もはや西洋風な建物がマジョリティになった現代でも、昔の日本の「洋館」には心惹かれるものがある。それは均整のとれたフォトジェニックな容姿だけでなく、そこに住んでいた人たちの優雅な日常や、まだ珍しかった洋館に当時の人々が抱いた憧れなどが伝わってくるからだと思う。
旧岩崎邸庭園は、庭園と呼ばれているが見どころはその建物。三菱財閥の岩崎家の本邸として1896年に建てられた洋館は、ジョサイア・コンドルが設計した。
コンドルといえば鹿鳴館の設計者でもある。小学校の授業で、明治時代に鹿鳴館という建物があったことを習い、それが現存していないことを知って、子供心になんだかとても残念に思ったのを覚えている。
旧岩崎邸も往時は今の3倍の広さの敷地があり、20棟の建物があったそうだ。残っている洋館は2階建てで、1階と2階に芝の庭を臨む広いベランダがある。1階のベランダには英国ミントン社製のタイルが敷き詰めてある。
2階のベランダにはイオニア式の柱が並ぶ。住人でもふさわしい身なりに整えてから出たいような場所である。
客室の壁は「金唐革紙」という、錫の箔を押して模様を打ち込み彩色した、工芸品と呼ぶべき壁紙で飾られている。
見学コースは洋館から入り、和館を通って庭園に出て、別棟の撞球室(ビリヤード・ルーム)へと歩く。このスイス・シャレー風の建物もコンドルの設計。洋館から地下道でもつながっているそうで、秘密基地に向かうような遊び心を感じる。
洋館の2階にいらした係の方が、訪問客一人一人に立ち上がって挨拶をしていたことも印象的だった。この邸宅にふさわしい佇まいは、今も受け継がれている。