2017年9月10日日曜日

ダミアン・ハーストの古代芸術?

ダミアン・ハーストというアーティストは、どうも、真っ二つになってホルマリン漬けになった牛とか、本物のダイヤモンドでぎっしり覆われた頭骸骨とかのイメージが強く、「成功しているのはわかってるがあまり好きになれないアーティスト」の一人だった。

しかし、ビエンナーレを見に訪れたヴェネチアで、ちょうどダミアン・ハーストの個展「Treasures from the Wreck of the Unbelievable (難破船アンビリーバブル号の宝物)」をやっていたので、見てみることにした。パラッツォ・グラッシとプンタ・デル・ドガーナの2つの建物をフルに使った大規模な展示。

どちらから鑑賞してもいいが、私はまず、プンタ・デル・ドガーナへ。サンタマリア・デッラ・サルーテ教会のすぐそば、運河に面した先端にある。

ここを初めて訪れた私は、建物の前にある白い彫刻を常設だと思い、横目で見てスルーしてしまったのだが、実はここからハーストの展示が始まっている。

「2008年、東アフリカ沖で難破船の遺骸が発見された。船は奴隷の身分から脱出して財を成した伝説の人物、アモタン2世。その財宝が2000年ぶりに引き上げられた。修復前でサンゴなどが付着したままの彫刻のほか、改修された一連の財宝の複製品も展示されている。」

という説明を読んでから、観賞スタート。

なるほど、サンゴが付着したままの石像。良くできてる。奥には、同じようにサンゴが着いたクマの上に人が乗った銅像もある。と、この辺までは、何の疑問も持たずに鑑賞するのだが、進むうちに分からなくなってくる。

え、この貝殻、本物?
 
他にも、特に手を加えられていないエジプト風の胸像や、難破船から引き揚げられた(と思われる)金貨や財宝のレプリカなど、考古学博物館のような展示が続く。明らかにハーストが作ったとわかるサンゴ付き彫刻や、ご丁寧にそれを引き上げているダイバーの映像も混ざっているのだが、一体この展示って、どこまでが本当なの?と、虚構と思っていた設定が崩されていく。


まさにそれが、ハーストが狙っていたことなのだ。

難破船の話は100%虚構。展示物も全て、ハーストが作った現代の作品。それを知ると改めて驚愕する。それらの制作にかかった年月と労力とコストは膨大であることが想像できるからだ。

プンタ・デル・ドガーナを見た後、観光客で混雑する水上バスで対岸に渡り、パラッツォ・グラッシへ。

一歩入って、また驚愕した。

通常の美術館に収まるレベルを超えた巨大な銅像。そのスケールにただ圧倒される。パラッツォ・グラッシのこの展覧会のホームページには、制作過程のビデオがあったが、それを見るとその巨大さが良く分かると思う。


ちなみに、海底からサンゴがついたまま引き上げられたガンダムは、20センチくらいの高さだった。隣にはミッキーマウスもいた。

二つの会場を見終わって、ハーストが好きかどうかと問われるとまだわからないが、観客を引き込む(だます)ストーリーテリングの力と、大きさも作品数も含めたそのスケールは、ただすごいと感心し、見方が変わったことは確か。

この展覧会は2017年12月3日まで開催しているので、ヴェネチアを訪れるならぜひ立ち寄って頂きたい。




ヴェネチア・ビエンナーレ2017 ②アルセナーレ

ヴェネチア・ビエンナーレのアルセナーレ会場は、ビエンナーレのキュレーターが選んだ世界中のアーティストたちの作品が展示されている。今年のタイトルは「Viva Arte Viva」、芸術万歳。特定のテーマを決めるのでなく、アーティストと一緒に作るビエンナーレというコンセプトで、作品はアーティストに委ねられた。それをアルセナーレでは7つのチャプターに分けて展示している。といってもチャプターごとに明確な区切りがあるわけではなく、意識せずに鑑賞しても問題ない。実際、形態も多様でそれぞれメッセージにあふれた作品を見て進んでいくうちに、チャプターのことは忘れてしまう。

何といってもアルセナーレは建物そのものが絵になる。12世紀から第二次大戦後まで造船所として使われていた、900年以上(!)の歴史を持つ建物。日本の平安時代からあったと思うと、驚愕する。


レンガが露出した太い柱が並ぶ真っすぐな回廊。この空間で作品を展示できることは、アーティストにとっては名誉以上の喜びに違いない。どんな美しい会場も、歴史の威厳には敵わない。


下の写真手前は、具体美術の松谷武判氏の作品「Venice Stream」の一部。床にある球体と周りの黒い円は、天井から吊るした袋の小さな穴から、会期前に墨汁を垂らして描かれたもの。

モロッコのYounes Rahmounの作品は、薄暗い部屋の床に置かれた77個の毛糸帽が、それぞれ光を覆っている。77という数字は信仰のレベルを示すものだそう。毛糸帽は伝統の象徴で、その下に隠された光は覆いを外されるのを待っているという例えらしい。


中国のLiu Jianhuaの金色の陶板を並べた作品も、外光を浴びて美しい空間を作っていた。

ビデオインスタレーションで人気だったのは、アメリカのCharles Atlasの「The Tyranny of Consequences, 2017」。大きなスクリーンで複数の夕陽の映像がシンクロし、横に置かれたデジタル時計がカウントダウンする。

7つのチャプターを通り過ぎると、常設パビリオンを持たない各国の展示が続く。アルゼンチンの馬と少女の作品はストーリーに引き込まれそうな迫力があった。

ここでは紹介しきれないたくさんのハイレベルな作品を観賞し、軽い疲労と充実感に満たされて会場を後にした。さすがヴェネチア。Viva Arte, Viva! 



ヴェネチア・ビエンナーレ2017 ①ジャルディーニ

2年に一度、半年間続くアートの祭典、ヴェネチア・ビエンナーレ。第57回の今年は5月13日から11月26日の開催。もう残すところ2か月半だが、秋になるこれからがアート鑑賞には適したな季節。観光客の数も夏のピークを過ぎている(とはいっても、人は多い。)

メイン会場は古い造船場だったアルセナーレと、庭園のジャルディーニ。いずれもかなり広く、ハイペースで見てもそれぞれ3時間はかかるので、全部じっくり見るには二日は欲しいところ。48時間チケットを買って、両会場を自分のペースで見るのがいい。更に、サテライト展示が市内のあちこちであるので、通りかかったら入ってみると、思わぬ面白い展示に出会えたりする。

今でこそあちこちで「ビエンナーレ」が開催されブームの感があるが、19世紀終わりの1895年に開催されたヴェネチア・ビエンナーレがその起源。近代オリンピックの第一回がアテネで開かれる前年のこと。ヴェネチア・ビエンナーレは、国別のパビリオンの展示が中心で、各国の代表アーティストが賞を競うことから、「アートのオリンピック」とも称されるそうだが、賞は会期の始めに発表されているので、一般の観客にとっては「アートの万博」的感覚のほうが近いのではと思う。

ジャルディーニには日本を含む30の常設の国別パビリオンがある。パッと見てその国とわかる展示はそう多くはないが、美しい流線型に納得したのはノルディック3か国(フィンランド、スウェーデン、ノルウェー)のパビリオン。さすが北欧デザイン。

日本パビリオンの展示は岩崎貴宏氏の「Turned Upside Down, It's a Forest」。広島出身の同氏の作品では、厳島神社を上下対称にした木のモデルが宙に浮かぶ。タイトルは、ヴェネチアが海底に打たれた無数の杭の上にあり、逆さにすれば森になるという例えになぞらえたもの。日本パビリオンは、鑑賞者が建物の下から頭を出して別の角度から見られることも特徴で、床に置かれた細いワイヤで作った工業地帯のミニチュアが間近で鑑賞できる。作品も建物も、とても日本的な細かさ。

普段見る機会が少ない国の作品を見て、時折考えさせられるのもビエンナーレの醍醐味。何の先入観もなく入ったセルビアの展示では、鮮やかでポップな作風に意表を突かれたが、よく見るとそれは、銃を持って戦う子供をYouTubeにアップするという風刺画だった。内戦やテロが身近な実体験としてある国から発せられたメッセージかと考えた。

一方、ただ笑って楽しめる作品も多数。オーストリアは垂直に立つ本物のトラック。中はらせん階段になっていて上まで登れる。観客も、1分間作品の一部になりましょう!というコンセプトの参加型アート。

ロシアは派手なマルチメディアアート。アプリを使うと見えないコンテンツが作品に重なって見えるAR体験も。
ジャルディーニのセントラル・パビリオンはアーティスト別の展示。入口を飾る大きな布も作品の一つ。Sam Gilliamの「イヴ・クライン・ブルー」。
セントラル・パビリオンは、「Artists & Book」と「Joys & Fears」の二つのチャプターに分かれ、アルセナーレの7つのチャプターに続いている。Artists & Bookは本をテーマにした展示。

クオリティの高い作品はたくさんあり、とても全部は紹介できないが、妙に印象に残ったのは、ロシアの女性アーティストの「Tightrope」というビデオ作品。二つの岩山の間に渡したロープの上を、ひとりの男性が綱渡りする映像だが、一つの山にあるラックから絵画を取り出し、それを手に持ってバランスを取りながら渡り、向かいの山のラックに移すという、意味が分からないスリリングさ。作品解説を読んだが、それでも正直よくわからなかった。アートはその人の中で作られるもので、他人が全てを理解することなんて無理だと思っている。それでも印象に残るものは、すでに成功しているのかもしれない。

2017年6月10日土曜日

上海の新アートスポット Fosun Foundation Art Center

行くたびに何かしら変化がある上海で、また一つアートスポットを見つけた。

外灘(バンド)にできたThe Bund Finance Center(BFC)というビジネス&リテールコンプレックスに2016年11月にオープンした「Fosun Foundation Art Center」。

建物はあのフォスター+パートナーズと、2012年ロンドンオリンピック聖火台などを手掛けたトーマス・ヘザーウィックによるデザイン。3層の不規則なレイヤーで覆われている。

1階部分はオープンなカフェになっていて、その上がアートスペース。2フロアを使い、イギリスのアーティスト、ジュリアン・オピーの個展を開催していた。


最初のフロアは、牧歌的な自然や動物たちがオピー独特のシンプルな線で描かれた空間。

スタティックな作品の他、風景画のようで、よく見ると羊たちが動いているような遊び心あるデジタル作品が並ぶ。

もう一フロアは、摩天楼とそこに暮らす人間たちが中心。

テラスに出て、この建物を覆う特徴的なレイヤーを内側から間近で見ると、竹をモチーフにしていることがわかる。

屋上には、宮島達男のカラフルなデジタル数字が埋め込まれた「カウンター・スカイ・ガーデン」があるそうだが、この日は残念ながら公開していなかった。

今後、レアンドロ・エルリッヒ(金沢21世紀美術館のプールが有名)や、三次元幾何学アートのフェリチェ・ヴァリーニのプロジェクトも予定されているとのこと。上海での楽しみが増えた。



2017年5月27日土曜日

FUTURE WORLD @ アートサイエンス・ミュージアム

シンガポールのマリーナベイ・サンズにあるArtScience Museum。ひときわ目を引くハスの花の形をした建物が、本物の蓮の池に囲まれている。外から見るとどんな構造になっているのか想像がつかないが、中に入ると意外と展示スペースは広い。

ここで見るべきは、2016年3月から常設展示されている、チームラボの「FUTURE WORLD  Where Art Meets Science」。

チームラボの作品は最近、東京の森美術館の「宇宙と芸術展」でも、ハワイのホノルル・ビエンナーレでも見る機会があったが、ここは広いスペースを「ネイチャー」、「タウン」、「パーク」、「スペース」の4コーナーに分けての集大成的な展示。

「ネイチャー」コーナーの最初の暗室に入ると、扉が閉められ、壁、床、天井全面を使って映像が投影される。映像は目まぐるしく回り、重力を忘れ、その空間を自分が飛び回っているような感覚になる。



例えは極めて古いが、昔の遊園地で「ビックリハウス」というアトラクションがあった。小さな家の中の椅子に座ると周りの壁が上下にぐるぐる回転し、自分が家の中で回っているような感覚になるという、今考えると笑っちゃうくらいアナログな仕掛けだが、子供にとっては楽しかった。それが進化を遂げた、21世紀のデジタル版だと思った。それも子供だけではなく、大人も楽しめる映像美があるところが、最大の進化。

続く「タウン」と「パーク」は、家族連れで楽しめるコーナー。自分で描いた絵をスキャナーにかけると大きなスクリーンに出てきたり(これはホノルル・ビエンナーレにもあった)、子供が自ら参加してアートとデジタルに興味を持てるようになっている。

カラフルで大きなボールは、いつも色を変えながら光っていて、床にあるボールを手で押して転がすと「ころころ」と声を出して歌う。それも日本語で!(これは、日本人としては是非試して頂きたい。)

そして最後のコーナー「スペース」の作品は「クリスタル・ユニヴァース」。タイトルの通り、光輝くクリスタルの空間を歩く、ファンタジックな体験。

大人も遊べるデジタルアート遊園地のような楽しい展示だった。

ナショナル・ギャラリー・シンガポール

2006年に最初のビエンナーレを開催して以来、シンガポールは金融やビジネスにおける位置づけと同様、アートにおいてもアジアでの存在感を高めようとしてきた。2012年には現代アートギャラリーの複合施設「ギルマン・バラックス」もできたり、それなりに話題も提供してきた。

そんな中で、シンガポールの近現代美術を俯瞰で見られる美術館ができたのは、自然な流れだったろう。

2015年11月にオープンした「ナショナル・ギャラリー・シンガポール」は、シンガポールと東南アジア美術のパブリックコレクションとしては最大の8000作品以上を保有する美術館。以前の最高裁と市庁舎の建物をつなげて内部をリノベートし、クラシカルさを残しつつ、明るい外光が天窓から吹き抜けに差し込む現代的なスペースに生まれ変わった。


館内はシティホールウィングとコートウィングとに分 かれ、複数の企画展が開催されているが、全て見る時間がなければ、まずメインのDBS Sinrapore Galleryへ。オープン時からの長期企画として、19世紀以降のシンガポール美術を展示している。400点近い作品が時系列で展示され、イギリス統治下のシンガポールで、アートが海外から受けた影響とともに、シンガポールの変遷を追う。


雨が降っていなければ、屋上のルーフガーデン・ギャラリーへ。2016年11月から、ベトナム生まれのデンマーク人アーティストDanh Vo (ヤン・ヴォー)のコミッションワークを展示している(8月まで)。


建物も内容も、シンガポールらしい良さが出ている美術館だと思う。


2017年5月5日金曜日

南インドのビーチリゾート Niraamaya Surya Samudra

インド最南端に近いトリヴァンドラム(最近の正式名称はティルヴァナンタプラム)には、ビーチリゾートと、アーユルヴェーダ・リトリートが数多くある。

Niraamaya Surya Samudraまでは空港から約30分。黒と黄色のトゥクトゥクがたくさん走る市街地を抜けていく。


リゾートは南国のジャングルを背景に、アラビア海に面した斜面に建つ。敷地内は緑にあふれ、南インドの自然を満喫できる。


石段を下りていくとプライベートビーチもあるが、波はかなり高めで、泳ぐのはちょっと無謀な感じ(誰も泳いでなかったし)。ビーチでただのんびり過ごすのが正解。ビーチには時々、牛もさらっと遊びに来るのが、さすがインドだと思う。

Niraamayaにはインドのベストスパに選ばれた大きなスパがある。ドクターが常駐し、本格的なアーユルヴェーダトリートメントが受けられる。


正統派の木のベッド。(硬いのが苦手な人は、希望すれば柔らかいマットを引いてくれる。)西洋式と違い、男性には男性が、女性には女性が施術をするのが決まり。

トリートメントが終わると、黄色い粉を額につけてくれた。


南インドは、忙しく観光するより、ゆっくりリチャージしに来るのに向いている。食事やマッサージやヨガで、とことん体にいい滞在をしようと思えば、そうできる。自分に合ったリトリートを見つけて、リピートするのも悪くないと思う。