんそこで展示されている瓶は視覚でしか感じることが出来ないけれど、例えば1920年代に飛行機での最初の旅行ブームが起こったときのエキゾチシズムをテーマにしたデザインからは、当時の人たちのまだ見ぬ世界への憧れや期待まで伝わってくる。香水瓶は時代の精神さえ映す。
後半はコレクションの彫刻の常設展。建物の中から庭の大型彫刻も鑑賞できる。
見学者は数人いたが、駐車場には車がなかったので、ご近所の方が多いのだろう。地域に愛される美術館は、いいなと思う。
素敵な美術館だった。時にはこだまに乗って、静かにアート鑑賞できるこんな場所を訪れたい。