2023年7月6日木曜日

Jewel at Night

シンガポールのチャンギ空港から夜のフライトに乗る前、少し早めに着いて「Jewel」へ。「Rain Vortex」がカラフルにライトアップされていた。


白く降り注ぐ昼のRain Vortexも迫力があるが、夜もなかなかいい。


8月中旬まではMarvelとタイアップしているらしく、入り口にアイアンマンの巨大フィギュアがあった。20時に始まった光と音のショーでもMarvelのヒーローキャラクターたちが次々に浮き上がる。きっとMarvelファンにとってはたまらない。ファンじゃなくてもショーは5分程度で終わるので飽きない。こういう滝の使い方もあるのねと感心しながら見る。



Jewelはターミナル1に直結、ターミナル2、3にも連絡通路を歩いて行けるので、フライト前に楽しめる。

2023年7月1日土曜日

仮想現実でアート鑑賞

シンガポールのザ・リッツ・カールトンは4200点ものアートコレクションを持つことで知られる。以前は館内に展示された作品の見どころを紹介した紙のパンフレットが用意されていたが、最近、数年ぶりに滞在した際には「ARアートツアー」が登場していた。


コンシェルジュデスクでQRコードをスキャンし、ブラウザでページを開く(アプリダウンロードは不要)。まずはロビー天井から吊り下がるフランク・ステラの「Cornucopia」を試す。ちなみにこの作品はファイバーグラス製で重さ3トン、デザインはサンバイザーから着想を得たそう。

作品の前に立ってスマホを左右に動かし続けるとARが始動する。するとパタパタパタっという効果音とともに、スクリーンの中で現実の作品の前を仮想の蝶が飛び交った。「おお!」と見とれていると、シャッターボタンが表示される。なんと写真や動画も撮れる親切設計。


ARの立ち上げにはちょっとしたコツが必要なようで、最初はいくらスマホを動かしてもなかなかARが立ち上がらない。上を向いてスマホをかざしてウロウロしていた時、取引先の人に声をかけられた。私、かなり挙動不審な感じだったんじゃないかと後で思う。

ARで何が出てくるかは、やってみるまで分からない。Zhu Weiの「Greater Water」という絵の前では、絵と同じ色と鱗の魚が泳ぎだした。


ステラのもう一つの作品「Moby Dick」。


このシリーズにはハーマン・メルヴィルの「白鯨」へのオマージュが込められているという。出てきたのは…

つぶらな瞳。


これ、シロイルカじゃない???

「白鯨」ってそんな話だっけ? いやシロイルカでは壮絶な闘いになるはずがない。あれはマッコウクジラ。

1980年代から90年代にかけて制作されたステラの「Moby Dick」シリーズは、138点の絵画や彫刻等から成り、それまでのミニマリスト・スタイルから作風が大きく変わったターニングポイントとされる。ステラがメルヴィルの「白鯨」を崇拝し、影響を受けたのは確かなようで、138点というのはメルヴィルの小説の章の数(135章)に呼応している。

じゃあどうしてシロイルカが呑気そうに泳いでいるのか?

リッツの作品解説をよく読むと、ステラに最初にインスピレーションを与えたのは、ニューヨーク水族館で見たシロイルカだったとある。なるほど! ごめん、君は間違いじゃなかったのね。

…といった細かいことは気にせず、ただARを楽しむだけで一味違うアート鑑賞ができる(きっとそのほうが正しい)ので、一度お試しを。


2023年6月30日金曜日

ストリートアートで見るシンガポール

シンガポールはストリートアートが面白い。

中でもチャイナタウンが代表的で、メディアでもよく紹介されるので見に行く人も多い。その作品レベルをひとりで上げている立役者がイップ・ユー・チョン (Yip Yew Chong) 氏。チャイナタウンで育ったイップさんの壁画は、とにかくシンガポール愛に溢れている。

もともと金融関連の仕事をしながら絵を描いていたイップさん。2018年以降は仕事を辞めてより多くの時間を絵に費やしているそう。彼の絵のサイズや表現の細かさを見れば、時間も集中力も必要なのがよくわかる。

イップさんの壁画制作は、誰も見ていないときにいつの間にか描いていなくなるバンクシー型ではなく、大きな壁いっぱいに下絵から仕上げまで、炎天下の日も雨の日も、何日間、何週間もかけて丁寧に描くスタイル。当然、壁の持ち主の許可も取ってある。

テーマはイップさんが子供のころに見た1970-80年代のシンガポールの風景や物語が多い。特に人気なのはTemple Streetにある3階建ての家の壁画。これは必見!


3階から巨大なティーポットで勢いよくお茶を注ぐおじさんのシュールな絵。これに呼び込まれて角を曲がると、昔のチャイナタウンの世界が広がる。

建物の1階右側部分は賑わうコーヒーショップの風景。


左側は野菜を売る市場の様子。建物の階段を挟み、人や市場の屋根が実際にそこにあるかのような立体感。これは実際に見るよりも写真のほうが立体的に見えることに後で気付いた。2階部分には洗濯ものなどが描かれている。

建物の裏口にも絵が続く。もはや建物ラッピング。

この壁画の制作中に撮られた動画を見たところ、下絵が残るうちから常にギャラリーが集まり、イップさんは見物客との記念撮影にも気さくに応じていた。

代筆屋の壁画も有名。イップさんのホームページによると、中国からの移民が故郷に送る手紙を代筆する商売は1980年代まで存在し、旧正月には背景にある赤い飾りのカリグラフィーも請け負っていたそう。

代筆屋の机の向かいに描かれた椅子に座るようなポーズで写真を撮ると、本当にその絵の中にいるように写るのも人気の秘密。この絵に限らず、イップさんの絵にはそういう仕掛けが多い。

京劇の壁画は、建物の権利者をつきとめて制作の許可を得るのに3年かけた執念の作品。舞台とその観客、舞台裏、近くで子供にアイスクリームを売る屋台など、当時の娯楽の様子を物語る。


イップさんが子供時代に家族で住んでいた家の描写も細かい。台所の床に赤いサンダルが転がっている。

その赤い木製サンダルを作る職人の絵もある。家の水場や市場でよく使われていたものだそうで、絵は実際に店が営業していた建物に描かれている。その後、ゴム製サンダルが普及し、木製サンダル屋は閉業してしまった。


イップさんの絵は、思い出を個人的なもので終わらせず、失われゆくチャイナタウンの歴史や文化を後世に伝える役割を果たしているのが素晴らしい。壁画のクオリティの高さが人を呼び、作者自身の体験に基づくそれぞれの絵のストーリーには説得力がある。どんなミュージアムより効果的ではないだろうか。

イップさんの壁画はチャイナタウンやほかのエリアにまだたくさんある。今回はすべての壁画を見られなかったので、シンガポールに行くたびにひとつずつ見に行こうと思う。



2023年6月17日土曜日

ウィーン少年合唱団

初めてウィーン少年合唱団の公演に行く機会に恵まれた。

ウィーン少年合唱団は1498年に王立礼拝堂の聖歌隊として誕生し、今年で創立525周年(!)。ユネスコ無形文化遺産にも登録されている。10歳から14歳の約100名の少年で構成され、ゆかりの作曲家の名前にちなみハイドン組、モーツァルト組、シューベルト組、ブルックナー組の4組に分かれている(ちょっと宝塚っぽい)。

今年は合唱団にとって4年ぶりの日本公演で、ハイドン組が来日。5月初めから2か月近く日本各地で「天使の歌声」を披露している。そう聞いて、そんなに長い期間、学校は? と心配になったが、メンバーは全員、ウィーン郊外のアウガルテン宮殿で寄宿生活を送っており、そこが学校も兼ねている。ツアーに合わせて学習スケジュールも調整されるため、学業がおろそかになることはないらしい。

ちなみにアウガルテン宮殿は、世界遺産シェーンブルン宮殿を設計したヨハン・ベルンハルト・フィッシャー・フォン・エルラッハの手による17世紀のバロック宮殿。暮らすだけで感性が豊かになりそうだ。

さて、ステージに上がってきたのは、カペルマイスター(指揮者兼ピアノ)と、セーラー服を着た24名の少年たち。整列しても背丈がバラッバラなのはまさに成長期。そして日本人を含むアジア系の子たちも数名いる。


合唱団はカペルマイスターのピアノに合わせて様々なジャンルの約20曲を歌う。ときにはアカペラで「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」を奏でたり、打楽器を駆使してリズムを取ったり、手拍子で観客を巻き込んだりもして、飽きさせない。

中でも目立っていた子のひとりは、歌唱力はもちろん、アンコール曲での手拍子の誘導をするときの仕草や表情が秀逸で、エンターテイナーの資質を発揮していた。あとで人に聞いたところでは、その子はウクライナから避難してウィーン少年合唱団に加わったとのことだった。才能を開花させる場に出会えて、本当に良かったと思う。

ウィーン少年合唱団は入団も狭き門で、入れば年間コンサート数は約300という、アイドル以上の活躍ぶり。でも自分やプロデューサーの意思とは関係なく、ある年齢に達したら自動的に卒業する。その限られた期間、親元を離れ、規律正しく勉強も練習もしながら、世界の人々に全力で音楽を届ける。好きなこととは言え、少年にとって並大抵のことではないだろう。そんなバックグランドを知ると、天使の歌声に癒しよりもむしろパワーをもらった気がした。


2023年5月31日水曜日

色に溺れる

オペラシティアートギャラリーで開催中の「今井俊介 スカートと風景」展。先日、その鑑賞会に参加した。閉館後の美術館を、アーティストご本人とキュレーターさんの案内で巡るという贅沢なイベント。

私は今井さんの作品を見るのは初めてで、鮮やかな色とストライプが画面いっぱいに広がる絵はポスターなどのデザイン画かと思っていたが、むしろ風景画だとわかった。並んだ色は平面にあるのではなく、図柄を印刷した紙や布を曲げたり重ねたりした状態の奥行きや動き、そしてゆがみなどを写し取ったものだそうだ。

一連の作品の原点にあるのは「知人がはいていたスカート」だそうで、人の動きとともにスカートの柄も揺らぐ「風景」にインスピレーションを受けたという。その作品も展示されている。


それぞれの作品は無関係ではなく、作品の一部を切り取って拡大したものや、揺らぎが加わったものがが別の作品になっていたりする。それらがまったく違って見えるのもまた面白い。


そして今井さんの原動力ともいえる「色に溺れる」感覚。大型の作品ではそれを感じることができる。

美術館の展示室にあるベンチは、当然のことながらテキトーに置かれているわけではない。それらは名画をゆっくり鑑賞したい、ちょっと休みたい、またはしばしばベンチに括り付けられている展覧会のカタログ見本をパラパラめくってみたい、などなどの鑑賞者のニーズに応えるものだと思っていた。でもアーティストの側にも、ベンチを置いて自分の作品をじっくり鑑賞してもらうことには、ちょっとした憧れみたいなものがあると聞き、そっち側の視点で考えたことがなかった私にとっては目からうろこだった。


今井さんご自身、作品が完成したときには座ってそれを眺めるそうだ。だから彼の作品に関してはベンチに座った位置から見るのが、作品の意図を理解するに最も適した鑑賞方法かもしれない。実際、そうして大型の作品を眺めると、色に溺れる、色に呑まれる感覚を覚えると思う。

鮮やかな色が中心の作品の中に、ひとつだけちょっと渋めの色の作品があった。聞けばたまたま旅先の店で出会った女性もののワンピースをモチーフにしたとのこと。昔から旅先の風景を描くアーティストは多いが、今井さんの場合はワンピースが旅先の風景だったのだろう。

そう考えると風景は日常のいろんなところに転がっている。もう少し自分の周りの風景を大切に意識してみよう。


2023年5月3日水曜日

ニコライ バーグマン 箱根ガーデンズ

ニコライ・バーグマンと言えば、色とりどりの花がぎっしり詰まった箱が真っ先に思い浮かぶ。もらう人もあげる人も嬉しくなるギフトだと常々思う。そのバーグマンが作った庭園が1年前に箱根にオープンした。そこはフラワーボックスの世界をそのままイメージして行くと少し意表を突かれる。いい意味で。


「ニコライ バーグマン 箱根ガーデンズ」は強羅の大自然の中にある。バーグマンが出会った広大な土地を買い取り、その自然を守りながら何年もかけて開発し、自らの世界観を表す場所として作り上げたという。


ここの主役はあくまでも強羅の大自然。庭園というより森と言ったほうが近い。園内にめぐらされた散策路は起伏に富んでおり、ちょっとした山歩き気分。箱根の自然の風景を一望できるパビリオンやビュースポットもいくつか設けられている。




花はフラワーボックスのようにぎっしりではなく、ところどころに差し色的に鉢で配置されている。箱根に自生している植物以外は地面には植えていないそうで、そうした鉢物は「モバイルガーデン」というコンセプトで季節に合わせて入れ替えられる。

屋内外の家具類は北欧のスケアラック、フリッツ・ハンセンとのコラボ。カフェでドリンクやフードをバスケットでテイクアウトし、お洒落なピクニックも楽しめる。

あちこちに配置された自然素材のアートオブジェも微笑ましい。なかには自然に溶け込みすぎて、気を付けていないと素通りしてしまいそうなのもあるので、よく目を凝らして。


フラワーボックスやグッズを売るショップが園内にないのを不思議に思ったが(あれば飛ぶように売れるはず)、あくまでもここはお買い物ではなく、箱根の自然を堪能してもらうことを意図して、あえてショップは設置していないのだと理解した。


生き物である以上、どんなフラワーアレンジメントも作った瞬間からしおれていくことは避けられない。バーグマンは自分が得たインスピレーションを永続的に残せる場としてこのガーデンを作ったという。もちろん自然も刻一刻と姿を変え、同じ状態で残るものではないけれど、四季折々の自然とバーグマンのデザインの共演を訪れた人がいつでも体感できる場所として具現化させたことは、素晴らしいアイディアだと思う。


今はオープンしているのは土地の一部に過ぎず、ひと回りするのにそれほど時間がかからないが、これからガーデンは更に拡大していく予定。箱根の自然とともに成長していくガーデンを見に、また訪れたいと思う。


2023年4月16日日曜日

進化するお花見

ソメイヨシノはすっかり散ってしまった4月のある日、ちょっと変わった夜桜見物をしに新宿御苑へ。

それはNakedが手掛ける話題のイベント。一度閉園した後の御苑が19時に再オープンすると、普段とは全く違ったファンタジックな世界が待っている。


美しくライトアップされた木々。色とりどりの提灯を持った人々が行きかう様も景色の一部。

ライトアップの色は刻々と変化する。会場内には散りゆく花びらを再現したプロジェクションマッピングや、自分の名前を乗せたタンポポの綿毛を飛ばすインタラクティブな遊びもあり、散策も楽しい。芝生の上に座ってピクニックをする人も多数。でも酔っ払いがいない平和なお花見。


今は八重桜が満開。一番奥の離れたところに、ひときわ大きな福禄寿の木がひっそりと、でも神々しいほどに輝いて立っていた。

究極の夜桜。

正直なところ八重桜の種類には詳しくなく、「福禄寿」という名もその時初めて知った。その縁起が良さそうな名前と光輝く姿に、なぜか昔読んだ「モチモチの木」を思い出す(ちなみにモチモチの木はトチの木という設定。)

もともと夜のお花見はあまり好きではなかった。桜の時期の夜はまだ寒いし、花より酒盛りな人たちが多いし、だいたい桜の花は青空を背景にしたほうが美しいに決まっていると思っていた。でもここで見る夜桜は、テクノロジーの魔法で魅力を最大限に発揮している。こんな場所ならちょっとくらいの寒さは忘れられる。

21世紀はお花見も美しく進化する。